表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
盗人の顛末と碇家の人々 の巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

822/1271

八百二十 志七郎、碇家の愛玩動物事情を聞き自省する事

 お(んま)が道を歩けばぽっくりぽっくりと蹄の音がする物だが、一寸大き過ぎる上に首が三つ有るとは言え犬で有る四煌戌は足の裏は肉球のお陰も有って、土を押し固めた江戸の街の道ならば全力で走る様な真似をしなければ大きな足音を立てる事は無い。


 其の為なのか、四煌戌は普通の馬に乗る武士達程周囲に威圧感を与えない様で、街を歩かせていると犬好きと思わしき御老人や、女性に子供達がその移動を邪魔しない程度にだが、どんどんと寄って来る事が有るのだ。


 多分此れが、キリッと引き締まった表情で居る事が多い紅牙だけならば、此処まで無警戒に近づいて来る者達は多くは無いだろう。


 けれども優し気な雰囲気の御鏡と、何処か間抜けで憎めない顔立ちの翡翠が、その左右に付いてるが故か最近では、俺が錬志両館への行き来に合わせて四煌戌達を撫で様とする者まで居る程である。


 で、何故今そんな話をしているかと言えば……


「でっかいわんこ! かーいいね! 兄様! 日輪(ひま)も此の子欲しー!」


 二枚目(イケメン)大好きお(りん)ちゃんが、四煌戌の鞍の上でそんな台詞を口にしてはしゃいで居るからだ。


「犬なら家にも(シロ)が居るし、愛玩動物が欲しいって言うなら庭の池にはペンペンも居るだろう? 騎獣に成るような大物は餌代だって馬鹿に成らないんだぞ? 多分此の子位大きな犬とも成ると下手すりゃ一食で僕が鬼切りで稼ぐ銭を全部食い尽くすんじゃないか?」


 末の妹が口にした我儘に碇先輩は現実的な言葉で否定を口にする。


 聞けば碇家には碇先輩が幼い頃に拾った白と言う犬と、碇長官が盗人の塒から押収して来た卵から産まれた畜将(ジェネラル)企鵝(ペンギン)と言う種の妖怪がペンペンと名付けられて飼育されているらしい。


 畜将企鵝は大妖怪でこそ無い物の、将の名を持つ通り他種族の動物や妖怪を使役する能力を持ち、下手な場所に解き放つと雪だるま式に配下を増やし大きな被害を出しかねない危険な妖怪で有る。


 何の卵か解らなかったので、取り敢えず孵化させたと言うのも凄い話だが、騎獣に成る種類の鳥や妖怪の卵で有る可能性も捨てきれ無かった為に、其の手の専門家を頼ろうと考えて居た所、何故か白がその卵を抱き抱える様にして温め始めたのだと言う。


 後から考えれば、其れは畜将企鵝と言う種族の特性故に白が良い様に操られた結果だとも思えたが、産まれたばかりの雛は其の能力を使って悪さをする様な事も無く、いつの間にやらおれいちゃんが世話をする様になっていたのだそうだ。


 とは言えペンペンのお世話は朝晩に食餌の鰯や鰺と言った魚を二、三匹与えるだけで済むので、毎日の散歩や時折湯で洗わねば臭く成る犬の白に比べれば、全然簡単な作業だと言う。


「白は(にぃ)様の子だし、ペンペンは(ねぇ)様の子じゃない! 日輪も自分の子が欲しいー!」


 ああ成程な……お輪ちゃんとしては、家に居るのは兄や姉の愛玩動物(ペット)で有って、自分の為だけの其れが居ないのが大変不満だとそう言う事の様だ。


「……ペンペンは私の子じゃないわ。あの子は無駄に賢いもの、家で一番偉いのはお母様だって見切ってるわ。其れにあの子が自分の能力を使って暴れないのは、其れをした所でお父様が相手だと一瞬で潰されると解っているから。私だけじゃぁあの子は御せない」


 畜将企鵝と言う妖怪は本来火元国に出現する妖怪では無く、北方大陸の方で見受けられる比較的危険度の高い化け物(モンスター)だと言う。


 流石に『危険指定妖怪』の類程では無いが、其れでもある程度大きな群れを率いる様になった畜将企鵝は村の一つや二つ位ならば平気で壊滅させ、其処で飼育されている家畜や近隣に棲む動物や化け物達を吸収しどんどん群れを大きくして行くらしい。


 無論普通は其処まで巨大な群れに成る前に冒険者に討伐される事に成るのだが、時折辺境の方に出現した個体が居る場合にはそうした大きな騒動に発展する事も稀に有るのだそうだ。


 そんな危険な化け物の卵を盗人如きが持っていたのは、火盗改に塒を襲撃されるつい数日前に襲撃した商家から奪った品の一つだったからだと言う。


 盗まれた見世が解っているならば、通常であれば其処に返還されるべきなのだが、此れが普通の鳥の卵ならば兎も角、化け物の卵と成れば其れは薬種問屋や薬師に錬玉術師と言った一部の免許を持つ者しか扱えない禁制の品と言う事に成る。


 にも関わらず、盗みに入られた其の見世はそうした免許を持って居らず、その入手経路も『抜け荷』だったと言う事で押収されたままになったと言う訳らしい。


 で、他の種族を配下として使うと言う種族の特性上、並の人間よりも頭は良いそうで、周辺に居る程度の動物を集めた所で江戸でも上から数えた方が早い強者で有る碇長官には勝てないと悟り、素直に愛玩動物生活をしている……と言う事の様だ。


 ちなみにその畜将企鵝は小魚だけでは無く、普段から麦酒(ビール)を飲みながら黄表紙を読むと言う様な事もするそうで、本()の身体の構造上喋る事は出来ないが、人間の言葉を完全に理解しているのも間違いないらしい。


 そんな畜将企鵝に顎で使われていた白も、仁一郎兄上の所で稽古(トレーニング)を受けて、企鵝の持つ『扇動』の能力に対して抵抗出来る様になった事で、無事真っ当な飼い犬生活に戻る事が出来たそうだ。


 まぁ武家の家で飼われている犬が只の愛玩犬の座敷犬と言う訳も無く、当然の如く鬼切りの際には猟犬として索敵なんかの仕事をするんだがね。


 それに比べりゃ屋敷の庭に有る池で大人しくしてるだけで餌が貰えるペンペンは、完全に野生を捨て愛玩動物として有る意味幸せに生きていると言えるだろう。


 ……但し、同種族及び類似種族は火元国に自然出現する事は無いらしいので、繁殖行動が行えないと言う点では、可哀想と言えるかも知れないが。


「だーけーどー! 日輪も自分でお世話する子が欲しいの! 欲しい、欲しい、欲しい―!」


 まぁそんな実情は兎も角として、上の二人が其々自分の愛玩動物を飼っていると言える状況を、下の子が見れば自分にもそうした生き物が欲しいと考えるのは有る意味当然の事なのかも知れない。


「だーかーらー! 白やペンペンの餌代だって最近は僕が鬼切りで稼いでるんだよ? 今日のお菓子代だって僕が出してるんだ。家は家禄が少ないからあんまり無駄使い出来ないんだ」


 碇家の家禄は六十俵だと言っていたから、只暮らすだけならば三十俵取りの最下級御家人家に比べれば、倍の実入りでは有るがそもそもとして小普請の家は、家禄だけでは生活するのはほぼ不可能なのだ。


 にも関わらず、武家の者は基本的に副業が許されては居ない。


 小普請組の様な無役の武家と言うのは、町民階級の大工なんかを使う事が出来ない様な普請(工事)の際に動員されたり、大鬼や大妖に率いられた化け物の群れなんかが江戸州近辺に現れた際に動員されると言う感じで、危急の事態に備え待機する立場なのだ。


 故に彼等は常に武を磨き、緊急事態に備えて全力稼働出来る様にして置く義務が有る、家禄と言うのはそう言う待機義務に対して出される対価なのである。


 しかし家禄だけでは生活出来ず副業も認められない……と言うのでは小普請組の者達は緩やかに死して行く他無いと言う事になってしまう。


 が、そうした縛りに囚われない幾つかの仕事が有る、其れは『武に拠って立つ者』で有る武士としての本懐から外れない物で有れば咎められる事は無いのだ。


 その代表格と言えるのが『鬼切り』で有り、その他に上げられるのは『町道場の代稽古』に『特別に認められた口入れ屋に持ち込まれる依頼』等で有る。


 碇家には火盗改の長官と言う役目に対して御役目料の四十人扶持が別途与えられているが、其れは役目を遂行する為に岡っ引きや下っ引きを雇う為の経費なので、家計に入れる事は出来ないのだ。


「どうしても自分だけの動物が欲しいなら、餌代位は自分で稼ぐ事が出来る様になってからにするんだね。僕が鬼切りで得てる稼ぎだって六割は家計に入れてるし、白やペンペンの餌代で更に一割持っていかれてるんだからさ」


 ……小普請の家って本当に世知辛い生活してるんだなぁ。


 でも碇先輩の腕前なら一寸キツい戦場でも十分稼げるんじゃぁ無いか? 猟犬が居るなら索敵で優位に立ち、先制攻撃を取る事も難しく無い筈だ。


 特に先輩の得意技で有る居合術は、先制攻撃での鋭い一撃には定評の有る技だし、相性は良い筈である。


「鬼切りは命懸けの仕事なんだよ? そうそう毎日行く訳にも行かないし、下手すりゃ命を落とす事も有るんだ。僕だって出来るだけの事はしてるんだから、我儘ばっかり言うんじゃないの」


 ……成程な、無理をして多く稼ぐより、安全で且確実に稼ぐ方を選んでいる訳か。


 いやまぁ、命を落とせば取り返しは付かない訳だし、その選択肢は決して間違いじゃぁ無い。


『死ななければ割と何とかなる霊薬(くすり)』を常備し、そう簡単に最悪の自体に至る事が無い……と言う智香子姉上の恩恵が兎に角大きいのだ。


 其れを使う羽目になった事は今の所一度も無いが、其れが有ると無いとでは踏み込める幅が大きく変わってくる事は間違いない。


 俺は自分が極めて恵まれた環境に居る事に思い至り、同時に彼等小普請の家の者が危険な戦場に踏み込まない事を内心で見下していた事に気が付き、自省せねば成らないと深く深く反省するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 競馬新聞で予想してそうなセ界の一位なアイツみたいだ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ