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Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ。─  作者: n217 (嘯江 新«ウソブエ シン»)


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157/159

第157話「それぞれの選択」

能研ハウス周辺――


グランは倒れた。


だが――

誰も、戦いが終わったとは思っていなかった。


結衣の両手から淡い光が溢れる。

Healer――回復。

「……。」

グランの呼吸は弱い。

それでも。

確かに生きている。

その傍らでネネが膝をつき、グランの手を握っていた。

「グランさん……。」

返事はない。

「……。」

ネネは俯く。

その肩に、ネリクマがそっと手を置いた。


少し離れた場所。

マランは一人で立っていた。

グランの意識が途絶えたことで――

Compulsory executor(強制執行)による服従は解除されている。

身体は自由。

意思も自由。

だからこそ。

マランは動かなかった。

「……。」

自分の両手を見る。

誰にも強制されていない。

今。

何をするか。

自分で決めなければならない。


「さて。」

ペインの声が響いた。


ソウヤたちが一斉に振り返る。


ペイン。

全身には依然として――

bloodbath Slaughter――殺戮真化。


その隣。


ラルゴ。

Storonger(怪力)。


さらに。


アランダ。

周囲には無数の人形。

neuropastum(傀儡)。


三人とも。

まだ戦える。


そして――

グランの強制執行による能力封印も、既に解除されている。


能研側も。

全員が能力を使用できる。

イレイダが刀を構える。

「まだやるのか。」

ペインは答えない。

いつもの笑みもない。

ただ。

倒れているグランを見た。

「グランが負けた。」

ソウヤが拳を握る。

「ああ。」

「だから何だ。」

「……。」

ペインがゆっくり顔を上げる。

「俺たちまで負けたことになるのか?」

空気が変わった。

イレイダの目が鋭くなる。


「そういうことか。」


「そういうこと。」


ペインの口元に。

少しずつ。

いつもの笑みが戻っていく。

「俺はさ。」

「グランに全部従っていたわけじゃないんだよね。」

一歩。

「マスタークラウンにいた理由も。」

さらに一歩。

「楽しかったから。」

「戦えて。」

「壊せて。」

「殺せる。」

両腕を広げる。

「それだけ。」

イレイダが吐き捨てる。

「やっぱり。」

「お前は救いようがない奴だ。」

ペインは笑う。

「褒め言葉として受け取っとく。」


「ペイン。」

アランダが呼ぶ。


ペインが振り返る。

「何だ?」

「私は。」

人形たちを見る。

そして。

グラン。

ネネ。

マラン。

「少し考えたいわ。」

ペインの笑みが止まる。

「へぇ。」

アランダは指を下ろした。

人形たちが――

動きを止める。

ガシャン。

ガシャン。

次々と地面へ膝をつく。

夢幻が目を細めた。

「戦闘放棄ですか?」

「違うわ。」

アランダは答える。

「今すぐあなたたちと戦う理由がなくなっただけ。」

「グランが倒れたから?」

「それもある。」

アランダの視線がネネへ向く。

幼い少女が。

倒れたグランの傍らで泣いている。

「……。」

「私は。」

アランダが小さく息を吐く。

「ネネをこれ以上。」

「こんな場所に置いておきたくない。」

ネネが顔を上げた。

「……アランダ?」

アランダは少しだけ微笑んだ。

ラルゴ。

巨大な男も。

拳を下ろしていた。

雛儀と刹那は警戒を解かない。

「どうするおつもりですか。」

刹那が尋ねる。

ラルゴはしばらく黙っていた。


そして。

「……グラン。」

倒れた統帥を見る。


「負けた。」

「そうですね。」

「なら。」

ラルゴは巨大な両腕を下ろす。

「俺。」

「戦う理由。」

「分からない。」

雛儀が帝凰剣を僅かに下げた。

ラルゴは続ける。

「考える。」

短い。

だが。

それが彼自身の選択だった。


「はぁ?」

ペインが頭を掻く。

「なんだよ。」

「みんな急に真面目になっちゃって。」

アランダが睨む。

「あなたが何も考えてなさすぎるのよ。」

「考えてるよ。」

ペインは笑う。

そして――

ソウヤを指差した。

「こいつらを。」

次にイレイダ。

「ぶっ潰す。」

最後に。

「それだけ。」

ソウヤが前へ出る。

「なら。」

拳を構える。

「俺たちが止める。」

頭の奥。

レイの声。

『来るぞ。』

「分かってる。」

イレイダも刀を構えた。

「今度こそ。」

「終わらせるぞ。」


ペインが身体を沈める。

全身の筋肉が軋む。

bloodbath Slaughter――殺戮真化。

「いいねぇ。」

目が見開かれる。

「そういう顔。」

そして。

いつもの言葉。

「――I'll send it to the world in an instant.」

口元が大きく吊り上がる。


「一瞬で。」

「あの世へと送ってやる。」


ドンッ!!


消えた。


「!」

ソウヤが反応する。

『右!!』

「ッ!」

拳。

ソウヤが両腕で防ぐ。

ドゴォォォン!!

「ぐっ!」

身体が吹き飛ぶ。

「ソウヤ!」

イレイダが踏み込む。

刀。

ペインが振り向く。

斬撃。

だが。

ペインは――

刀身を両手で挟んだ。

「なっ!?」

「捕まえた。」

イレイダの表情が変わる。

ペインの膝。

ドゴッ!!

「がっ!」

腹部。

イレイダの身体が折れる。

さらに。

ペインが刀を掴んだまま――

投げる。

「おらぁ!!」

ブォン!!

イレイダごと。

ソウヤへ。

「うわっ!」

二人が激突。

ドォン!!

「強い……!」

燕が動こうとする。

その瞬間。

「待ってください。」

刹那が止める。

燕が振り返る。

「でも!」

「二人に任せましょう。」

「なぜですか?」

刹那ではなく。

惣一が答えた。

「彼ら自身が。」

ペインを見る。

「決着を望んでいる。」

惣一は静かに戦場を見ていた。

グランとの戦闘による傷。

消耗。

それでも。

立っている。

その横へ夢幻が来る。

「惣一様。」

「何だ。」

「マランを。」

二人の視線が移る。

マラン。

一人。

誰にも加勢せず。

戦場を見ている。

「どう見ます?」

惣一は少し沈黙した。

「危険だ。」

夢幻が僅かに笑う。

「随分率直ですね。」

「事実だ。」

惣一はマランを見たまま続ける。

「能力だけを見れば。」

「私にも底が分からない。」

「先ほどもそう仰っていましたね。」

「ああ。」

「そして。」

惣一の目が細くなる。

「彼自身が。」

「まだ自分の力を完全には出していない。」

夢幻の表情から笑みが消える。

「もし。」

「彼が敵として再び動けば?」

惣一は即答する。

「私が止める。」

その会話。

マランには聞こえていた。

「……。」

惣一を見る。

視線が合う。

一瞬。

二人の間に。

言葉のない緊張。


マランが口を開く。

「名取惣一。」

「何だ。」

「さっきは。」


少し間を置く。


「助かった。」


惣一の眉が僅かに動く。

「礼を言われる覚えはない。」

「グランを止めた。」

「私が倒す相手だったからだ。」

「そうか。」

「それだけだ。」

「……。」

マランが僅かに笑う。

「やはり。」

「変な奴だ。」


夢幻が思わず横を見る。

惣一は無表情。

「よく言われるので慣れている。」

ネリクマが歩いてくる。

マランの隣へ。

「これからどうするの?」

「……。」

「グランの命令はもうない。」

「分かってる。」

「だったら。」

マランは首を横に振る。

「今は答えられない。」

ネリクマはそれ以上追及しない。

「そっか。」

「ああ。」

「じゃあ。」

ネリクマがペインを見る。

「まずは。」

「これを見届けよっか。」

マランも視線を移した。


ドゴォォン!!


「ぐぁっ!」

ソウヤが地面を転がる。

ペインが追う。

「遅い遅い!」

踏みつけ。

ソウヤが横へ転がる。

ズガン!!

地面が砕ける。

「今だ!」

イレイダ。

背後。

刀を振るう。

「斬皇――」

ペインの表情が変わる。

イレイダの全身に力が集中する。


斬皇破断――カイザーインパルス。

「――破断ッ!!」


轟ッ!!


強烈な一撃。

ペインが両腕を交差。

直撃。

ドォォォォォン!!!

「ぐぁぁっ!!」

初めて。

ペインの身体が大きく吹き飛ぶ。

道路を削る。

一度。

二度。

三度。

そして――

瓦礫へ激突。

ズガァァァン!!

「……やった?」

結衣が呟く。

煙。

誰も動かない。

やがて。

ガラッ。

「……。」

ペインが。

出てきた。

両腕から血。

服は裂け。

身体中に傷。

それでも――

立っている。

「ハ……。」

イレイダが目を見開く。

「マジかよ。」

「ハハ……。」

ペインが笑う。

「痛ぇ。」

そして。

笑顔のまま。

足元が――

僅かにふらついた。

「……?」

ソウヤが気付く。

ペインの腹から。

グゥゥゥゥ……。

異様な音。

「……。」

ペインの笑みが固まった。

イレイダも固まる。

「おい。」

「まさか。」

ペインが腹を押さえる。

「……腹。」

「減った。」

ソウヤ。

「……は?」

マランが目を細める。

「反動だ。」

ネリクマが振り返る。

「ペインの?」

「ああ。」

マランは説明する。

「奴は、身体能力を極端に引き上げる。」

「その代償が。」

ペインを見る。

「異常な空腹。」


さらに。

現在のペインは通常状態ではない。


能力向上を受けた――

bloodbath Slaughter――殺戮真化。


その消耗は。

通常時を遥かに上回る。

「……くそ。」

ペインが腹を押さえる。

だが。

それでも笑う。

「まだ。」

一歩。

「やれる。」

二歩。

だが。

三歩目。

ガクン。

膝が落ちる。

「……ッ!」

手をつく。

「まだだ。」

立とうとする。

「俺は。」

腕が震える。

「まだ……。」

ソウヤがゆっくり立ち上がった。

傷だらけ。

呼吸も荒い。

それでも。

ペインへ歩いていく。

イレイダも並ぶ。

ペインが二人を見る。

「何だよ。」

「来いよ。」

笑う。

「殺し合おうぜ。」

ソウヤは拳を握る。

「……違う。」

「何?」

「俺たちは。」

ペインの前で止まる。

「殺し合うために戦ってるんじゃない。」

ペインの笑みが僅かに消える。

「お前を。」

拳を構える。

「止めるために戦ってる。」

イレイダが刀を構える。

「ここで終わりだ。」

ペインは。

ゆっくり立ち上がった。

身体は限界。

腹は異常な飢餓を訴えている。

それでも。

両拳を構える。

「だったら。」

血だらけの顔で笑う。


「止めてみろよ。」


ソウヤ。

イレイダ。

そして。

ペイン。


三人が同時に踏み込もうとした――


その時。


「待って。」


少女の声。


全員が止まる。

ネネだった。

グランの傍らから。

立ち上がっている。

「ペイン。」

ペインが振り返る。

「……何。」

ネネは。

静かに。

言った。

「もう。」

「やめよう。」


ペインの表情が――

初めて。

完全に止まった。

アランダ。

ラルゴ。

マラン。

全員が。

ネネを見る。

「グランは。」

眠るグランを見る。

「負けた。」

「でも。」

「生きてる。」

ペインは黙っている。

「だから。」

ネネの声が震える。

「もう誰も。」

「いなくならないで欲しいの。」


沈黙。


ペインの拳が。

僅かに下がった。


だが――

完全には下ろさない。


その瞳には。

まだ。

殺戮者の光が残っている。


そして遠方

デウスとアメスも。

その選択を見ていた。

マスタークラウンは今。

グランの命令ではなく。

一人一人が、自分の意思で未来を選ぼうとしている。


ペインが選ぶのは――

殺戮か。


それとも。

初めて自分で選ぶ、別の道か。


――第157話 完

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