第142話「統帥の一歩」
能研ハウス――
名取家の参戦によって、戦況は一変していた。
ペインは惣一と対峙し、
ラルゴは刹那と剣を交え、
アランダは夢幻の呪詛によって人形の動きを封じられ始めている。
それでも――。
誰一人として戦いを止める者はいなかった。
「はははッ!」
ペインは口元の血を拭いながら笑う。
「最高だ!」
「こんな奴、初めてだ!」
再び踏み込む。
bloodbath Slaughter――殺戮真化。
爆発的な加速。
拳が惣一の顔面を狙う。
しかし。
「遅い。」
惣一は半歩だけ身体をずらした。
拳は空を切る。
そのままペインの手首を掴み――
一本背負い。
ドォォォン!!
巨体が地面へ叩き付けられる。
「がっ……!」
ペインはすぐに受け身を取り立ち上がる。
「柔術まで使うのか!」
惣一は静かに答えた。
「使えるものは使う。」
その様子を見ていたイレイダが笑う。
「相変わらず規格外だな。」
ソウヤも頷く。
「でも。」
「俺たちも負けてられない。」
拳を握り直す。
「名取さん!」
「俺たちも戦います!」
惣一は振り返らず答えた。
「ああ。」
「それでいい。」
「この戦いは、お前たちの戦いでもある。」
ソウヤとイレイダは再びペインへ向き直る。
三人で一人。
ペインを追い詰め始める。
一方。
刹那とラルゴ
「面白い。」
ラルゴは初めて笑みらしきものを浮かべた。
「もっと。」
「戦う。」
刹那は剣を静かに構える。
hallucinatio gladius――幻剣。
無数の幻影がラルゴを取り囲む。
「どれが本物。」
ラルゴが拳を振るう。
しかし。
すべて幻。
「こちらです。」
ザシュッ!!
今度は脚へ斬撃が走る。
ラルゴが膝をつく。
夢幻とアランダ
夢幻の呪詛によって、人形たちの動きは徐々に鈍くなっていた。
アランダは人形を操り直そうとする。
neuropastum(傀儡)。
しかし。
黒い呪符が絡みつき、人形は思うように動かない。
「こんなこと……。」
夢幻は静かに微笑む。
「あなたの能力は強い。」
「ですが。」
「操る力には、縛る力が有効です。」
アランダは初めて余裕を失った。
屋上
ネネが呟く。
「押されてる……。」
マランは黙って戦場を見つめる。
「……。」
ネリクマが横を見る。
「助けないの?」
「まだ命令はない。」
そう答えながらも、マランの表情は硬かった。
その頃。
マスタークラウン本部。
グランは長い通路を歩いていた。
部下が声を掛ける。
「統帥。」
「本当に向かわれるのですか。」
グランは足を止めない。
「ああ。」
「名取惣一が出た以上。」
「俺も出る。」
静かに扉が開く。
その奥には、黒いロングコートが掛けられていた。
グランはそれを羽織る。
「能力研究所。」
「名取家。」
「まとめて終わらせる。」
赤い瞳が妖しく光る。
その頃。
天空より地上を見つめる二つの影。
覇者の使徒――
デウス。
そしてアメス。
デウスは戦場の方角を見つめ、小さく笑った。
「始まったか。」
アメスは静かに目を閉じる。
「まだ。」
「私たちの出番ではありませんね。」
デウスは頷く。
「そうだ。」
「覇者の集いは傍観者。」
「世界の行く末を見届ける。」
二人は再び静かに戦場を見つめた。
その瞳には、能研でもマスタークラウンでもない、第三者としての冷静さが宿っていた。
一方、能研ハウスでは――
惣一がゆっくりと右手を上げる。
その視線の先には、なお立ち上がるペイン。
「来い。」
「何度でも相手をしよう。」
ペインは血を吐きながら笑う。
「望むところだ。」
二人の激突は、さらに激しさを増していく。
――第142話 完




