妖の国 8
朔が出ていった扉を、私はしばらく見つめていた。
遠くから聞こえていたざわめきは、次第に大きくなっていく。
何が起きているのだろう。
気になって、窓の方へ歩いていく。
外を覗くと、先ほどまで穏やかだった妖たちが、何かを話しながら慌ただしく行き交っていた。
「何かあったのかな……。」
そう呟いたときだった。
遠くで、また大きな音が響いた。
――ドンッ。
今度は、さっきよりも近い。
窓が揺れる。
「……っ。」
思わず肩が跳ねた。
外を見ると、遠くの空が赤く染まっていた。
「……火?」
何かが燃えている。
そう思った瞬間だった。
「迷い子!」
扉の向こうから、妖の声が響いた。
私は慌てて扉を開ける。
「どうしたんですか?」
そこに立っていた妖は、息を切らしていた。
「王はどこだ!?」
「……朔なら、外へ……。」
「そうか……。」
妖は険しい顔で辺りを見回す。
「何があったんですか?」
「まだ分からない。ただ……」
妖は言葉を濁した。
その様子に、胸の奥がざわつく。
「……何か、来たんですか?」
妖は答えなかった。
ただ、窓の外を見ていた。
その視線の先から、また大きな音が響く。
私も窓の外を見る。
昨日まで祭りで賑わっていた街に、煙が立ち込めていた。
「……街が。」
私は呟いた。
あんなにも明るかった場所が、炎に包まれていく。
私は自分の手を握りしめた。
「……朔。」
ここにいろ。
そう言われた。
けれど――
「……待っていられない。」
私は部屋を飛び出した。
外へ出た瞬間、熱気が頬を撫でる。
「……っ。」
思わず息が詰まった。
祭りで賑わっていた道が、まるで別の場所のようになっていた。
屋台は倒れ、提灯は燃えている。
家々からは炎が上がり、逃げ惑う妖たちの姿が見えた。
「……なに、これ。」
あんなに綺麗だった場所が。
笑い声があった祭りが。
たくさんの妖が、暮らしていた国が。
それなのに――。
「……朔。」
私は走り出した。
どこにいるのか分からない。
どこへ向かえばいいのかも分からない。
「朔!」
返事はない。
それでも、私は炎の向こうへ走り続ける。
瓦礫を避け、何度も転びそうになりながら、それでも足を止めなかった。
「朔……!」
そのとき。
遠くから、聞き覚えのある声がした。
「千夜!」
「……!」
振り返る。
炎の向こうに、朔がいた。
「朔!」
私は駆け寄ろうとした。
その瞬間――
「危ない!」
朔が叫んだ。
振り返ると、そこには“人間”が立っていた。
手には武器。
その刃が、私へ向けられている。
身体が動かない。
次の瞬間――
朔が私の前に飛び込んだ。
鈍い音がした。
朔の身体が揺れる。
「朔……?」
朔の服に赤が広がっていった。




