↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代観測録  作者: 音音
PR
35/44

「時」の国 6

花を止めても、何も変わらなかった。

散ることのない花を渡した時、花神は笑ってくれた。

「ありがとう」と。

その笑顔を見て、《現在》は救えたのだと思った。

けれど――違った。

花は、咲き続けている。

それでも、花神の苦しみは消えなかった。

花が散ることが怖いんじゃない。

何度死んでも、また生きなければならないことが苦しいのだと。

なら、花だけではなく、花神自身の時間を止めればいい。

「……やめなさい」

背後から、《未来》の声が聞こえた。

振り返ると、そこには、いつものように静かな顔をした《未来》の神が立っていた。

「何をしようとしているのか、分かっているの?」

「分かってる」

《現在》は答えた。

「花神の時間を止める」

「それをすれば、花神は永遠に現(・)在(・)から出られなくなるのよ」

その言葉に、《現在》は黙った。

現(・)在(・)から出られない。

それが何を意味するのか、分からないわけじゃない。

時間が進まなければ、花神はもう死なない。

花が散ることもない。

けれど同時に――生きることもない。

永遠に、今この瞬間に閉じ込められる。

「……それでも」

《現在》は花神を見る。

穏やかな表情をしている。

けれど、その奥にある苦しみを、《現在》はもう知っていた。

「それでもいい」

《未来》が、わずかに目を細めた。

「それが、本当に花神を救うことだと思っているの?」

「分からない」

《現在》は正直に答えた。

「本当に救えるのかなんて、分からない」

それでも《現在》は、花神へ向かって歩き出した。

「ただ……」

その足を止める。

「今、あいつが苦しんでる」

《未来》は何も言わなかった。

《現在》は、花神の前へ歩いていく。

「俺は、今のあいつを救いたい」

手を伸ばす。

指先に、時間の力を集める。

「……《現在》」

《未来》の声が聞こえた。

止めなさい、と言っているのだろう。

それでも、《現在》は止まらなかった。

花神へ向けて、時間の力を放つ。

その瞬間――世界から、音が消えた。

風が止まる。

花びらが宙で静止する。

花神の髪も、服も、何もかもが動かなくなった。

時間だけが、そこで途切れた。

「……これで」

もう、散らない。

もう、死なない。

もう、苦しまない。

そう思った。

けれど――。

「……っ」

世界が、軋んだ。

止まっていたはずの空気が震える。

何かに弾かれるように、《現在》の力が押し返された。

「な……に……?」

止まりかけていた時間が、再び動き出す。

花びらが落ちる。

風が吹く。

花神の髪が揺れる。

「……なぜだ」

もう一度、力を込める。

けれど――届かない。

何度力を注いでも、花神の時間は止まらなかった。

まるで、見えない何かが《現在》の前に立ちはだかっているようだった。

「……「法」よ」

背後から、《未来》の声がした。

《現在》は振り返る。

《未来》は、静かに《現在》を見ていた。

「この世界には、法(・)がある」

「……法?」

「神であろうと、その法(・)から逃れることはできない」

《現在》は、花神を見る。

「……俺は、神だぞ」

「それでも、よ」

《未来》の声は、どこまでも静かだった。

「神であろうと、法(・)の前では無力」

その言葉を聞いた瞬間、ようやく理解した。

自分には、花神を救う力があると思っていた。

時間を操ることができるのはこのためなのだと思っていた。

花の時間を止めることだってできた。

だから、花神自身も止められるはずだった。

けれど――。

法(・)そのものが、それを許さない。

「……ふざけるな」

拳を握る。

「俺は、あいつを救いたいだけだ」

叫んでも。

力を込めても。

時間は止まらない。

花神は、また生きる。

また、花が咲く。

そしていつか――また、散る。

「……俺は……」

言葉が続かなかった。

その直後だった。

身体に、重い力がかかる。

「……っ」

手足が動かない。

次の瞬間、何もないはずの空間から鎖が現れ、《現在》の両手へと絡みついた。

じゃらり、と鎖の音が響く。

「……離せ」

《現在》は抵抗する。

けれど、鎖はびくともしない。

そのまま、《現在》は無理やり立ち上がらされた。

「行くぞ」

誰かの声がした。

《現在》は、もう一度だけ花神を見る。

花神は、変わらずそこにいた。

《現在》は何も言わなかった。

ただ、最後までその姿から目を逸らさなかった。

そして――鎖に繋がれた《現在》は、そのまま「法」のもとへ連れていかれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。