表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。─  作者: n217 (嘯江 新)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
160/164

第160話「再び、太陽が応える」

 空から降り注いだ光は、ほんの数秒で消えた。


 眩しいわけではなかった。

 熱を感じたわけでもない。


 それでも――ソウヤは、自分の胸の奥に残った奇妙な感覚を無視できなかった。


「……今の、何だったんだ?」


 誰に問いかけたわけでもない。


 その場にいる全員が、似たような表情で空を見上げていた。

 マスタークラウンとの死闘が終わろうとしている最中。


 突然の通信障害。

 電子機器の停止。

 そして、太陽から降り注いだように見えた光。

 何より奇妙だったのは――。

『ソウヤ』

 頭の奥で、レイの声が響く。

(分かってる)

 ソウヤは自分の胸元へ手を置いた。

(さっき……反応したよな?)

『ああ』

 人格変化。

 能力そのものが。

 一瞬だけ、脈打つように揺れた。

     ◇

「復旧した!」

 タジの叫び声。

 半壊した機材へ向かっていた田島が、猛烈な勢いで端末を操作している。

「通信回線復帰!外部ネットワークも戻った!ハードウェアにも異常なし!」

 柚季が眉をひそめる。

「じゃあ、なんで全部止まったのよ」

「それを今から調べんだよ!」

「役に立たないわね」

「復旧させた直後にそれ言う!?」

 いつもの喧嘩。

 だが、タジの顔から焦りは消えていなかった。

「タジ」

 ソウヤが近づく。

「太陽フレアか?」

 タジの指が止まった。

「……可能性はある」

 その言葉に。

 惣一が振り返る。

 結衣も。

 イレイダも。

 マランも。

 全員がタジを見る。

「でも勘違いするな」

 タジはすぐに続けた。

「能力の起源になった大昔の太陽フレアとは別の話だ。」

「……だよな」

 ソウヤは頷く。


 彼らは既に知っている。


 GENESIS。

 白銀の核。

 名取家に残されていた石板。

 そしてオールドマンの研究。


 そこから辿り着いた――能力者の起源。


 遥か大昔。

 年代すら正確には分からないほど遠い時代。

 地球を襲った史上最大規模の太陽フレア。

 その時、地球へ降り注いだ未知の高エネルギー粒子。

 それが一部の人類へ変化を刻み。

 血とともに受け継がれ。

 長い年月を経て。

 現代の能力者へ繋がった。


 そこまでは――

 もう分かっている。

「問題は」

 惣一が静かに口を開いた。

「なぜ今になって。」

 空を見る。

「我々の能力が一斉に反応したのか。」

 そう。

 謎はそこだった。

     ◇

「俺だけではなかったのか」

 マランが自分の手を見る。

 ソウヤが振り返る。

「マランも?」

「ああ」

 マランは掌を開く。

 そこに壊滅の力はない。

 だが。

「excidium(壊滅)が勝手に反応した。」

 その言葉だけで。

 何人かの表情が強張った。

 先ほどまで。

 その能力が何をしたのか。

 全員が知っている。

 僅かな出力で。

 空間ごと存在を消した。

 惣一ですら、まともに受けることを避けた力。

「発動しかけたのか?」

 惣一が尋ねる。

「いや」

 マランは首を振る。

「そこまではいかない。」

「ただ。」

 胸へ手を置く。

「呼ばれたような感覚がした。」

「呼ばれた?」

「……他に表現がない。」

 マラン自身、気に入らないようだった。

「能力が。」

「何かを知っているような。」

 ネリクマが横から覗き込む。

「怖いこと言わないでよ」

「俺もそう思う。」

「そこは否定して」

「無理だ。」

 ネリクマが頬を膨らませる。

 だが。

 彼女自身も。

 strāgēs(破壊)へ意識を向ける。

「……。」

「どうだ?」

「私はそこまでじゃない。」

「そうか」

「でも。」

 ネリクマの表情が少しだけ変わる。

「確かに何か変だった。」

     ◇

「私もです」

 燕が口を開いた。

「Ability improverが、一瞬だけ勝手に活性化しかけました」

「私は左目」

 小雨が眼帯へ触れる。

「熱くなった……。」

「こっちも」

 柚季が自分の肩を回す。

「飛ぶつもりなんてなかったのに、身体が浮きそうになった」

 結衣も自分の両手を見る。

「私も……Healerが少しだけ。」

 イレイダは無言。

「イレイダ?」

 ソウヤが聞く。

「……ああ」

 イレイダは刀の柄を握った。

「私もだ。」


 一人。また一人。

 能力者たちが答えていく。

 能力の種類は関係ない。


 回復。

 飛行。

 睡眠。

 向上。

 物理攻撃。

 人格変化。

 壊滅。


 それぞれ全く違う能力が――

 同じ瞬間に反応した。


「偶然じゃないな」

 夢幻が静かに言った。

「ええ」

 刹那も頷く。

「これほどの人数が同時となれば。」

 惣一は腕を組む。

「田島。」

「はいはい、分かってますよ!」

 タジが端末へ向き直る。

「GENESISから回収したデータを照合する!」

     ◇

 GENESIS。

 オールドマンが遺した研究施設。

 既に東京湾の底へ沈んだ。

 だが。

 あの戦いの最中。

 タジは可能な限りのデータを抜き取っていた。

「頼むから残ってろよ……。」

 複数の保存データ。

 破損ファイル。

 オールドマンの研究記録。

 それらを一つずつ検索していく。

 キーワード。

 太陽。

 フレア。

 能力因子。

 反応。

 共鳴。

「……。」

 数秒。

「おい」

 イレイダが覗き込む。

「近い。」

「邪魔!」

「なんか出たのか?」

「だから近いって!」

「見えねぇんだよ!」

「押すな!」

「二人ともやめて!」

 結衣が割って入る。

 タジが姿勢を直した。

「ったく……。」

 そして。

 画面を見る。

「……あった。」

 空気が止まる。

「何が?」

 ソウヤが聞いた。

「オールドマンの研究記録。」

 タジは読み上げる。

「能力因子について。」

 一つ。

 研究ファイルが開かれた。

 その中に。

 短い文章。


 ――能力因子は、太陽由来の未知粒子によって発生した可能性が極めて高い。


「これは知ってる。」

 ソウヤが言う。

「ああ。」

「問題はこっち。」

 タジが次へ進む。

 ――因子は遺伝によって継承される。

 ――ただし、完全な安定状態には到達していない。

「……安定してない?」

 結衣が聞き返す。


 さらに。

 ――特定条件下において、能力因子同士が同時活性を起こす可能性。


「同時活性……。」

 惣一の目が細くなる。

「今日起きた現象か。」

「可能性ある。」

 タジが画面を睨む。

「でも肝心の『特定条件』が……。」

 スクロール。

 データ欠損。

「消えてる。」

「またかよ」

 ソウヤが顔をしかめる。

「オールドマン、もうちょっと分かりやすく残しといてくれよ……。」

「死ぬ前提で研究してたわけじゃねぇだろ」

 イレイダが突っ込む。

「そうだけどさ……。」

 ソウヤは頭を掻いた。

     ◇

「待て」

 マラン。

「その続きを。」

「ん?」

「下だ。」

 タジがスクロールする。

 一部。

 破損した文章。

 だが。

 辛うじて読める。


 ――起源粒子に類似する高エネルギー現象。

 ――能力因子は共鳴反応を示す。


 沈黙。


 マランが静かに言った。

「……これだ。」

 惣一も頷く。

「つまり。」

 ソウヤが整理する。

「能力の始まりになった大昔の太陽フレアそのものがまた起きたわけじゃない。」

「ああ。」

 タジが答える。

「でも。」

「それに近い性質の何かが起きたことで、俺たちの能力因子が一斉に反応した。」

 結衣が空を見る。

「じゃあ、さっきの光は……?」

「そこまでは分からない。」

 タジは首を振る。

「ただの太陽活動なのか。」

「何か別の現象なのか。」

「あるいは。」

「誰かが意図的に起こしたものなのか。」

「意図的……?」

 ソウヤの表情が変わる。

「いや。」

 タジはすぐに手を振った。

「可能性の話!」

「今のところ自然現象かどうかすら分からん!」

     ◇

「……面白くない」

 ペインが地面に寝転んだまま言った。

 ソウヤが振り向く。

「お前まだいたのかよ!」

「動けねぇんだからいるだろ」

「そうだった」

「あと腹減った」

「それも知ってる!」

「今度こそ肉――」

「黙れ!」

 ペインが不満そうに口を閉じる。

 アランダが呆れた顔で見る。

「あなた、本当に緊張感ないわね」

「腹減ってる時に世界の謎とかどうでもよくない?」

「よくないわよ」

「俺は焼肉の謎を解きたい」

「何よ焼肉の謎って」

「なんであんなに美味いのか」

「帰っていい?」

 妙な会話。

 それでも。

 さっきまで敵だった者たちが。

 同じ空の異変を見上げている。

 ソウヤは。

 その状況が少しだけ不思議だった。

     ◇

 その時。

「……俺は行く。」

 マランだった。

 ネリクマが振り返る。

「今?」

「ああ。」

「こんなこと起きてるのに?」

「だからだ。」

「?」

「さっきも言っただろう。」

 マランは空を見る。

「俺は自分で考える。」

「能力者を。」

「自分の能力を。」

「これから何をするのかを。」

 一歩。

「それに。」

 自分の右手を見る。

「俺の力が、今日の現象に強く反応した。」

 惣一がマランを見る。

「調べるつもりか。」

「ああ。」

「一人で?」

「その方がいい。」

 ネリクマが少し不満そうにする。

「また一人で抱え込むんだ」

「……。」

「そういうとこ変わらないね。」

「すぐ変われと言う方が無茶だ。」

「まあ、それはそう。」

 ネリクマは笑った。

「でも。」

 少しだけ真剣な顔になる。

「変なことしそうになったら止めるから。」

「勝手にしろ。」

「あぁ。勝手にするさ。」

 マランが僅かに口元を緩めた。

     ◇

「マラン」

 惣一が呼び止める。

 マランが振り向く。

「一つだけ。」

「何だ。」

「今日の現象について何か掴んだら。」

 僅かな間。

「知らせてくれ。」

 マランが意外そうに見る。

「俺を信用するのか?」

「していない。」

 即答。

「……。」

「だが。」

 惣一は続ける。

「お前が自分の能力に対して慎重なのは分かった。」

「そして。」

「今日の反応が最も強かった可能性があるのも、おそらくお前だ。」

 マランは黙る。

「情報は多い方がいい。」

「それだけだ。」

「……。」

 しばらく。

 そして。

「分かった。」

 短く答えた。

 マランは再び歩き始める。

 今度こそ。

 戦場から離れていった。

     ◇

 遥か遠方。

 高層建築物の屋上。

 デウスとアメス。

 二人は。

 マランが去っていく姿まで見届けていた。

「彼は行きましたね。」

 アメスが言う。

「ああ。」

「追いますか?」

「いや。」

 デウスは即答した。

「まだ必要ない。」

 アメスが空を見る。

「では。」

「先ほどの現象は?」

 デウスは沈黙する。

 その目は。

 太陽へ。

「能力者たちが気付いた。」

「ええ。」

「起源を知っているからこそ。」

 アメスがデウスを見る。

「異常だと?」

「ああ。」

 デウスの声が僅かに低くなる。

「大昔の太陽フレアは。」

「一度きりの起源だ。」

「今日起きたものは。」

 視線を戦場へ戻す。

「その再現ではない。」

「なら?」

「共鳴だ。」

 アメスの表情が変わる。

「何との?」

 デウスは。

 すぐには答えなかった。

「それを。」

「彼らがどこまで辿り着けるか。」

「見届けよう。」

「……。」

 アメスは静かに微笑んだ。

「相変わらずですね。」

「何がだ。」

「答えを知っていても。」

「すぐには教えない。」

「……。」

「違います?」

「我々は。」

 デウスは静かに答える。

「まだ傍観者だ。」

     ◇

 能研ハウス周辺。

 タジはオールドマンの研究データを保存し直していた。

「よし。」

「何か分かった?」

 ソウヤが尋ねる。

「今日のところはここまで。」

「えー」

「えーじゃない!」

「脳みそ焼けるわ!」

 タジが頭を押さえる。

 能力の反動。

 Invaderによる脳への負担。

 結衣がすぐ近づく。

「大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇけど寝れば治る」

「じゃあ休もう。」

「……賛成。」

 小雨が真っ先に反応した。

「小雨はずっと休みたがってるだろ。」

「眠いもの……。」

「知ってる。」

 ソウヤは苦笑する。

 空を見る。

 今は。

 もう何も起きていない。

 いつもの太陽。

 いつもの空。

 だが。

 意味はもう違って見えた。

 自分たちの能力を生んだ遥か昔の光。

 そして今日。

 その起源に似た何かへ。

 能力者全員の力が反応した。

「レイ。」

『何だ。』

「また面倒なことになりそうだな。」

 少しの沈黙。

『今さらだろ。』

「……それもそうか。」

 ソウヤは小さく笑った。

     ◇

 だが。

 その日の夜。

 世界各地で――

 同じ報告が上がり始めていた。

 能力者の一時的な能力変動。

 原因不明の能力暴発。

 逆に。

 数秒だけ能力を使用できなくなった者。

 これまでより出力が上昇した者。

 そして。

 本人すら知らなかった能力を――

 初めて発現した者。

 それは。

 東京だけではなかった。

 世界中。

 同じ時刻。

 同時に。

 何かが――

 能力者たちの中で揺れた。


 遠方の建物。

 既に誰もいない屋上に。

 風だけが吹く。

 デウスとアメスの姿も。

 いつの間にか消えていた。

 ただ。

 デウスが最後に残した言葉だけが。

 静かに。

 夜の風へ溶けていった。


「始まったか。」


 遥か昔。

 太陽から始まった能力者の歴史。


 その力は。


 今もなお――

 変化を止めてはいなかった。


――第160話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ