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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
盗人の顛末と碇家の人々 の巻

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八百十六 志七郎、生い立ちを聞き尻事情に恐れ慄く事

 火盗改に話を通してから十日程が経ち、智香子姉上の投薬と桂太郎の介抱の甲斐有って、あの子はやっと寝床から起き上がり普通に生活出来る状態まで回復した。


 その間、四煌戌やヒヨコの為の食餌を取りに鬼切りへと出たり、志学館の授業に参加したりしつつ、合間を見つけてはあの子の生い立ちに付いて聞いたり、今後の事を話たりしたかったのだが姉上達師弟揃って待ったを掛けた為、会う事すら無く今日の日を迎えたのだ。


「あーしの名前は史麻(しま)、西町の孤児院に捨てられてた親の(つら)も知らねぇ下賤の出で御座んす」


 桂太郎曰く、逃げる積りならば今日此の日まで大人しくしてる様な事も無く、多少でも動ける程度に回復した時点でさっさと居なく成るのが普通だと言う。


 しかし其れをせず、こうして俺に向かって額づいたまま、そんな言葉から始まる身の上話をしてくれた時点で、取り敢えずは逃げる様な真似はせず、俺の下で恩を返す積りなのだと想像が付いた。


 ……未だ幼い子供で更に盗人だったとは言え、義賊としての矜持や誇りと言った物が其の胸の中に間違いなく有るのだろう。


 史麻と名乗った其の子の生い立ちは、先日仙城殿が話してくれた火盗改の調べと大筋変わらず、捨て子だった野良氣功使いが後々自分が場末の宿場か湯治場にでも売られ、決して明るいとは言い難い将来を悟り逃亡したのだと言う。


 そして腐れ(スラム)街に居た盗賊団の親分に使い捨ての使いっぱしりの積りで拾われて、思った以上に使える子供(がき)だと盗みの技を一通り仕込まれ、その後氣功使いだと言う事から団の結束を乱し兼ねないと追い出されたのだそうだ。


 ただ其の親分とやらに関して一言も腐す様な言葉を吐かず、史麻自身が義賊の誇りを胸に懐き続けていた辺り、盗人ながらも其れなりに出来た人物だったのでは無かろうか?


 不幸中の幸いと言うべきか、此処最近江戸州内で火盗改が取り逃がす程の大盗賊と呼べる者は山猫以外に話を聞かないので、恐らくは遠国(おんごく)で盗みを繰り返し、其れを江戸に戻って派手に使う……と言う様な行動方針だと推測出来る。


 火盗改は江戸州から出る事は無いし、他藩の捕り方達も武家屋敷にでも入られたならば兎も角、其処らの商家に盗みが入った位では態々遠征捜査まではしないと言うし、恐らくは俺の推測は間違って居ないと思う。


 にしても……頬は痩せこけ目は窪んで居た当初とは違い、売れる子と見做されていたと言うだけ有って、ちゃんと飲んで食べて身綺麗にした史麻の容貌は、確かに前世(まえ)の世界で東京辺りを歩いたならば芸能界への勧誘(スカウト)が呼び止めるのは間違い無いだろう。


 髪の毛はざんばら頭のままだが、其れでも人目を引く綺麗な顔立ちは、そう言う趣味の無い俺の目から見ても、愛らしいとか綺麗だとかそう言う形容詞しか出てこない。


 とは言え、家の姉上達と比べれば流石に一枚劣ると言わざるを得ないが、其れは姉上達が特別と言うべきだろう。


「あーしだって男だ! 初陣も経験せずに陰間茶屋に売られて野郎に媚売って尻を差し出す様な生活はしたくねぇ! んだから逃げ出したんだ! 盗人になっちまったのは……あの場所で生きる為に仕方なかったんだ」


 火元国に置いて衆道……所謂『男色趣味』は決して珍しい物では無い、特に武士の中には『女との関係は家を残す為の不純な物で、真の愛情は衆道にこそ有る』と主張する者達が一定数居る。


 前世(まえ)の世界でも、自身の肉体の性別と自認する精神の性別が食い違っている事に苦しむ者や、同性にしか性欲を覚えず異性に愛情を抱けない者、男女の別問わずその人間性に惚れる者……と愛の形は様々有った。


 しかし其れは明治維新後に持ち込まれた西洋の常識に依って影へと追いやられたが故の事で、江戸期以前の日本で衆道は決して非難される様な事では無く、むしろ割と当たり前の事だった……と言うのは何かの本で読んだ話だったか。


 そうした衆道で特に有名なのは戦国時代の英雄達の中でも、日本人なら絶対知らない者は居ないだろう、彼の『織田 弾正忠 信長』公だろう。


 彼は女性とちゃんと結婚し多くの妾も侍らせ子も多く産ませたが、同時に多くの男性との逸話も残している。


 後に加賀藩の藩主と成る前田家の祖と成る前田 利家との関係や、本能寺の変で共に散った森 成利……蘭丸の方が通りが良いか?……との間柄は、恐らく多少でも戦国時代に関する創作物に触れた事が有れば、見聞きする機会は有ったと思う。


 また前世の世界では一部の宗派を除いて、仏教の僧侶は妻帯を認められて居らず、修行場に依っては女人禁制とされている場所も多々有った。


 其れでも性欲は人で有れば誰でも抱く物で有り、徳を積んだ僧侶ならば兎も角、修行中の若い僧ならば持て余す事も有るだろう。


 そうした彼等の欲望の捌け口となったのは、稚児と呼ばれる寺の雑用を処理する為に雇われた幼い少年達だった。


 此方の世界には仏教と言う教えは無いし、神々に仕える神職の者達も妻帯を禁じられて居たりはしないが、そうした稚児を好む男が全く居ないと言う訳では無い。


 寧ろ武家社会の中では、下手に妾や行きずりの女を孕ませて跡目相続に遺恨を生む位ならば、衆道や稚児の方がなんぼもマシ……と言う風潮すら有ると言う。


 陰間茶屋と言うのは、そうした衆道を嗜む者達が、一次の逢瀬を楽しむ為に向かう……男色版遊郭とでも言うべき場所だ。


 陰間は本来、未だ未熟故に芝居の舞台に上がらぬ若い役者の稽古の場を指す言葉だったのだが、そうした者達は禄に収入が無い物だから副業として男娼と成る者が居り、其れがいつの間にやら男娼を指して陰間と呼ぶ様になった物らしい。


 故に江戸に有る陰間茶屋の多くは、見世に陰間を抱えるのでは無く、芝居の一座と契約し若い衆に稼ぎの場を与える……と言う様な形なのだが、地方に行くと常に芝居の一座が居る訳で無く、見世を維持するには陰間を抱え込む必要が有る訳だ。


 もしも史麻が孤児院から逃げ出す事が無ければ、そうした田舎の陰間茶屋に二束三文で売られた上で、殆ど一生に近い間見世に縛り付けられる事になったのだろう。


 ……捜査四課(マル暴)に配属されてから、紐付き女性(ハニートラップ)に狙われる様な事が多々有ったが、其れと同じ位多く有ったのがそっち(衆道)の気が有る暴力団員(ヤクザ)にそれとなく誘われる事だ。


 どうも前世の俺は強面では有る物の其れなりに整った顔立ちをしていたらしく、日々剣の稽古を欠かさなかった事も有って引き締まった身体付きだった事も有り、あっち側の人達から見ると割と魅力的な男に写ったらしい。


 いや……今思うとアレは女性に引っかからない事から男色家だと思われ、そっち側からの工作を仕掛ける為にそうした趣味の者をけしかけて居た可能性も有るのかも知れないなぁ。


「んでも貴方様はあーしの命の恩人で、あーしが真っ当な道で生きて行く為に頼るべき人物だ。だから貴方様が望むなら身体で返す事も……掘るのも掘られるのも覚悟しやす」


 ……少女と見紛う様な美少年が可愛らしく頬を染めながら吐いたこの台詞に喜ぶ者は、多分此の世界なら幾らでも居るのだろう。


 けれども俺はそっちの趣味は無い、幾ら可愛らしい顔をしていても野郎相手に掘ったり掘られたりする趣味は無い!


「いや俺はそっちの趣味は無い。恩を返すなら仕事をする事で返してくれ、取り敢えず先ずはその垂れ流しの氣をきっちり管理して自在に使い熟す訓練と、最低限自分の身を守れる程度の武芸を身に着ける事からだ。何をさせるにも其の二つが出来なけりゃな」


 何が悲しゅうて通算四十年以上守った童貞を野郎の尻で捨てねばならないのか……いや、本気(ガチ)の同性愛者や性的少数者を差別するつもりは無いよ?


 でもその気の無い者(ノンケ)を平気で食っちまう様な真似は止めて欲しい。


 順当にいけば童貞はお連に捧げるか、もしくは兄上達の様に遊女相手の練習で捨てる事に成るんだろう、其れまでは大事に取っておこう……俺はそう強く心に誓いつつ、尻を狙う者に気をつけようと思ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 男の娘だったのかぁ…… どうりでお孫様が捕まえられないわけだ……
[一言] 男の娘。だったのか(´・ω・`) 七のDTはノクターンに期待するとして 漢を魅せられた分は火盗改に返さないとね。
[良い点] なるほど、前世からの童帝を拗らせる運命とは、かくも凄まじきものよなぁ。 弟分や上の兄は、真っ当(?)なハーレムを築く中、自身には出会いはあっても縁はなく、縁があるのはこんなんばっか、と…。…
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