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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
盗人の顛末と碇家の人々 の巻

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八百十八 志七郎、両手に華を見て世知辛さを知る事

 錬武館での稽古も終え、帰り掛けに一寸お八つでも……と、大江戸の街を四煌戌の鞍の上でゆっくり流して居ると、つい先程剣を交えたばかりの少年が両手に華な状態で菓子を商う屋台を冷やかしている姿を見かけた。


 両手に華とは言っても片方は俺と同い年位の()だし、もう一人の方もお連と変わらない位の小さな娘だし、彼が特殊な趣味(ロリコン)だと言う話で無ければ、恐らくは妹さんだろう。


「碇先輩、両手に華で何かお探しですか?」


 四煌戌の背から飛び降りて、俺は彼にそう声を掛けた。


 お八つを探してるのは此方も同じだし、彼等が探している物が美味そうならばソレに乗っかるのも一興だろう。


「ん? ああ、鬼切童子殿、さっきぶりだね。妹達と母上が此の間食べた菓子がまた食べたいって言うから一緒に探して居たんだよ。お(りょう)、お(りん)、此方が此の間のお菓子を父上に持たせてくれた猪山の鬼切童子殿だよ」


 そう言って繋いでいた両の手を離すと、二人の背を軽く押す様にして前へと送り出す。


「お初に御目文字致します、鬼切童子様。火付盗賊改方長官碇 権兵衛ごんのひょうえが長女で名をれいと申します」


 俺と同い年前後の少女にも関わらず、礼節に適った綺麗な礼をしながら姉の方がそう言うと、


「……日輪(ひま)


 妹の方は人見知りなのか、それとも前世(まえ)同様に俺の顔がそろそろ『怖い』と言って良い物になりつつ有るのか、姉の背に隠れる様に移動しつつ呟く様に名前だけを口にする。


 ……前世では女子から露骨に怯えられる様になったのは、中学上がってからだったんだけどなぁ。


 まぁ向こうの友人達(ポン吉と芝右衛門)曰く、俺は常に仏頂面してるのが宜しく無いだけで、笑えば決して女性に嫌われる様な造形では無いと言う事だったが。


 ……曾祖父さんから『顔で手を読まれる様な剣士は三流だ』と表情を消す様に指導受けてたんだから仕方がない。


 とは言え同じ指導を受けてきたポン吉が常に『信楽焼の狸が笑った様な笑顔』で居た事を考えると、表情を隠す(ポーカーフェイス)だけならば作る表情は何でも良いんだよな。


「あはは、ごめんね鬼切童子殿。お輪はどうも他所の人との付き合い方が未だ解って無いんだよね。家の中じゃぁ酔った父上相手にすら平気で毒舌吐く癖に、外に出ると途端に此れなんだから……所謂内弁慶って奴なんだよ」


 どうやら俺の顔が怖かったとかじゃぁ無く、他所の人には基本似たような対応らしいので一寸安心した。


「その癖芝居小屋とか錦絵売りとかで二枚目な男を見つけると、そう簡単に其処を動こうとしないんだから困っちゃうよね」


 やれやれと言いたげに妙に米国風(アメリカン)な素振りで肩を竦めて首を横に降りつつそんな言葉を吐く碇先輩と、図星を射された事が恥ずかしかったのかそんな兄の弁慶の泣き所を蹴ろうとして躱されるお輪ちゃんに其れを笑って見ているお玲ちゃん、兄妹仲は良いらしい。


「可愛らしい妹さん達ですね、家は俺が一番下だし弟分や妹分と呼べる者は居ますけど……血縁の妹って奴は居ないから、その辺の感覚の違いが解らないんですよね」


 武光やらむにお忠と言った弟分に妹分は居るが、彼等彼女等に感じる庇護欲は何方かと言えば『子供一般』に感じる物で有り、血縁故の気安さと言う様な物は何となく無い気がしている。


 中の人が居る俺の感覚としては兄上達も姉上達も総じて年下な認識なのだが、肉体的には此方が年下なので、肉親故の気安さは有るとは思うのだが、弟妹を見る目と言うのとはやっぱり違うと思う。


「大名家だと一族郎党も多いし、そう言う関係の人も其れなりに居るんだろうね。けど碇の家は京の都の本家は兎も角、分家の家は家禄だけなら六十俵四人扶持の御家人格だからねぇ。嫡男の僕にすら乳母や乳母子も居ないんだよね」


 弟分妹分と言う言葉を碇先輩は、年下の家臣家の子達と受け取った様で、そんな返事を返して来る。


 ……と言うか碇家って火盗改の長と言う役職が無ければ小普請組に組み込まれる家格の家なのか。


 いや、家格を問わず実力者だけを集めたのが火盗改なのだから、家格が低いのは何ら不思議も無い。


 寧ろ気になるのは『京の都の本家』と言う言葉だ。


 碇家ってのは元来武家では無く公家なのだろうか? 確か京の都には基本武家は居らず、武家が担うだろう役目の殆どは公家の仕事な筈である。


 猪河家(うち)の御祖母様が屋敷を構えて住んでいるのも、飽く迄も『隠居の老婆』が一人で住んでいると言う体だからこそで、武家が住んでいるとは数えられていない例外枠だ。


「碇本家は幕府と朝廷の連絡役として京の都に常駐する武家で、家禄としては確か六百俵取りの大身だった筈です。お父様は其処の次男だったんですけれども……公家の母に惚れて嫁に貰う為に江戸に来て分家を起こし火盗改に入ったんだとか」


 そんな俺の疑問に答えてくれたのはお玲ちゃんだった。


 彼女の話に依れば、武家と公家で立場は違う物の碇長官とその妻で有るお(ゆう)殿は所謂幼馴染の関係では有った物の、嫡男では無い部屋住みの立場では公家の姫を嫁に取る事等許されない状況だったのだそうだ。


 其処でどうしてもお結殿と結ばれたかった碇長官は、一旗上げる為に江戸へと来てその実力で火盗改へと入隊し、多くの手柄を立てて一番隊隊長の地位を手に入れたのだと言う。


 火盗改に任じられた時点で無禄無役の浪人では無く六十俵三人扶持の御家人として分家設立が幕府から許され、更に隊長に就任した事で御役料として追加で二十人扶持が与えられる様になった。


 しかも一番隊の隊長と言うのは基本的に次期長官と目される者が据えられる役目だそうで、其処まで上様に目を掛けられているならば……と、本家もお結殿の実家も結婚を許したのだそうだ。


 で、その後も順調に手柄を立てて長官に任じられた今の御役目料は、四十人扶持だと言う話なので……分家碇家の年収は六十俵四十人扶持なので、極々単純に計算して大凡四十六両(約480万円)と言う事に成るだろうか?


 けれどもこの計算は米の相場や問屋の取り分を無視した数字なので、実際に手にする収入としてはもう少し少なく成る筈で、此れは役所の重さに対して収入が少な過ぎる様に思える。


 前世の俺が警部で月の給料が額面で四十三万程貰っていたし、夏冬の賞与も加えれば年収は大体七百万円程だった。


 火付盗賊改方長官と言う仕事の職責は、県庁所在地の警察署長よりも軽いと言う事は無いだろうし、向こうの世界の警察での階級で言えば最低でも警視正、この大江戸が東京相当の首都と考えるならば警視長や警視監辺りでも不思議は無い。


 警視正で月収六十万年収九百八十四万円、警視長なら七十万円の千百四十八万円、警視監とも成れば九十万円の千四百七十六万円と言うのが、向こうの世界での警察上層部の収入で、其れに比べると碇家の収入は少なすぎると言って間違いない。


 まぁ向こうの世界の警察官は贈収賄なんぞやらかせば一発で懲戒免職食らうのに対して、此方では賂を頂くのが当たり前な文化なので、禄が少ない分は賂で補いを付けるのが普通なのだろう。


 だが……長官は銭に対して潔癖な性分なのか、其れ共細君に咎められた酒周りの云々故か、賂を取る事を好ましいとは思っていない様で、俺が用意した百両の銭は物の見事に突っ返されてしまった。


 恐らくは家禄がある程度有る事を前提に御役目料が設定されて居て、家禄が少ない家の者が火盗改の長官に付くと言う事自体が想定されて居ないんじゃぁ無いだろうか?


 火元国では基本的に御役目ってのは家に対して与えられ代々継承して行く物で、火盗改の様に家禄の少ない家の者が重責に付くと言うのが例外枠なのだ。


 小普請組に所属する様な低家禄の家では、下手な役目を得るとその職責を(まっと)うするのに掛かる経費が御役目料を上回り赤字に成る様な事も有り得るらしく、仕事の吟味は割と切実な問題だと、小普請組の家の子が志学館で話しているのを聞いた事が有る。


「……(にぃ)様、(ねぇ)様、お菓子!」


 おっと、立ち話が一寸長く成りすぎたか? お輪ちゃんが一寸頬を膨らませながら兄達の袖を引っ張り声を上げる。


「ああ、虎縞焼きを売ってる見世を探してたんでしょう? 案内しますよ先輩、俺も丁度お八つに何を買おうか迷ってた所だったんでね」


 牛酪凝乳(バタークリーム)は食べ過ぎると胸焼けするし連日続けて食べたい物では無いが、数日開けて数個食べるならば美味い物だ。


 と言う訳で今日のお八つを決めた俺は、彼等を案内して吉八さんの見世へと歩を進めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 犬・ヒヨコへもお土産買おう序に僕らにもね
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