第21話「違和感発見」
夕陽は校舎の端に沈みかけ、
風がフェンスを揺らす音が屋上に響いていた。
陽斗は階段を駆け上がり、
息を切らしながら屋上の扉を押し開けた。
透子に言われた通り、
“フェンスの揺れ”を確認するためだ。
(……白石さん、すごく焦ってたな)
昨日よりも、
今日の透子は明らかに苛立っていた。
“分からない”という事実が、
彼女の中で何かを刺激しているのだろう。
陽斗はフェンスの前に立ち、
金属網の揺れをじっと見つめた。
風は強く、
フェンスは一定のリズムではなく、
不規則に揺れている。
(……昨日と同じだ)
揺れ方は変わっていない。
なのに、光の足跡は“走るように”動いていた。
(じゃあ……原因はフェンスじゃない?)
陽斗はフェンスの向こう、
校庭の端に目を向けた。
夕陽がフェンスの金属を赤く染め、
その反射光が点々と地面に落ちている。
(……あれ?)
陽斗は目を細めた。
フェンスの反射光が、
地面に“点”として落ちているのは分かる。
だが──
(……点の位置が、昨日と違う?)
昨日は、
フェンスの反射光は“窓側”に向かっていた。
しかし今日は、
反射光が“校庭の中央”に向かっている。
(風向きが違う……?
いや、そんな単純じゃない)
陽斗はフェンスに近づき、
金属網の角度を確かめるように手を添えた。
その瞬間──
陽斗の指先に、違和感が走った。
(……え?)
フェンスの一部が、
“わずかに曲がっている”。
昨日は気づかなかった。
だが今日、陽斗の指先は確かにそれを捉えた。
(これ……誰かが触った?
それとも……)
陽斗はフェンスの“曲がった部分”を目で追った。
曲がりは、
フェンスの上から下へ、
斜めに走っている。
まるで──
“何かがフェンスにぶつかった跡”のように。
(……これ、光の足跡と関係ある?)
陽斗は胸がざわついた。
フェンスの曲がりは、
反射光の角度を変える。
反射光の角度が変われば、
廊下に映る光の位置も変わる。
(昨日と今日で動きが違ったのは……
フェンスの角度が変わったから?)
陽斗は息を呑んだ。
(でも……なんでフェンスが曲がってるんだ?
誰かがぶつかった?
それとも──)
そのとき、
背後から声がした。
「相沢くん」
陽斗は振り返った。
透子が立っていた。
息を切らしている。
走ってきたのだろう。
「……遅いわ」
その声は、
昨日よりもさらに冷たかった。
陽斗は慌てて言った。
「し、白石さん!
フェンス……曲がってる!」
透子は一瞬だけ目を見開いた。
「曲がってる……?」
陽斗はフェンスの“斜めの歪み”を指さした。
「ここ。
昨日は……たぶん、こんなじゃなかった。
反射光の角度が変わってるの、
これのせいじゃないかって……」
透子はフェンスに近づき、
指先で金属網の歪みをなぞった。
そして──
小さく息を呑んだ。
「……本当だわ」
透子の瞳が揺れた。
「フェンスの角度が変われば、
反射光の方向も変わる。
廊下に映る光の位置も……
“走るように”見えることも……」
透子は言葉を切り、
夕陽を見つめた。
「……でも、誰がこんなことを?」
陽斗は言った。
「ぶつかった……とか?」
透子は首を横に振った。
「こんな曲がり方、
“偶然”じゃ起きないわ。
これは……意図的よ」
陽斗は息を呑んだ。
(意図的……?
じゃあ、誰かが……)
透子はフェンスから手を離し、
静かに言った。
「相沢くん。
この現象……“誰かが作ってる”可能性がある」
夕陽が沈み、
屋上に長い影が落ちた。
透子の影は、
風に揺れるフェンスの影と重なり、
ゆっくりと歪んでいった。




