第145話「世界を背負う者たち」
能研ハウス――
静寂。
先ほどまで響いていた轟音が嘘のように消えた。
マスタークラウンの幹部たちも。
能研のメンバーも。
名取家も。
全員の視線が、一人の男へ集まる。
グラン。
統帥は静かに惣一の前まで歩みを進めた。
二人の距離は、およそ十メートル。
誰も口を開かない。
やがて、グランが微笑んだ。
「ようやく直接会うことが出来て光栄だ。」
「名取惣一。」
惣一も静かに答える。
「グラン。」
「思っていたより落ち着いているな。」
グランは肩をすくめた。
「狂人だと思っていたか?」
「噂ではな。」
「噂なんぞ当てにはならない。」
グランは笑みを浮かべたまま、一歩踏み出す。
「本当の私は。」
「世界を救おうとしているだけだ。」
その言葉に、ソウヤが眉をひそめる。
「救う……?」
イレイダは鼻で笑う。
「能力者を殺しておいて、よく言う。」
グランはイレイダへ視線を向ける。
「犠牲は必要だ。」
「能力者が存在する限り。」
「世界は争い続ける。」
「だから。」
「私が終わらせる。」
ソウヤは一歩前へ出る。
「違う。」
「人を殺して作る世界なんて。」
「世界じゃない。」
グランは静かに首を振る。
「甘い。」
「お前たちは。」
「まだ現実を知らない。」
惣一がソウヤの肩へ手を置いた。
「下がれ。」
「名取さん……。」
「これは。」
「私とグランの戦いだ。」
ソウヤは悔しそうに拳を握る。
それでも頷き、一歩下がった。
屋上
マランはグランを見つめる。
ネネが小さく呟く。
「始まる……。」
ネリクマも静かに息を吐いた。
「この戦いで。」
「全部が変わる。」
グランは右手をゆっくり前へ出す。
「名取惣一。」
「お前は。」
「ここで消えてもらう。」
能力が発動する。
Compulsory executor――強制執行。
周囲の空気が震える。
グランの声が戦場へ響いた。
「宣言する。」
「名取惣一、お前は今日ここで敗北する。」
その瞬間。
ソウヤたち全員が息を呑んだ。
惣一の身体へ、見えない力が絡み付く。
「……!」
刹那が叫ぶ。
「惣一様!」
夢幻も表情を変える。
「これが……!」
惣一は静かにその力を受け止める。
そして、小さく息を吐いた。
「なるほど。」
「これがお前の能力か。」
グランは笑う。
「一度宣言した結果は。」
「必ず実行される。」
「それが。」
「Compulsory executor(強制執行)だ。」
戦場に緊張が走る。
誰も動けない。
惣一だけが、静かにグランを見つめていた。
「なら。」
一歩、前へ。
「その運命ごと。」
もう一歩。
「乗り越えるまでだ。」
グランの笑みが初めて深くなった。
「面白い。」
「やってみろ。」
世界最強の能力者同士。
神足通と強制執行。
常識を超えた戦いが、ついに始まろうとしていた。
――第145話 完




