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Psycer Brain ─ 神に抗え。その力で運命を変えろ─  作者: n217 (嘯江 新)


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137/181

第137話「分断」

能研ハウス――


「しまった!」

燕が叫ぶ。


直後。


アランダの人形たちが、一斉に散開した。

前話でグランから下された命令。


――能研を分断しろ。


その意図を理解したアランダは、正面から押し切ることをやめた。

人形たちは攻撃のためではなく、能研メンバー同士の距離を引き離すために動き始める。

「結衣さん!」

燕が振り返る。

だが、その間へ三体の人形が滑り込む。

ガシャンッ!!

一体目。

拳。

二体目。

蹴り。

三体目は燕の背後へ回り込む。

「くっ……!」

燕は腕で一撃を受け止めた。

同時に、自身へ能力を発動する。


Ability improver(能力向上)。


身体能力を引き上げる。

「邪魔です!」

ドゴォン!!

一体を殴り飛ばす。

振り返って二体目の腕を掴み、そのまま地面へ叩きつける。

だが――。

「……!」

燕が気づく。

倒した人形を追っていた間に、結衣との距離がさらに開いている。

「そういうこと……!」

アランダは遠くで微笑んでいた。

「気づいた?」


neuropastum(傀儡)。


指先がわずかに動く。

それだけで、残る人形たちの配置が変わる。

「あなたたち、ずっと助け合って戦っていたでしょう?」

「だったら。」

「それをできなくしてしまえばいいの。」

結衣の左右へ二体。

小雨の前へ三体。

燕の周囲へさらに四体。

一人を集中して倒そうとはしない。

仲間のところへ行こうとした瞬間だけ――

必ず邪魔をする。

「厄介……。」

小雨がぼそっと呟く。

左目の眼帯へ指を掛ける。

アランダは即座に一体の人形を自分の前へ移動させた。

小雨の左目とアランダの視線が遮られる。

「……また。」

アランダが笑う。

「その目は怖いもの。」

「見ないに越したことはないでしょう?」

小雨は不満そうに人形を睨む。

「人形は眠らない。」

「そういうこと。」


直後。


別の人形が小雨の死角から蹴りを放った。

「小雨ちゃん!」

結衣が叫ぶ。

小雨が振り向く。

遅い。

だが――。

ドンッ!!

燕が横から飛び込み、人形を蹴り飛ばした。

「大丈夫ですか!」

「……うん。」

「でも燕さん。」

小雨が燕の背後を見る。

「結衣さんが。」

「!」

燕が振り返る。

今度は結衣の前に二体。

アランダが狙っている。

回復役。

攻撃能力を持たない結衣を動かせば、必ず誰かが庇いに来る。

「結衣さん!」

燕が走ろうとする。

その瞬間。

「ほら。」

アランダが指を動かした。

ガシッ!

二体の人形が燕の腕を左右から掴む。

「っ!」

さらに一体が脚へ絡みつく。

完全に止めることが目的ではない。

ほんの数秒。

それだけで十分だった。

結衣は後退する。

「来ないで……!」

人形の拳が振り上げられる。


その時――。


「結衣!」

空から声が落ちた。


柚季。

Aviator(飛行)。


一気に急降下し、結衣の腰を抱えて再上昇する。

ブォンッ!!

人形の拳が空を切った。

「柚季!」

「危なっ!」

柚季は結衣を抱えたまま空中で体勢を立て直す。

「ほんっと最悪!」

「こいつら、倒すんじゃなくて私たちをバラバラにする気よ!」

「うん……!」

結衣もようやく状況を理解した。


地上。


燕。

小雨。

空中。

柚季と結衣。

そしてアランダ。

距離が開いている。

アランダは満足そうに微笑む。

「綺麗。」

「その方が戦いやすいでしょう?」

「私が、だけど。」

燕の表情が険しくなる。

「あなた……とことん性格が悪いですね。」

「あら。」

「ありがとう。」


その頃――。


別の戦場

ズガァァァァン!!

ラルゴの拳が道路へ叩き込まれた。

地面が大きく陥没する。

雛儀は直前に横へ跳んでいる。

しかし――。

衝撃だけで身体が吹き飛んだ。

「くっ……!」

空中で身体を回転。

着地。

帝凰剣を構え直す。

ラルゴはゆっくり顔を上げる。

「避けた。」

雛儀は呼吸を整える。

「まともに受けたら終わりですから。」

ラルゴが一歩進む。

ドン……。

「なら。」

もう一歩。

ドン……。

「逃げられないくらい。」

巨大な両腕へ力が入る。


Storonger(怪力)。


「壊す。」

雛儀の瞳が鋭くなる。

ラルゴの拳が横薙ぎに振るわれる。

「ッ!」

帝凰剣を盾にする。

ガギィィィン!!

「ぐっ――!」

止められない。

雛儀の両足が地面を削る。

五メートル。

十メートル。

さらに押される。

「なんという……!」

腕が痺れる。

帝凰剣が軋む。

それでも――。

「はぁぁぁぁッ!」

雛儀が身体を捻る。

ラルゴの拳の軌道を僅かに逸らし、その脇へ滑り込む。

斬ッ!!

帝凰剣がラルゴの脇腹を切り裂いた。

「……。」

血が流れる。

ラルゴが傷を見る。

雛儀は素早く距離を取る。

「力だけなら。」

「イレイダお姉さん以上かもしれませんね……。」

ラルゴが顔を上げる。

「お前。」

「強い。」

「それも、もう聞きました。」

雛儀は帝凰剣を両手で構えた。

「だから。」

「次は倒す。」

ラルゴの表情は変わらない。

「うん。」

そして。

「俺も。」

再び巨大な拳が握られた。


一方――。


能研ハウス正面

ドゴォォォッ!!

ソウヤの身体が道路を転がった。

「ソウヤ!」

イレイダが叫ぶ。

ペインは追撃を止めない。

すでに能力向上した状態。


bloodbath Slaughter――殺戮真化。


ペインの姿が一瞬消える。

「後ろだ!」

レイの声がソウヤの意識へ飛ぶ。

「!」

ソウヤが身体を捻る。

ブォンッ!!

蹴りが鼻先を通過。

「避けた!」

ペインが笑う。

「じゃあこれは?」

着地と同時。

拳。

ソウヤは腕で受ける。

ドゴォォン!!

「ぐっ!」

防御したまま吹き飛ぶ。

そこへイレイダが走り込む。

「ペイン!!」

横薙ぎ。

ペインは後方へ仰け反る。

刀が髪を数本切り落とした。

「惜しい。」

「そうかよ!」

イレイダは振り切らない。

刀を即座に引き戻す。

そのまま柄で殴る。

ガッ!!

ペインが腕で防ぐ。

直後――。

イレイダの膝蹴り。

ドゴォッ!!

今度は腹へ入った。

「……!」

ペインが数歩後退する。

イレイダは追う。

「まだだ!」

右拳。

左拳。

蹴り。

刀だけではない。

Physical attackerによる身体能力を最大限に利用した近接戦。

ペインが連撃をかわしながら笑う。

「いいねぇ!」

「お前、やっぱ好きだわ!」

「私は嫌いだ!」

蹴り。

ペインが腕で受ける。

その背後。

ソウヤがいる。

「イレイダ!」

「分かってる!」

イレイダが突然身体を沈める。

その頭上をソウヤの拳が通過。

ドゴォッ!!

ペインの顔面。

直撃。

「っ!」

初めて大きく頭が跳ねた。

ソウヤがさらに踏み込む。

だが――。

ペインの口元が上がる。

「捕まえた。」

「!」

ソウヤの腕を掴む。

そのまま持ち上げる。

「ソウヤ!」

「飛んでけ!」

ブンッ!!

ソウヤがイレイダの方向へ投げ飛ばされた。

「うおっ!?」

イレイダが咄嗟に刀を離し、ソウヤを受け止める。

ドン!!

二人まとめて地面を滑る。

「重っ!」

「ごめん!」

「謝るとこそこじゃねぇ!」

立ち上がる。

ペインは首を鳴らしている。

「二人で来ても面白い。」

「でもさ。」

ペインの瞳が鋭くなる。

「さっきより。」

足元。

アスファルトに亀裂。

「遅く感じるんだよね。」


次の瞬間。


消えた。

ソウヤの視界から。

イレイダの視界からも。

(左――いや違う!)

レイの声。

「上だ!!」

二人が同時に顔を上げる。

ペインは遥か頭上。

異常な跳躍力。

空中で身体を捻る。

「まとめて――」

急降下。

「潰す!!」

「散れ!」

イレイダとソウヤが左右へ跳ぶ。

ズガァァァァァァン!!!!

着地。

いや――攻撃。

ペインの踵が道路へ突き刺さり、爆発したかのように地面が砕けた。

破片が四方へ飛び散る。

「くっ!」

ソウヤが腕で顔を守る。

イレイダも瓦礫を斬り払う。


そして――。


タジが能研ハウス内から戦場全体を見ていた。

複数のモニター。

ソウヤとイレイダ。

雛儀。

燕。

結衣。

柚季。

小雨。

位置情報を重ねる。

「……。」

何かがおかしい。

戦闘開始時。

全員は能研ハウスを中心にまとまっていた。

だが今は。

ソウヤとイレイダは正面道路の奥。

雛儀はラルゴに押され、反対側。

結衣と柚季は上空。

燕と小雨も人形に誘導されている。

点と点。

その距離がどんどん離れていく。

「……まさか。」

タジの顔色が変わった。

「これ。」

モニターの表示を拡大する。

アランダの人形。

ペインの攻撃方向。

ラルゴが雛儀を押し込む方向。

偶然ではない。

全員を――

能研ハウスから外側へ広げている。

「おい!」

タジが通信を開く。

「全員聞け!」

ソウヤがペインを警戒したまま答える。

「どうした!」

『離れすぎてる!』

「何?」

『敵の配置を見ろ!』

タジが位置情報を送る。

ソウヤの携帯端末へ簡易図が表示される。

イレイダもそれを見る。

「……!」

能研メンバーを示す光点。

完全に離れている。

タジが叫んだ。

『アランダだけじゃない!』

『ペインもラルゴも、戦いながら俺たちを別方向へ押してる!』

雛儀も通信を聞く。

「意図的に……?」

『そうだ!』

『グランの狙いは――』

その瞬間。

アランダの声が割り込んだ。

「気づくのが遅いわ。」

パチン。

指が鳴る。


neuropastum(傀儡)。


散開していた人形たちが一斉に配置を変える。

結衣と燕の間。

燕と小雨の間。

ソウヤたちへ続く道路。

人形が壁のように並んだ。

「……。」

燕が息を呑む。

アランダはゆっくり両腕を広げた。

「完成。」

「これで。」

「簡単には助けに行けない。」

結衣が不安そうに辺りを見る。

ソウヤが拳を握る。

「グラン……!」


遠く離れたマスタークラウン本部。

そのグランはモニター越しに戦場を眺めていた。

「そうだ。」

「それでいい。」

能研の配置。

完全に分断された戦線。

グランの赤い片目が細くなる。

「お前たちの最大の武器は能力じゃない。」

「互いを守る連携だ。」

指先で画面をなぞる。

「なら。」

「それを奪えばいい。」

静かな笑み。

「一人になった能力者が。」

「どこまで強いのか――」

「見せてもらおう。」


屋上

マランはその戦場を黙って見つめていた。

ネネは隣で不安そうに口を開く。

「……みんな。」

「バラバラになっちゃった。」

「それがグランの狙いだ。」

マランは短く答える。

ネリクマは横からマランを見る。

「マラン。」

「何だ。」

「お前はそれでいいの?」

「……。」

「能研が全員やられても。」

「グランが望んでるなら、それでいい?」

沈黙。

マランはすぐには答えなかった。

ネネがその横顔を見上げる。

「マラン……?」

やがて。

「俺は。」

言葉が止まる。

視線の先。

ソウヤが立ち上がる。

イレイダも。

雛儀も。

燕も。

分断されてもなお、誰一人戦意を失っていない。

マランは小さく目を細めた。

「……まだ。」

「答えを出す時ではない。」

ネリクマはその言葉を聞いて、少しだけ表情を変えた。

以前のマランなら。

迷う必要すらなかったはずだった。


だが今は――

答えを保留した。


それだけで十分だった。


そして地上。


ペインが笑う。

「さて。」

ソウヤとイレイダを見る。

「仲間のところへ行きたい?」

ソウヤは拳を構える。

「もちろん。」

「だったら。」

ペインも構える。

「俺を倒して行けよ。」

イレイダが落としていた刀を拾う。

「最初からそのつもりだ。」

ソウヤも並ぶ。

分断された能研。

それぞれが孤立した戦場。


だが――

戦いは、まだ何一つ終わっていない。


むしろ。


グランが望んだ本当の能研壊滅作戦は――


ここから始まる。


――第137話 完

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