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利剣一閃アヤカシ殺し  作者: 子守家守
鎌鼬と落武者
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 その後、部屋に運ばれた夕餉を食べ終えて、濡れた布で身を清めた。

 出来れば風呂に入りたかったが、あまり長く部屋を空けるわけにもいかない。残念だが、今日のところは諦めるしかないだろう。

 一息ついて、身体をほぐし、壁を背にして胡坐をかく。

 目を閉じると、睡魔はすぐに襲ってきた。それほど時間を置かず、意識がすとんと落ちる。


 気が付くと、視点が天井にあった。部屋を俯瞰している。壁際には、瞼を閉じた自分の姿が見えた。

 驚きはしない。身体は眠っているが、意識の一部が起きているだけだ。警戒を保ちつつ休息を取る術を、自分は身につけている。

 浮遊した視点で、眠っている自分を観察する。壁に背を預け、身体の正面を部屋の中央に向けている。左手の指が自然な力加減で愛刀の鞘を握っていた。

 それでいい。布団の上の大男に動きがあれば、すぐに反応できる。


(さて……)


 頭の中の起きている部分で一日を振り返る。調査の状況を纏めなくては。

 正直なところ数日の空振りは覚悟していたのだが、意外なことに、妖怪の捜索は順調に前進している。初日の成果としては上々といっていいだろう。

 言うまでもなく、サナの協力を得られたためである。彼女の持つ知識と情報があれば、食糧庫荒らしの犯人はいずれ見つけることができるはず。

 彼女の正体と言動に怪しいところがあるのは確かだが、少なくとも、妖怪の捜索については嘘偽りなく取り組んでいるように思う。


(なら、どうして、彼女は自分と協力しようと思ったのか)


 推測は出来る。

 余所者、それも年頃の女が妖怪騒ぎについてあれこれ詮索するのは悪目立ちが過ぎる。宿場の人間も素直に情報を口にするとは限らないだろう。

 それでは困る、と彼女は考えた。

 つまり、自分は彼女の代わりに矢面に立って情報を聞き出す役を期待されているわけだ。そのこと自体に不満はない。ただ……。


(となれば、やっぱり、かまいたちを()()()()()が問題か)


 情報が集まり、かまいたちの居所が知れれば、サナがこちらに協力する必要もなくなる。彼女は妖怪を故郷に連れて帰る、なんて言っているが、果たしてどこまで信用していいのやら。

 悪い方向に考えるのであれば、かまいたちが見つかった瞬間、彼女が敵に回るということもあり得る。もし、彼女が不意を打って襲い掛かってきたら、自分は対応できるだろうか。

 斬り合いや取っ組み合いであれば、負ける気はしない。だが、彼女の懐の内側は、どうにも得体が知れなかった。奇妙な短筒や、落ち武者を眠らせた暗器(と思しきもの)。実際に自分が知りえたのはその二つだが、他にも得物がないとは言い切れない。


(何かされる前に腕を押さえるか、斬る。あるいは……)


 着物を奪い取る。

 ……という想像は思考の外に蹴り飛ばした。まったくもって現実的ではない。彼女の白い肩の稜線を幻視したが、気の迷いもいいところである。

 意識だけで、溜め息。

 呆けたことを考えてどうする。最悪を想定するなら、サナとかまいたちが揃って襲ってくる可能性だってあるのだ。もしそんなことになれば、尻尾を巻いて逃げるしかないだろう。


(けれど、それはあくまで妖怪を見つけた後の話。今、気がかりなのは……、消えた侍の行方だ)


 そう。妖怪の捜索が進んでいるのに反して、行方不明になったという侍の手掛かりはとんと得られていない。こちらはサナの助力もあまり期待できないだろう。彼女の目的は、あくまで妖怪の確保なのだから。

 手掛かりは自力で探さなくてはならない。なにか、調査の取っ掛かりはないだろうか。


(少なくとも、一週間は宿場で調査にあたっていたんだ。関わっていそうな町人に話を聞いてみるか)


 宿の番頭か、見回り衆か。自分の顔見知りで話を聞けそうなのは、この二人くらいだ。明日にでも侍の行動について詳しく聞いてみるとしよう。あまり期待しすぎてもいけないが、なにか得られるものがあれば御の字だ。


(しかし、そうか。それなら、今朝、出かける前に話を聞けばよかったな。もっと落ち着いて行動していれば別の情報も……)


 そこまで考えて、なにか引っ掛かった。

 否。本当にそうだろうか。

 宿場で聞き込みをして、街道を調べに行く時間がずれれば、サナと出会うことはきっとなかった。そうなれば、かまいたちの捜索も今とはまったく違う状況になっていただろう。

 もっと遡れば、昨晩、夜道でかまいたちと遭遇していなければ、自分は街道を調べようとも思わなかったはずだ。あるいは、夜道を歩くことになってしまったのも、道中の茶屋で時間を潰し過ぎたことに遠因がある。

 そうだ。今の状況は、様々な偶然が折り重なって成立しているものなのだ。


(偶然? ……本当に?)


 出来過ぎなのでは、と自分の疑心が囁く。

 三日月に持ち上がったサナの口元を思い出す。

 彼女は言った。偶然はただの偶然で、意味などない、と。


(私は、偶然に理由を見出そうと躍起になっているのだろうか?)


 どうして。

 偶然ではない方が、いいのだろうか。

 偶然でないなら、必然。

 なにが。

 サナと出会ったこと。

 なにを、馬鹿な。

 もっと実利を考えなくては。

 私を利用するために、彼女は待っていた。

 ありえない。

 あそこに辿り着いたのは、気まぐれと偶然によるものだ。

 ……けれども、彼女なら、偶然を操ることもできるのでは。

 そんな気がする。

 それは、推測か。

 それとも、願望か。


 思考が滑る。

 答えは出ない。

 迷路に迷い込んだ意識が、夜の闇の中でぐるぐると空転していた。

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