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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
盗人の顛末と碇家の人々 の巻

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八百十九 志七郎、騎獣の事情を考え軟派男に辟易する事

 今居た場所から吉八さんの見世まで、野郎二人は兎も角女の子達を歩かせるにはちと遠い……そう考えた俺は、四煌戌の鞍にお(りょう)ちゃんとおりんちゃんの二人を横乗りで乗せる事にした。


 幸い姉のお玲ちゃんの方は横乗りでの乗馬経験は有るらしく、お輪ちゃんを前に抱く様にして鞍に掴まり安定した姿で上手く乗ってくれている。


 俺は馬には仁一郎兄上が養育している馬を預けている牧場で、引き馬に乗せてもらう体験乗馬の様な形でしか乗った事が無いが、其れでも四煌戌と普通の馬では乗り味と言うか、身体に来る振動の質が違うのは理解出来ていた。


 そんな慣れない犬の背に妹を抱きながらも綺麗な姿勢を維持した状態で乗って居られるお玲ちゃんって割と凄いんじゃぁ無いだろうか?


 とは言え、騎獣への騎乗は武士の特権で有り、必須とされる武芸の一つでも有る。


 自腹では騎獣の中でも最も一般的で、比較的お安い(リーズナブル)と言える馬でさえ、小普請組の者にとっては抱えるには大きすぎる財産だ。


 前世(まえ)の世界の競走馬(サラブレッド)でも血統が宜しく無いとか姿が悪いとか、難要素の有る馬ならば百万円を切る様な事もあり得たが、逆に名馬と目される様な馬は億を超えるのも普通だった。


 その辺の事情は此方の世界でも当然同じで、戦闘用の調教が為されていない普通の馬ならば十両(約百万円)もしないが、軍用戦闘用に調教された軍馬とも成ると十両を切るのは余程の駄馬だけだ。


 逆に名馬と言われるような馬の仔を、名伯楽と言われる様な者が調教を付けたならば、千両箱を積み上げる様な勢いで競売(セリ)が行われるので有る。


 故に小普請組と言われる様な低収入の武家だと自家用馬とでも言うべき物を持つ事は容易では無く、しかも飼い葉代に厩代、更には馬の管理を行う馬方と呼ばれる者を雇う費用も含めた維持費(ランニングコスト)は決して安く無い。


 猪山藩猪河家の様な『大名』ならば小大名と呼ばれる様な最も家格の小さな家でも、其れ等を捻出するのに何ら苦労も無いが、少量の扶持米暮らしの御家人家では自家用馬を持っていると言うだけでも羨まれる程の事に成る。


 ではそうした小普請の家の者が騎乗を学ぶのにはどうするのかと言えば、自家用馬を所有するのでは無く、持っている者から借りて学ぶのだ。


 実際、仁一郎兄上が馬比べで乗っている馬達も、その背に乗せるのは兄上だけ……と言う訳で無く家臣達は勿論、他家の者でも払う物さえ出してくれれば割と誰でも乗れる様にして、時間幾らで貸し出し(レンタル)もしているのである。


 とは言え、この辺の馬の育成は何処の藩でも行っている事で有り、江戸州内には各藩の育成牧場が至る所に有ると言っても過言では無かったりするので、自己所有では無く貸し馬に乗るだけならば、前世の日本で乗馬倶楽部に所属するのよりも圧倒的に簡単なのだ。


 なので『火付盗賊改方長官』と言う立場で御役目料を貰っている碇家の娘が、それ相応の騎乗技術を持っている事は何ら不思議は無い。


 此れが同期の小普請組の家の子達だと、下手をすると男児でも禄に馬に乗れないと言う可能性も有る。


 嫡男や次男までならば兎も角、三男以下の子や娘達にまで馬乗り上手と言える程に乗り慣れるまで、借り馬代を払うのは中々に負担が掛かるからだ。


 更に言えば浪人者とも成ると身分上は武士でも、何処かから禄が出ている訳でも無く、日々の暮らしが精一杯で乗馬技術を磨くのに銭を払う余裕なんか全く無い……と言う感じで当主や嫡男ですらも馬に乗れないと言う可能性は決して低くなかったりする。


 武士としての必須技術を身に着けて居ないから、何時まで経っても浪人者なのだ、と言ってしまうと可哀想かも知れないが、馬に乗れないのでは何処かに召し抱えられて『伝令』の主命が有っても遂行出来ないのだから、やはり必須技術と言われているのは軽く無い。


 で……妹さんがそんな武家の娘として素晴らしい姿を見せているのに対して、兄君はと言えば……


「お(ねぇ)さん、僕達此れから美味しいお菓子食べに行くんだけれども、一緒にどう? 昨日は鬼切りに出て大物仕留めて懐温かいし奢っちゃうよ? アレ予定が有る、そっかじゃぁ仕方ないね」


「ねぇねぇお姉さん、その着物可愛いね! どう? 此れから美味しい茶菓子でも摘みながら柿の葉茶でも飲まない? え? ああ、此れから婚約者と会うのかー、それじゃぁ仕様が無いねお幸せにー」


「其処行くお姉さん! 艷やかな御髪(おぐし)が素敵ですね。僕達此れから妹達に美味しいお菓子を食べさせに行くんだけれども、一緒にどうですか? 勿論僕の奢りで、昨日は大物狩ったから懐には余裕が有るんだよね。芝居見に行く約束? 約束破っちゃ駄目だよね」


「お!? 其処のお姉さん! 八目屋の納豆とは買い物上手ですね! 僕も彼処の納豆大好きなんです! 貴女は納豆に葱入れる方? え!? 卵? うーん、御免なさい僕達合わないみたいですねぇ」


 と、通りを歩いている見目麗しい女性を見かける度に、全力全霊の決め顔を作って軟派ナンパしに行っているのである。


 ……三人と会った時点で両手を妹達と繋いでたのは、彼女達が逸れるのを避ける為じゃぁ無くて、こうして軟派に勤しむ兄を止める為に、妹達()手を繋いで居たんじゃぁ無かろうか?


 しかも無駄に凄いのは、割と人通りの多い中で的確に彼の好みと思しき女性に対してだけ、走って駆け寄る事無く、にも関わらず一瞬で移動して其れをしている事だ。


 先ず間違いなくアレは氣の無駄遣いだ、氣を使って意識加速と視力強化で無数の人間の中から、一人歩きか若しくは側仕えだけを連れた女性を見つけ出し、標的(ターゲット)を見つけたら氣を脚に移し替えて瞬動と呼ばれる技で一気に移動しているのである。


「碇先輩……そう連続で軟派なんかしても、直前に別の女性を口説いてる姿見られたら、次の女性が警戒するのは当然でしょう。せめてもう少し間を開けて別の場所でやりませんか?」


 何よりも凄いのは、断れたと見るや追い縋る様な事はせずに見送って、その直後にはまた別の女性の元へと移動している事だろう。


 当然、そんな誠意の無い軟派なんぞしても、前世日本よりも貞淑が是とされている火元国の女性達が簡単に釣れる訳が無い。


「えー、でも僕って母上似の二枚目だし、一夜の素敵な思い出を求める女性(にょしょう)なら話位は聞いてくれるんじゃぁ無いかな? だって僕って顔が良いし?」


 ……うん、ぶん殴りたい。


 確かに彼は『紅顔の美少年』と言う形容詞が良く似合う……と言うか妹のお玲ちゃんにも良く似た少女とも見紛う整った容貌を持ち、その上で武士としての鍛錬や実戦で培った精悍さを併せ持ち、前世ならば某有名芸能事務所が放って置かないだろう美形(イケメン)だ。


 けれども言動が余りにも軽薄過ぎる、女性に対して誠意が無いと言うか何というか……遊びで口説いているのが有りありとしているのだ。


「兄上……良い加減にして置かないと、母上に報告して京の都のお(はな)様に文を出して貰いますよ?」


 苦言を呈した俺に同情したのか、四煌戌の上からお玲ちゃんが冷めた声でそんな台詞を口にする。


 すると碇先輩は、見る間に顔色を真っ青に変え脂汗をダラダラと流し始め、


「あ、飛華(あすか)の事は今は関係無いだろう!? 京の都にお婿に行ったら女遊びなんか出来なく成るんだから、江戸に居る間位は良いじゃないか!?」


 と……逆切れ(ギレ)としか思えない叫び声を上げる。


「碇先輩、京の都に婚約者が居るんですか?」


 俺は此れ幸いと話題に乗っかって疑問の言葉で話を繋ぐ……下手な鉄砲数撃ちゃ当たる方式の誠意の欠片すら無い軟派が見るに耐えなかったのだ。


「家が京の都に有る碇家の分家だって話はしたよね? その本家には今の所、男児が居なくてね。このまま産まれない様なら僕が婿養子に入って御家を継ぐって話になってるんだよ……」


 幸いと言って良いのかどうかは解らないが、江戸の碇家は家に役職が有る訳では無く、火盗改長官の地位は先輩に引き継がれる物でも無い。


 なので分家碇家は本家碇家存続の為に潰されて当然だ……と誰もが考えている訳だ。


 もしも今後、先輩の許嫁に弟が産まれる様な事が有れば、普通にその()が江戸へと嫁に来て、分家が存続すると言うだけで有る。


 なお何方の場合にせよ、お玲ちゃんもお輪ちゃんも他家にお嫁に行くだけで、婿を貰ってまで分家碇家を存続させる予定は無いと言う。


「はぁ……何処かの戦場で女鬼とでも遭遇しないかなぁ。君の所の信三郎殿……京の都の公家にお婿に行くのに四人も妾として囲ってるんでしょう? 女鬼を討ち取って妾にする分には武士の誉に男の誉で有って、不貞の範疇には数えないもんね」


 幾ら少女と見紛う様な美形でも、中身はヤりたい盛りのお猿さんと言う事か……


「ただヤりたいだけなら、鬼切りで稼いで適当な岡場所なり何なり行けば良いんじゃぁ無いんですか?」


 呑む打つ買うは男の甲斐性で玄人女は浮気には含まない、と言うのが江戸の風潮だが……


「……京の都じゃぁ花街で芸者遊びをするのも浮気の内なんだよ。武家と公家の文化の違いと言う奴らしいんだけれども、本家は京の都に有る所為で江戸の文化よりも京の都の文化を重んずるんだよね」


 残念ながら京の都では、そうした遊びですら浮気として叩かれる物なのだそうだ。


 碇先輩は余程許嫁の女性が怖いのか、深い深い溜息を一つ吐いた後、ただ黙って四煌戌の後ろを歩いて行くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 婿殿な仕事人思い出したww
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