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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
盗人の顛末と碇家の人々 の巻

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八百十四 志七郎、火盗改の精鋭を知り盗人の境遇に溜息を吐く事

 火付盗賊改方同心、仙城(せんじょう) (ただし)


 火盗改(かとう)は長官が実質『奉行』と同格の扱いで、その下に『与力』と同等の扱いを受ける各番隊の隊長達が居り、更にその配下として同心達と町人階級の捕り方達が居る。


 基本的に武家の役職と言うのは個人の能力では無く『家』に対して与えられる物で有り、奉行の家の子は次期奉行に、与力の子は与力に、同心の家の子は同心に……と、幼い頃からその役職に付く為の教育を受ける事に成るのだ。


 だが純粋に実力だけで集められた上様直属の組織で有る火盗改だけは違う、火盗改の長官や隊長が奉行や与力と呼ばれないのは、其れ等の職と同等の扱いではあるが、其れを御家の子に継がせる事は出来ないと言う差別化故の物である。


 しかし同心だけは他の奉行所と同じく同心と呼ばれるのは、彼等の職責が御家に与えられた物だから……と言う訳では無く、どちらかと言えば『岡っ引き』や『下っ引き』達の取り纏めと言う職分が他の奉行所に居る同心達と同じだから……と言う意味合いが強い。


 とは言え実力主義の火盗改では同心として所属する者達も、手柄を立てる事で隊長格に昇格する事も有り得るし、何だったら町人階級の元犯罪者で有る岡っ引きや下っ引きですらも、実力と手柄さえ有れば士分を得て同心に昇格が認められる事すら有ると言う。


 碇長官が山猫と相対した唯一の人物だと、俺に同行させた仙城 忠と言う男も、元犯罪者でこそ無い物の町人階級の鬼切り者として活動していた所を、碇長官がその活躍を見込んで岡っ引きとして引き入れ、手柄を立てて士分に取り立てられた者だそうだ。


「……俺の親父は盗人でね、火盗改かとうの先代四番隊長に叩き切られたんだ。んでもそう成るって虫の知らせでも有ったんかね、くたばる日の昼間に御袋に三行半を突き付けて強引に離縁してくれたお陰で、俺ぁ縁座に成らずに済んだんだわ」


 何故そんな事を知っているかと言えば、別に俺から聞いた訳では無く猪山屋敷(うち)までの道中暇だったのか、仙城殿の方からそんな台詞と共に身の上を話して来たのである。


 彼の父は山猫の様に他の仲間を持たず独り働きをする訳で無く、逆に特定の盗賊団に所属していた訳でもない……『流れ務め』と呼ばれる依頼や紹介を受けて様々な盗賊団を渡り歩く、そんな仕事をしていたと言う。


 当然そうした『普通では無い』仕事の仕方が出来るのは、並大抵の腕の持ち主では無く、一回限りだとしても其の者を引き入れる事で盗みの成功率が確実に上がる、と言う事実が有ってこその物だったそうだ。


 そして同時に『その腕前を欲して自分を縛り付けよう』とする者が居たとしても、其れを振り払う事が出来るだけの『腕っぷし』を有していたと言う事でも有る。


「恐らくは親父は野良の氣功使いだったんだろうな。火盗改は隊長は勿論、俺達同心や下の岡っ引き連中だって最精鋭、態々隊長が出張って叩き切らな駄目だったんだからよ」


 仙城殿の言葉通り、火盗改は同心が私的に雇っている者達で有る岡っ引きや下っ引きに至るまで実力主義が徹底されており、火盗改で働くだけの能力が無いと判断された者は、解雇されるのが当たり前だと言う。


 とは言え、なんの補償も無くただ『ハイさよなら』と言う訳では無く、多くの場合は他所の奉行所の同心に紹介され、横滑りする形で新たな仕事に付く事に成るそうだ。


 逆に他所の奉行所で務める岡っ引きや下っ引きが、上役の器量を超える様な実力を発揮する様な事が有れば、火盗改の同心に紹介されて雇用される事も有るらしい。


 そんな感じで火盗改は江戸の中でも兎に角『最精鋭』が集り、上から下まで強者達しか居ないと断言出来る者達なのだ。


 恐らくは火盗改の岡っ引きや下っ引きは、猪山藩(うち)の中間者達と同等か其れ以上の実力者で、同心達は猪山藩の若手連中よりは間違いなく上手だろう。


 まぁ……猪山藩の真の強さは江戸で雇われた町人階級の中間者達では無く、国許に居る一般の民の大半が並の武士よりも強いのが当たり前と言う、他藩よその者が聞けば頭を抱えるだろう事実故なのだが。


 兎角、そんな火盗改の下っ引きや岡っ引きを振り切り、同心達ですら相手に成らず、隊長が出張った上で捕らえる事も出来ず、現場で切り捨てる事しか出来なかったと言うので有れば、其れは間違いなく只者では無い強さだったのだろう。


 野良の氣功使いと言うのは、多くの場合直近の父祖に氣功使い──即ち武士が居る。


「親父は一旗上げる積りでどっかの田舎から出て来たらしくて、爺さん婆さんの話は一切聞いた事が()ぇんだが……多分まぁ、氣功使いが盗人なんて外道を生業にしたんだからそ~言う事なんだろうなぁ」


 大概は一夜の過ちだったり夜遊びの結果だったりと、碌でも無い理由による産まれなのだが、稀に数代以上昔の先祖返りだったりする事も有るので、町民の氣功使い=武士のやり捨ての結果とは断言出来ないが……。


 けれども仙城殿の父親が氣功使いと言う、何をするにも有利な能力(ちから)を有して居たにも関わらず盗人と言う人の道を外れた事を生業としたのは、そうした『やり捨て』をしたであろう父親に対する反発だったのではなかろうか?


 前世(まえ)の世界程、医術が発展して居ないこちらの世界では、望まぬ妊娠をしたとして其の子を中絶すると言うのは向こうの世界以上に簡単な事では無い。


 母体と成る女性に掛かる負担は、精神的にも肉体的にもそして経済的にも莫大で、下手をすれば諸共に命を落とす事も有れば、二度と妊娠出来ない様に成る可能性も有る。


 猪河家(うち)に古くから仕える(チート)級産婆で有るおミヤと、其の弟子達の手助けと言う例外が無ければ、普通に出産するのだって命懸けなのが当然なのだ。


 出産の際の苦痛は男では耐えられない程の物だと言うが、中絶は不自然な方法で胎児を殺し、(はら)に残った()の遺体を取り出すと言うのだから、出産の其れと同じか其れ以上の危険が有るのだろう。


 向こうの世界の江戸時代には堕胎を専門とする『中条流』と言う医術の流派が有り、其処の施術を受けるのは可也危険を伴う物だったと言う様な話を何かの本で読んだ覚えが有る。


 こちらの世界には向こうの世界の江戸時代の様な堕胎専門医とでも言うべき者は居らず、遊女達は古くから伝わる『避妊の霊薬』を用いる事で妊娠を防いで居るらしい。


 霊薬で有る以上其れは決して安い物では無く、常用出来るのは吉原に有る様な『お高い楼閣』だけだろう。


 と成れば、比較的安い岡場所や切見世なんかに居る中級遊女や、更に其の下の船饅頭、夜鷹なんかの下級遊女に、各地の湯治場や宿場に居る飯盛り女や湯女(ゆな)なんかの春を鬻ぐ者達は、常に誰とも知らぬ相手の子を宿す恐怖と戦いながら売春(ウリ)の仕事をしている筈だ。


 仙城殿の祖母がそうした所謂『売春婦』なのか、其れ共『武士に手篭めにされた町人の娘』なのかは今ではもう知る術が有るとすれば世界樹(サーバー)の記録を閲覧(アクセス)出来る神仙にでも頼る他ないだろう。


 ……ふと其処まで考えて、気が付いてしまったのだが、山猫を名乗るあの子も仙城殿の父親と同じ様な境遇なのでは無かろうか?


 智香子姉上の見立てでは野良の氣功使いで有る事は先ず間違いないと言う話だし、戦場での稼ぎでは無く盗みと言う選択肢を選んだのは、そうした親に対する反発と言うのも考えられる話だろう。


 あの子を俺の下で使うと決め、其の為に救うと言う体裁を取る以上、今後はそうした境遇と思いに寄り添って、上手く更生する事が出来る様に気を払ってやらなければ成らない。


 此れは暴力団(ヤクザ)を相手にする捜査四課(マル暴)の仕事と言うよりは、非行少年を相手にする少年課の役目だろう。


 警察学校時代の同期に一人少年課に行った者が居たが、俺自身にそちらの経験は無い。


 ただ助けてやれば恩義を感じて忠実な部下に成る……なんてのは物語の中だけの幻想(ファンタジー)だろう。


 手探りでやらねば成らない未経験の仕事が目の前に有る事に気が付いた俺は、本の少しだけ重い気持ちで息を吐き、仙城殿と共に猪山屋敷の門を潜るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鬼斬りパーティへの参加も直ぐにとか無理ですしね 側仕え方式が無難?
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