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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
盗人の顛末と碇家の人々 の巻

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八百十三 志七郎、賂を用意し真偽を疑われる事

「……と言う訳で、山猫は盗みから足を洗いました。今後は絶対に其の様な真似はさせません。俺の配下の小者として扱わせて頂きたい」


 母上に山猫と名乗った子供の事を相談し、彼女が持つ様々な伝手を使って調べて貰った結果、あの子の件で筋を通さなければならないのは火盗改だけだと言う事が解った。


 なんと山猫が盗みに入った大店は殆どが武光が大暴れした結果、不正な人身売買や御禁制の品の取引なんかが明るみになって、財産没収の上で取り潰しとなり更に亭主や悪事に加担していた番頭や手代は獄門と極めて重い処罰が下されて居たのだ。


 更に彼等に従うしか無かった丁稚やそうした悪事で得た金で贅沢していた亭主の女房や子供も連座で死罪……と合計すれば二百人近い人間が既に命を散らして居たので有る。


 正直な所俺は、罪を犯した当人や加担した者が処罰を受けるのは当然の事だとは思うが、逆らう事も許されず命令を受けて唯々諾々と従った丁稚達や、そうした犯罪が行われていた事すら知らない家族までもが処罰される連座や縁座と言う制度が良いとは思わない。


 けれども表沙汰に成れば死罪以上の刑に処される様な罪を犯す者相手には、当人だけでは無く家族も処罰されると言う制度自体が抑止力に成ると言う側面が有るのだろう。


 特に武士にとっては『家』を未来に繋ぐ事こそが第一で有る以上、下手な真似をして一族郎党丸っと縁座と成る可能性を考えれば、そう簡単に犯罪を犯すと言う発想には至らない筈だ。


 とは言え、武家の場合は罪を犯したのが家長ならば其れが明るみに成る前に自ら腹を斬り自裁すれば、多くの場合は家の存続だけ(・・)は許されるし、元服済みの子が罪を犯した場合には勘当する事で縁を切り縁座を避けると言う手段は用意されている。


 町人階級でも裁かれる事を覚悟した上で『己が正義と確信して罪を犯す』誤用では無い方の確信犯の場合には、事前に女房に三行半(みくだりはん)と呼ばれる離縁状を渡す事で、女房子供を縁座から守ると言う方法を取る者も居ると言う。


 兎角、山猫の直接的な被害者は最早この世に居る者は居らず、市井での扱いも悪徳商人に天罰を下した義賊で悪党が居なくなったので姿を消した、今は江戸以外の何処かで悪い商人が悪事を働かない様に天から見張っている……と言う様な話になっているらしい。


 そんな訳で山猫の扱いは捜査を担当し、直接やり合った事も有る火盗改にさえ筋を通せば、あの子を実質処罰無しとした上で、俺が保護観察とでも言うべき処分にする事が出来るのだ。


 其の事を母上から知らされた俺は、筋目を通す為の手土産として今江戸で流行り始めて居る菓子とその下に隠したまいないを手に、火盗改の長で有る碇長官の下に頭を下げていると言う訳で有る。


 なお用意した賂は十両大判十枚……即ち百両(千万円)と子供が持ち出すには少々所では無い大金だった。


 此の手の袖の下の類は、火元国では決して褒められた事では無いとはされているが、筋を通すとか便宜を計って貰った御礼として贈るのが当たり前の事とされている、其の為賂を送った受け取ったと言う事が理由で処罰される事は無い


 但しその職責を利用して賂を露骨に求める様な真似をしたとなると、途端に話は変わって来る。


 出された物を受け取る分には問題が無いのだが、上の者が下の者に求めると言う行為が、職分を越えた命令と言う扱いと見做され、処罰の対象となったりするのだ。


 しかもこの辺の賂の扱いに関して法度の類で規定が有る訳では無く、上司の機嫌を損ね無ければ無問題(セーフ)とかかなりガバガバな取り扱いである。


 なんと求めた事がバレたら処罰の対象だと言う話も、上役に賂を渡して御目溢しして貰うと言うのが罷り通ると言うのだから、流石は法治国家では無く専制政治と言う事か……。


 とは言え、其れにも流石に完全に無制限と言う訳では無い。


 上役の上役にバレて、更にその上役に……と連鎖していけば、辿り着くのは各藩の藩主や、各奉行で、武家社会の一番上に居るのは当然上様だ。


 歴代将軍の中にはそうした賂を是とする者も居たらしいが、少なくとも当代の上様は自分の利益よりも民の幸せを優先する(まつりごと)をして居る。


 そんな彼に賂を渡して不正の御目溢しを願い出る様な事をすれば、逆に逆鱗に触れて腹を切る事も許されず一族郎党連座縁座でお家取り潰し確定だろう。


 火盗改は上様直属の組織で有り、その長官で有る碇様の上に居るのは上様なので、彼が賂を自ら求める様な真似をする事は有り得ない。


 ちなみに今回は猪山屋敷(うち)に有った漆塗りの重箱に大判を並べ、その上に袱紗を敷いてから虎縞焼きを入れると言う形で持って来たが、賂が禁止されていないのだから、態々こんな凝った隠し方をする必要は無いのだが……其処は講談で知ったと言う風にする為で有る。


 まぁ要するに前世(まえ)の世界で良く有る時代劇の『お主も悪よのぅ』と言う奴だ。


 俺の様な子供(がき)が、手慣れた風に賂を持って来る様な真似をすれば、こましゃくれた振る舞いだと逆に心象を害する可能性も有る為、敢えてこちらの世界でも講談や芝居なんかで行われている演出を模した訳である。


 なお代官と言う仕事は凄まじく忙しい役職で、汚職に手を染める暇なんか無い為、実際には時代劇に出てくる様な絵に描いたような『悪代官』と言う者は殆ど居なかったそうだ。


(なし)は解った。確かに此処暫く奴の犯行と思しき盗みは無ぇし、足を洗ったって言うのも事実かも知れねぇなぁ。んだが、お()さんが拾ったって言うその子供が本当にあの山猫だったのかを確かめ()ぇ事には此奴を受け取る訳にも行かねぇやな」


 一通り俺の話を聞いた上で碇長官はそう言ってから、俺の差し出した菓子折りから虎縞焼きを一つ取り出して齧りつく。


 袱紗の下に有る大判に気が付いていない訳じゃぁ無いだろう、敢えて賂で有る銭の事には触れず、その上に乗せた虎縞焼きだけを手にした事で『取り敢えず話だけは聞いてやる』が、其れを受け入れた訳じゃぁ無いと行動でも示しているのだろう。


「……世の中にゃぁ他人(ひと)を庇う為に嘘を付く奴も居りゃぁ、他人を替え玉に仕立て上げる為に嘘を信じ込ませる妙な術を使う輩も居やがるからな。実は本物の山猫は別に居てお前さんが拾った子供に全部罪をおっ被せて本人は高飛びってな線も有り得るからな」


 罪を犯した者の代わりに別の者を出頭させる『替え玉』は、前世の世界でも暴力団(ヤクザ)がよく使う手口の一つだった。


 親分や兄貴分が何か罪を犯した時に、捜査の手が組に及ぶ前に下っ端を自首させて代わりに服役させるのだ。


 任侠映画なんかで出所する者を『お勤めご苦労さんでござんした!』と若い暴力団員(ヤクザ者)達が迎えに行くと言う光景(シーン)は良く描かれる。


 アレは多くの場合『組の為に鉄砲玉として罪を犯した者』か『替え玉として出頭した者』の概ねどちらかで、どっちの場合でも出所後にはそれ相応の地位(ポスト)に付けると言う約束の上で其れ等の犯行を行わせているのだ。


 故にお勤め(服役)を終えた者は最低でも何人かの若い衆を束ねる『兄貴分』の立場を得る為、以前から其の者の下に居た者や新たに下に組み込まれる者が迎えに行くと言う訳で有る。


 だが今回の場合あの餓え死に仕掛けた子供が本物の山猫を庇う理由なんか有るか?


 可能性として有り得るのは、山猫が盗んだ銭をバラ撒いた事で救われた貧困層の家庭の子の場合か?


 いや、だがこの世界では神々が天網で罪と定めた何かを犯せば、其れ等は全て世界樹(サーバー)に記録され、各種奉行所や関所に有る手形を作ったり読み取ったりする道具を使えば『何の罪を犯したか』は確認する事が出来るのだ。


 故にあの子が『盗人(ぬすっと)』である事は先ず間違いない筈である、そして義賊の誇りを持っているからこそ、死にかける程の飢えに襲われて尚も食い物を盗む様な事をしなかったのでは無いだろうか?


 其れ等の事から碇長官の言う様にあの子が真犯人を庇って居ると言う可能性は恐らく無い、だが後者の……何らかの術に依ってあの子が『自分が山猫で有る』と信じ込んでいる可能性は無いとまでは断言出来ない。


「んだからよ、未だその子供がまともに動けない内に火盗改(ウチ)の同心の仙城って奴を連れて行け、彼奴は火盗改で唯一山猫と直接やり合ってるかんな。頭巾を被ってたんで面は解らねぇらしいが、言葉を交わした事で声ははっきり聞いてるかんな」


 ……成程、確かに現場で直接顔を合わせ言葉を交わした者が会えば、真偽ははっきりするだろう。


「で、この糞重たい箱の中身は持って帰って良いぞ。上モノの菓子の方は貰っとくわ。噂には聞いてたが美味いな此れ。女房と子供達にも食わせてやりたい奴だわ」


 俺が納得した素振りを見せた事で、碇長官はニヤリと笑うと重箱の中に入った虎縞焼きを別皿に移すと、大判の入った其れをこちらに押し返したのだった。

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[良い点] 長官はいなせで情も汲んでくれるのか
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