表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの悪魔は迷探偵  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/66

第19話「屋上調査」

 四月の八日目。

 夕陽が校舎の壁を赤く染める頃、

 一年三組の廊下にはまだ“光の足跡”のざわめきが残っていた。


 「何だったんだろうね、あれ……」

 「マジで怖かった……」

 「動画撮ればよかった!」


 生徒たちが口々に話しながら階段へ向かう。

 その中で、陽斗は透子に腕をつかまれたまま、

 半ば引きずられるように廊下を歩いていた。


 「し、白石さん……どこ行くの……?」


 「屋上よ」


 透子は振り返らない。

 その声は、いつもより少しだけ硬かった。


 「光源を確認するの。

  あの現象は“廊下だけ”では説明できないわ」


 陽斗は心臓が早くなるのを感じた。


 (……白石さん、怒ってる?

  いや、怒ってるというより……苛立ってる?)


 透子が“分からない”と言ったのは初めてだった。

 その事実が、陽斗の胸に妙なざわつきを残していた。


 


 階段を上りきると、

 屋上へ続く鉄扉が夕陽に照らされていた。


 透子は迷いなく扉を押し開ける。


 ギィ……と金属の軋む音が響き、

 冷たい風が二人の頬を撫でた。


 屋上は広く、

 フェンス越しに校庭と住宅街が見渡せる。

 夕陽は校庭の端に沈みかけ、

 フェンスの金属が赤く光っていた。


 透子はフェンスの前まで歩き、

 風で揺れる金属網をじっと見つめた。


 「……やっぱり、反射光が強いわね」


 陽斗も横に立つ。


 「これが……光の足跡の原因?」


 透子は首を横に振った。


 「反射光だけなら“点”にしかならない。

  あれは“歩幅”があった。

  人間の歩き方に近い動きだった」


 透子はフェンスに手を添え、

 揺れの周期を確かめるように指先を動かした。


 「風の揺れ……周期が不規則。

  でも、廊下の光は“規則的に”進んでいた。

  矛盾してる……」


 透子は眉を寄せた。


 その表情は、

 “分からないことが許せない”彼女の本性が

 さらに強く表に出ていた。


 陽斗は思わず聞いた。


 「白石さん……そんなに気になるの?」


 透子は陽斗を見ずに答えた。


 「気になるに決まってるでしょう。

  “説明できない現象”なんて、気分最悪よ」


 その言葉は冷たく聞こえたが、

 どこか焦りのようなものも混じっていた。


 陽斗は胸が少し痛くなった。


 (……僕のことは“恋愛はない”って言ったのに、

  こういうときだけ頼られるの、ずるいよ)


 でも、

 それでも透子の横に立ってしまう自分がいた。


 


 透子はフェンスから離れ、

 屋上の中央へ歩き出した。


 「相沢くん、そこに立って」


 「えっ、ここ?」


 「違う、もっと右。……遅い」


 陽斗は言われるままに動く。


 (なんで僕、こんな扱いなのに……

  ……でも、なんか嬉しいんだよな)


 透子は陽斗の立つ位置と夕陽の角度を見比べ、

 何度も首をかしげた。


 「……角度が合わない。

  光源がここなら、廊下の足跡は“逆方向”に進むはず。

  でも実際は──」


 透子は言葉を切り、

 夕陽を見つめた。


 「……何かが、光を“曲げてる”。

  でも、そんなもの……」


 透子は唇を噛んだ。


 陽斗はその横顔を見て、

 胸がぎゅっと締めつけられた。


 (白石さん……こんな顔、するんだ)


 透子は普段、

 何でも分かる人間のように見える。

 でも今は、

 “分からないことに苛立つ普通の中学生”の顔だった。


 陽斗は思わず言った。


 「……僕、何か手伝える?」


 透子は一瞬だけ陽斗を見た。

 その瞳は、夕陽を映して揺れていた。


 「ええ。

  あなたには“動いてもらう”役があるわ」


 「どう動く……?」


 「そうねぇ…

  光の足跡は“人の歩幅”に近かった。

  だから──」


 透子は陽斗の腕をつかんだ。


 「相沢くん、廊下まで走って。

  今すぐ」


 「えっ!? また!?」


 「急いで。

  夕陽が沈んだら、もう再現できない」


 陽斗は訳も分からず走り出した。


 夕陽の光が、

 二人の影を長く伸ばしていた。


 透子はその影を見つめながら、

 小さくつぶやいた。


 「……必ず解明したい。

  あの“光の足跡”の正体を」


 その声は、

 風に消えずに屋上に残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ