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Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ─  作者: n217 (嘯江 新)


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150/182

第150話「能力なき戦場」

ドォォォォン――!!


惣一とグラン

二人の拳が真正面から激突する。

衝撃が周囲へ走り、砕けたアスファルトの破片が舞い上がった。

能力は使えない。


少なくとも――能研と名取家には。


それでも。

惣一は一歩も退かなかった。

「……!」

グランの腕が僅かに押し戻される。

「貴様……!」

惣一は無言。

拳を引く。


次の瞬間――

踏み込む。

右拳。

グランが防御。

直後に左肘。

「ぐっ!」

さらに足払い。

グランの体勢が崩れる。


惣一はその胸元を掴み――

ドォン!!

背負い投げで地面へ叩きつけた。

「がっ……!」

グランが地面を転がる。

惣一は追撃しない。

静かに構え直した。

「立て。」

「まだ終わっていないだろう。」

「……ハ。」

グランがゆっくり起き上がる。

「貴様、舐めるなよ……。」

額から血。

口元からも血。

そして、強制執行の反動による激しい頭痛。

それでも赤い瞳は死んでいない。

「能力を封じても。」

「これほどとはな。」

惣一は答える。

「だから言ったはずだ。」

「能力が私の全てではない。」


だが、その言葉とは裏腹に――

他の戦場では状況が悪化していた。


ソウヤ・イレイダ VS ペイン

「ハハハハッ!!」

ペインが駆ける。

bloodbath Slaughter――殺戮真化。

「来る!」

イレイダが叫ぶ。

ソウヤは構える。

しかし――

人格変化を使えない。

レイはソウヤの中にいる。

だが、能力として人格を切り替え、その身体能力を引き出すことはできない。

(右!)

『分かってる!』

ソウヤが横へ跳ぶ。

ブォン!!

ペインの拳が頬をかすめる。

「避けた!」

だが。

二撃目。

「ッ!」

ドゴォッ!!

腹部。

「がはっ……!」

ソウヤの身体が浮く。

「ソウヤ!」

イレイダが刀を振るう。

能力による身体強化はない。

純粋な剣術。

ペインは身体を反らして回避する。

「遅い!」

「チッ!」

蹴り。

イレイダは刀の腹で受ける。

ガァン!!

「ぐっ……!」

両足が地面を削る。

押される。

ペインは楽しそうに笑った。

「さっきまでの勢いはどうした?」

イレイダが睨み返す。

「うるせぇ。」

「能力がなきゃ何もできないと思うなよ。」

「そういうの。」

ペインの笑みが深くなる。

「大好きだよ。」


雛儀・刹那 VS ラルゴ

ズガァァァン!!

ラルゴの拳が地面を破壊する。

Storonger(怪力)。

炎を失った帝凰剣。

幻剣を失った刹那。

二人は純粋な剣術だけで、その怪力へ挑んでいた。

「雛儀さん!」

「はい!」

左右へ分かれる。

ラルゴの視線が刹那へ向く。


その瞬間。

雛儀が懐へ。

斬ッ!

脇腹。

浅い。

「……。」

ラルゴが振り返る。

雛儀はすでに離れている。


今度は刹那。

「こちらです。」

ラルゴが拳を振るう。

刹那は紙一重で避け――

ザシュッ!

腕を斬る。

ラルゴが止まる。

「……二人。」

「速い。」

刹那は静かに答える。

「力では勝てません。」

「なら。」

雛儀が続ける。

「技で勝つ!」


二人が同時に構える。

血筋の遠戚にある二人の剣士。

能力を失っても、その剣術は失われていなかった。


夢幻・燕・小雨・結衣・柚季 VS アランダ

「さあ。」

アランダが指を動かす。

neuropastum(傀儡)。

十数体の人形が動く。

対して――

燕は能力向上を使えない。

小雨は眠らせられない。

結衣は回復できない。

柚季は飛べない。

夢幻は呪詛を使えない。

圧倒的不利。

それでも。

夢幻が前へ出た。

「燕さん。」

「はい。」

「右を。」

「分かりました!」

二人が同時に動く。

夢幻は人形の腕を掴む。

引く。

重心を崩す。

そのまま投げる。

ドン!!

アランダが目を見開く。

「……!」

燕も一体の攻撃を受け流し、腹部へ拳を入れる。

「はぁっ!」

ドゴッ!!

人形が後退する。

夢幻が叫ぶ。

「柚季さん!」

「分かってる!」

飛行はできない。

だが。

柚季自身の運動能力が消えたわけではない。

走る。

壁を蹴る。

跳躍。

人形の頭上を越える。

「結衣!」

「うん!」

結衣の手を掴み、包囲の外へ引っ張り出す。

アランダの表情から余裕が少しずつ消えていく。

「あなたたち……。」

夢幻が微笑む。

「能力者だから戦っているわけではないからな。」


屋上

ネネは戦場を見つめていた。

「みんな……。」

能力を失っている。

なのに。

戦っている。

逃げない。

ネネには理解できなかった。

「どうして……。」

ネリクマが横を見る。

「何が?」

「怖くないのかな。」

ネネは小さく呟く。

「能力が使えないのに。」

ネリクマは戦場を見る。

「怖いと思うよ。」

「じゃあ……。」

「怖くても戦う理由があるんじゃない?」

ネネは黙った。

その隣。

マランも、その言葉を聞いていた。

「……。」

マランの視線はソウヤへ向く。

ペインに殴られる。

倒れる。

それでも立つ。

イレイダも同じ。

雛儀も。

燕も。

誰も逃げない。

マランの脳裏に――

過去がよぎる。

能力者によって奪われた両親。

その日から。

マランにとって能力とは、奪うものだった。

だから。

能力者を憎んだ。

だからグランのもとへ来た。

なのに――。

目の前の能力者たちは。

能力を奪われてもなお、誰かを守るために立っている。

「……何なんだ。」

ネリクマが聞く。

「マラン?」

「何で。」

拳が震える。

「何でこいつらは……。」

言葉が続かない。

ネリクマは答えなかった。

今は。

マラン自身が答えを見つけるべきだと思ったから。


そして――

惣一とグラン。

ドゴッ!!

惣一の拳がグランの頬へ入る。

グランがよろめく。

惣一が追う。

しかし。

「……舐めるな!」

グランの蹴り。

惣一が腕で防ぐ。

「ぐっ!」


初めて。

惣一が後退した。

ソウヤが遠くから気付く。

「名取さん……!」

グランは肩で息をする。

「私だって。」

「能力だけでマスタークラウン統帥になったわけじゃない。」

惣一の目が僅かに細くなる。

「そうか。」

そして。

ほんの少し笑った。

「それでいい。」

「何?」

「ようやく。」

惣一が構え直す。

「お前自身と戦える。」

グランの表情が変わる。

二人が同時に走る。

拳と拳。

激突。

ガンッ!!

グランが左拳。

惣一がかわす。

惣一の掌底。

グランが防ぐ。

膝。

肘。

投げ。

受け。

能力を使わない。

純粋な戦闘技術だけの攻防。


一瞬。


グランが惣一の腕を掴む。

「取った!」

投げる。

だが惣一は空中で回転。

着地。

その瞬間――

低い姿勢から足払い。

「!」

グランの身体が浮く。

惣一は胸元を掴む。

そして――

「せいッ!」

ドォォン!!

地面へ叩きつける。

「がはっ!!」

今度は離さない。

惣一は倒れたグランの腕を取り、関節を極める。

「ぐっ……!」

「終わりだ。」

「まだ……!」

グランが抵抗する。

惣一は静かに力を加える。

「撤回しろ。」

「……何?」

「能力封印の宣言を撤回しろ。」

グランの目が見開かれる。

そう。

Compulsory executor(強制執行)は、グラン自身が宣言を撤回すれば解除される。

「ハ……。」

グランが笑う。

「断る。」

惣一の表情は変わらない。

「そうか。」

さらに腕を極める。

「ぐぁっ……!」

「もう一度聞く。」

「撤回しろ。」

「断る!!」

グランが叫ぶ。

その瞬間――。

ポタッ。

鼻血が地面へ落ちる。

さらに。

グランの瞳が一瞬だけ虚ろになった。

「……?」

惣一が気付く。

グランの身体が僅かに痙攣している。

「お前……。」


屋上

マランも同時に気付いた。

「まずい。」

ネネが振り返る。

「え?」

「反動だ。」

マランが立ち上がる。

「グランの精神が限界に近い。」

グランの頭の中。

声。

声。

声。

『捨てろ。』

『殺せ。』

『執行しろ。』

『お前は正しい。』

『お前が世界を決めろ。』

「黙れ……。」

惣一の表情が変わる。

「グラン?」

「黙れ……。」

グランが笑う。

「俺は……。」

「俺が……。」

突然。

グランの身体から異様な殺気が放たれる。

惣一が即座に腕を離し、距離を取る。

グランはゆっくり立ち上がった。

その顔には――

先ほどまでの理性が薄い。

「全員……。」

マランの目が見開かれる。

「グラン!」

グランが右手を上げる。

「邪魔だ。」

「全員……。」

Compulsory executor――強制執行。

さらに宣言を重ねようとする。


マランが屋上から飛び降りようとした。


マランの瞳が揺れる。

グラン。

マスタークラウン。

復讐。

過去。


そして――

目の前で戦う能研。

マランの拳が強く握られる。

「……。」

その瞬間。

グランが叫んだ。

「宣言する――!!」

惣一が踏み込む。

「させるかァァァ!」


マランも――

屋上の縁を蹴った。

「マラン!」

ネネが叫ぶ。


マランの身体が戦場へ落ちていく。


敵か。

味方か。

まだ誰にも分からない。


ただ一つ確かなことは――

マランがついに、傍観をやめた。


――第150話 完

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