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Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ─  作者: n217 (嘯江 新)


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151/183

第151話「excidium」

「宣言する――!!」


グランが右手を掲げる。

Compulsory executor――強制執行。


反動によって理性を失いかけた統帥が、さらなる宣言を重ねようとした――その瞬間。

「グラン!!」


屋上から、一つの影が落ちた。


ドォォォォン!!


地面が砕ける。

舞い上がる粉塵。

グランの言葉が止まった。

ソウヤが振り返る。

「……マラン。」


そこに立っていたのは――

マスタークラウンNo.2。


そして、全能力者の中でも最も恐ろしいとされる男。


マラン。


ペインの表情から笑みが消える。

「……マラン?」

ラルゴも動きを止めた。

「……。」

アランダは目を細める。

「どういうつもり?」

マランは答えない。

ゆっくり立ち上がる。


そして――

グランを見る。

「やめろ。」

静かな一言。

グランの表情が歪む。

「……何?」

「これ以上、能力を使うな。」

「反動でお前自身が壊れる。」

グランが笑う。

「ハ……。」

「ハハハ……。」

「私を止めるために。」

「戦場へ降りてきたのか?」


「そうだ。」


その答えに。

戦場の空気が変わった。


屋上

「マラン……。」

ネネが不安そうに見下ろしている。


ネリクマは黙っていた。

止めなかった。


マラン自身が選んだ行動だから。


グランはゆっくりとマランへ向き直る。


「命令だ。」

「戻れ。」


「……。」


「聞こえなかったのか。」

「マラン。」


グランの瞳が赤く光る。

マランは動かない。

「断る。」

ペインが目を見開く。

アランダからも笑みが消えた。

ネネが息を呑む。

グランだけが――

静かに笑った。

「そうか。」

「なら。」


右手が上がる。

「お前も――」


「グラン。」

マランの声が低くなる。


「それ以上。」

「言うな。」


空気が震えた。

それだけだった。

まだ何も起きていない。

マランは立っているだけ。

なのに。

ソウヤの身体が本能的に後退した。

「……何だ。」

イレイダも刀を握り直す。

「おい……。」

「こいつ……。」

惣一の目が細くなる。

初めて。

名取惣一がマランを真正面から見た。

「……。」

刹那が惣一を見る。

「惣一様?」

「気を抜くな。」

惣一の声が変わっていた。

「彼は。」

「今までの奴らとは違う。」

ペインが舌打ちする。

「当然だろ。」

笑っていない。

いつもの軽薄な態度もない。

「マランは。」

「俺たちの中でも別格だ。」

アランダも静かに続ける。

「怒らせない方がいいわ。」

ラルゴは短く。

「……危険。」

マランが右手を下ろす。

その指先が、僅かに震えていた。

能力を使うことを恐れているのではない。

使いすぎることを恐れている。

「グラン。」

「最後に言う。」

「能力封印の宣言を撤回しろ。」

グランは鼻で笑った。

「嫌だと言ったら?」

「……。」

マランの視線が鋭くなる。

「俺が止める。」

グランの表情が完全に消えた。

「裏切るのか。」

「違う。」

「なら何だ。」

マランは少しだけ沈黙した。

「俺はまだ。」

「グランの敵にはなりなたくはない。」

ソウヤがマランを見る。

「……。」

「どちらの味方になるつもりもない。」

ネリクマも黙って聞いている。

「だが。」

マランはグランを睨む。

「今のお前を放置すれば。」

「敵も。」

「味方も。」

「全部巻き込む。」

「だから止める。」

グランが笑った。

「なら。」

「やってみろ。」

拳を構える。

「俺を止めてみろ!」

グランが走る。

マランは動かない。


「マラン!」

ネネが叫ぶ。


グランの拳が迫る。

一メートル。

五十センチ。

十センチ――

マランが右手を上げた。

「……仕方ない。」


その瞬間。

ゾッ――。

惣一の表情が変わった。


「全員下がれ!!」


ソウヤが振り返る。

「え?」

惣一が叫ぶ。

「早くしろ!!」

普段ほとんど声を荒らげない惣一。

その惣一が。

叫んだ。


マランの口が開く。


excidium――壊滅。


その瞬間。

音が――

消えた。


「……?」


グランの拳が止まる。

いや。

止められたのではない。

グランとマランの間。

そこに存在していた空間が――

削り取られた。


次の瞬間。


ズ――――――ン……!!


遥か後方。

誰もいない一帯。

道路。

建物の残骸。

地面。

すべてが一直線に――

消失した。

爆発ではない。

吹き飛んでもいない。

砕けてもいない。

ただ。

そこにあったものが――

なくなった。

沈黙。

ソウヤは言葉を失う。

「……。」

イレイダも。

刹那も。

夢幻も。

誰も声を出せない。

タジが震える手でモニターを見る。

「反応……。」

「ない。」

「破壊したんじゃない。」

「完全に……消えてる。」

グランの頬から。

一筋の血が流れた。

攻撃は当たっていない。

マランは――

意図的に外した。

「次は。」

マランが静かに言う。

「外さない。」

グランの瞳が揺れる。

「……貴様。」

マランは右手を下ろす。

「宣言を撤回しろ。」

惣一はマランを見つめていた。

「……。」

ソウヤが惣一を見る。

「名取さん。」

「あれ……。」

惣一はしばらく黙りこんだ。

そして。

「分からない。」

ソウヤが目を見開く。

「え?」

「今の一撃。」

「彼は相当抑えている。」

マランを見る。

「にもかかわらず。」

「私にも。」

「上限が見えない。」


屋上

ネネが震えている。

ネリクマはその肩へ手を置いた。

「大丈夫。」

「マランは抑えてる。」

ネネは首を横に振る。

「違うの……。」

「マランが怖いんじゃない。」

「マランが。」

「また自分を嫌いになるのが怖い。」

ネリクマは何も言えなかった。


グランが拳を震わせる。

屈辱。

自分の命令を拒絶された。

自分へ能力を向けられた。

そして何より――

マランの力を。

グラン自身が誰より理解している。

「……いいだろう。」

マランの目が動く。

グランがゆっくり口を開く。

「先ほどの宣言を撤回する。」


その瞬間――

パキン。

何かが砕けるような感覚。


「!」


燕の身体へ力が戻る。

柚季の身体が僅かに浮く。

小雨の左目。

結衣の両手。

雛儀の帝凰剣に再び炎が宿る。

刹那の周囲へ幻剣。

夢幻の呪符へ呪力。


そして。

惣一が静かに目を閉じる。

iddhi-vidha-ñāṇa(神足通)。

能力が戻った。


ソウヤも拳を握る。

頭の奥。

声が鮮明になる。

(戻ったな。)

『ああ。』

レイ。

ソウヤが笑う。

「戻った。」

だが。

マランは能研側へ移動しない。

グラン側にも移動しない。


戦場の中央。


一人で立っている。

グランが尋ねる。

「満足か。」

「……ああ。」

「なら戻れ。」

マランは答えない。


一瞬。

ネリクマを見る。


次にネネ。


そして。

ソウヤたちを見る。

「ここで見届ける。」

グランの目が細くなる。

「好きにしろ。」


二人の関係は――

明らかに以前とは違っていた。

そして。

惣一が一歩前へ出る。

羽織を刹那から受け取り、再び袖を通す。

グランを見る。

「話は終わったか。」

グランが笑う。

「待たせたな。」

「構わない。」

惣一の周囲で空間が静かに揺らぐ。


iddhi-vidha-ñāṇa――神足通。


グランも血を拭う。

精神は既に大きく消耗している。


それでも。

戦意は消えていない。


Compulsory executor――強制執行。


そして――

二人の間に立っていたマランが、ゆっくり道を空けた。

「続けろ。」


惣一とグラン。

再び向かい合う。


だが。

この瞬間から。

戦場には新たな事実が刻まれていた。

名取惣一。

グラン。

そして――

マラン。

この三人は。

互いの能力一つで、戦場そのものの常識を覆し得る。


そしてマランはまだ――

本気を出していない。


――第151話 完

─マランの能力は、オールドマン戦以上に向上していた。

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