『世界』
「そもそも、神の起源とは一体何なのか。考えたことはないか?」
男は、誰に問いかけるでもなく語り始めた。
何かの思い出から生まれるのか。
あるべき概念として誕生するのか。
それとも、種族の中でも秀でた者こそが神となるのか。
「いいや、どれも違う」
男は、楽しそうに笑った。
「神は、あるひとつの存在によって作り出されたものなんだよ」
そう。
神は、生まれたくて生まれるものではない。
自ら望んでその座に就いたわけでもなければ、自らの意思でその役目を選んだわけでもない。
ただ、作られた。
それだけのことなのさ。
「だからこそ、花神も自分の役目に嫌気が差したんだろうね!」
男は大きな声で笑った。
その声には、どこか退屈しのぎを見つけたような響きがあった。
いや、それとも、本当に面白がっているだけなのだろうか。
彼の表情からは、何ひとつ読み取れない。
「記憶が彼女を旅立たせたことも」
男は、指を一本立てる。
「妖が神ではなくなったことも」
もう一本。
「人形が姿を変え、宿命になったことも」
「妖精が下界に降りたことも」
「法が彼女に忠告をしたことも」
「時が彼女に花を託したことも」
「花が役目を終えて消えたことも」
そして――
「死が彼女を嫌ったことも」
男は、そこで言葉を切った。
「全て、見ていたんだ」
まるで、長い物語を読み終えたばかりのように、彼は満足げな笑みを浮かべた。
「よく頑張ったと思わないかい?」
そう呟くと、男は背を向け、ゆっくりと歩き出す。
「ああ、なんて退屈しない旅だったんだろう!」
弾んだ声が響く。
「最高に面白い!」
けれど、ふと彼は足を止めた。
「……面白い。いや、面白かった、と言うべきか」
その声から、先ほどまでの弾んだ調子が消えていた。
「長いような、短いような。そんな旅物語が終わってしまうことは、悲しいね」
男は振り返る。
そこに浮かんでいたのは、先ほどまでの笑みではなかった。
彼は、どこか寂しそうな表情をしていた。
――さて。
『世界』という名をご存知かな?
男は、ふと思い出したように首を傾げる。
「……ああ、そういえば。法が何か話していた気がするね」
ひとりで納得したように頷いたあと、彼は再びこちらへと向き直った。
「そう!」
まるで、とびきりの秘密を打ち明ける子供のように、男は声を弾ませた。
「神の起源は『世界』。神々を、そしてこの世の全てを作り出した存在こそが、『世界』なんだよ!」
彼は、こちらの反応を窺うように顔を覗き込む。
どうだろうか?
驚いただろうか?
まるで、そう尋ねているかのように。
男は、楽しそうに笑っていた。
そして、男は続けた。
「僕こそが、その『世界』であり、全ての元凶なのさ!」
そう言って、男はちらりとこちらを一瞥した。
まるで、今さら気づいたのかと言わんばかりに。
その表情には、悪びれる様子など微塵もない。
ただ、楽しそうに笑っていた。




