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第7話 異世界旅行するならまずはこれ!王都名所巡り

「皆様、いつもアザール観光をご利用いただき、誠にありがとうございます。

これまでのツアーでは、異世界旅行に少なからず不安や過酷さを感じられた方が多く見られましたので、今回はそんなお客様にも安心してお楽しみいただける、イチオシの定番プランをご紹介いたします」


画面の向こうのミーエルは、いつにも増して柔らかい笑顔を浮かべてパンフレットを掲げた。


【ツアー名】異世界旅行するならまずはこれ!王都名所巡り


【お客様】鈴木様御一行(かんじ様、ゆき様、はやと様・5歳)


【付与能力】不要(代わりに『宿泊地ランクアップ』特典を適用)


【ご要望】初めての海外(?)旅行なので、とにかく定番のスポットを家族で安全に周りたい


【旅行日程】

1日目:王城見学  高級宿「ドラゴンソウル」にて連泊

2日目:大聖堂見学 レストランで昼食  遺跡見学

3日目:朝市散策 アザールから現世へ、現世解散


「それでは皆様、どうぞ良い旅を!」


【1日目】

光が収まった先、鈴木一家が降り立ったのは、美しく石畳が敷き詰められたアザールの王都だった。

中世ヨーロッパを思わせる歴史ある街並み、その中央には、雲を突くように白亜の王城がそびえ立っている。


「すごーい! パパ、ママ、お城だよぉ!」


5歳のはやと君が目を輝かせて歓声をあげる。


「鈴木様、ようこそ異世界アザールへ。今回は初めてのご旅行と伺っておりますので、王都の定番スポットを選ばせていただきました。さあ、こちらへどうぞ」


案内人のミーエルは優しく微笑むと、小さなはやと君の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出した。

王城への道すがら、街の成り立ちや歴史を分かりやすく解説していく。

途中、はやと君が珍しい露店に気を取られて列から離れそうになると、「はやと君、危ないですから私の近くにいてくださいね」と優しく注意を促す。


やがて一行は、普段は一般の立ち入りが制限されている王城の内部へと入った。


「今回は特別に許可をいただいております。中ではお静かにお願いいたしますね」


ミーエルに導かれ、きらびやかな廊下を進んで謁見の間へとたどり着いた。

重厚な扉の隙間から中を覗くと、ちょうど厳かな雰囲気の中で謁見が始まるところだった。


「ちょうど謁見が始まるようですね」


静まり返る空間。玉座へと、威厳に満ちた老王がゆっくりと歩み寄る。

その時だった。はやと君が純粋な瞳を輝かせ、大きな声をあげてしまった。


「あっ! パパ、王様だよ! 」


その声に、謁見の間にいた近衛騎士や貴族たち全員の視線がギロリと一斉にこちらを向いた。


「こら! はやと、静かにしなさい!」


「立派なお髭だねー」


お父さんとお母さんが血の気を引かせながら、慌ててはやと君の口を押さえるが、周りの衛兵が鈴木一家を取り囲む。

恐怖に震える鈴木一家を謁見の間から見た王様は強張った顔を少し緩め、こちらに微笑んだ。


それを見たミーエルは笑顔のまま素早く鈴木一家を促し、そそくさとその場を後にした。


「ふぅ……危なかったですね。アザールの自国民なら、不敬罪で即座に拘束されているところでした……」


「す、すみません、本当に……!」


「いえいえ、何事もなくて何よりでした」


ミーエルは全く嫌な顔をせず、むしろ楽しそうにクスリと笑った。


その夜、宿泊先である高級宿「ドラゴンソウル」に到着した鈴木一家は、その豪華さに圧倒された。


贅沢なふかふかのベッドに、洗練された高級な調度品。

何より現世の人間にとってありがたいのは、清潔な水洗式トイレと、お湯がたっぷり張られたバスタブが完備されていることだった。


夕食に用意された宮廷料理さながらのフルコースを堪能している最中、お父さんが少し申し訳なさそうにミーエルに声をかけた。


「あの、ミーエルさん。ちょっとご相談なんですが……」


「はい、どうなさいましたか? 鈴木様」


「明日の予定ですが、また何か粗相があってはいけないなと…。もし可能なら、5歳の子どもでも安心して楽しめる場所に変更していただくことはできませんか?」


旅行会社にとって、急なスケジュール変更は面倒なはずである。

しかし、ミーエルは嬉しそうに目を細めた。


「素敵なご提案です! 事前にご相談いただければ、お客様に合わせたプラン変更は喜んで承りますよ。……はやと君、普段はどんなものが好きなのかな?」


「僕ね、ヒーローと怪獣が戦うのが大好きなんだ!」


はやと君が身を乗り出して答える。


「分かりました。それでは明日のスケジュールを、はやと君向けの特製プランに書き換えますね。楽しみにしていてください」


【2日目】

ミーエルが代わりに案内したのは、王都の一角にある『勇者記念館』だった。

館内には歴代の勇者たちの雄々しい銅像が並び、中央の広場では「勇者と魔王の人形劇」が上演され、はやと君とお母さんは大はしゃぎでそれを観劇した。


一方、お父さんが少し離れた場所にある銅像を眺めていると、なぜか一体だけ、鎧ではなく「Tシャツに短パン」という妙な格好をした男の銅像が建てられていた。


「これは……?」


「ああ、そちらは弊社のツアーで唯一、魔王を討伐されたお客様の記念像です」


(ツアーで魔王を討伐できるものなのか…?)


お土産コーナーで、一番人気の「勇者のレプリカ」を買ってもらったはやと君は、すっかりご満悦の様子で剣を振り回していた。


王都で大人気のレストランで美味しい昼食をとった後、一同は「ワイバーン(飛竜)便」の詰所へと向かった。


「わぁ! 本物の怪獣だあ!!」


「ここはアザールの長距離輸送を担うワイバーンたちの停留所です。さあ、これからこの子に乗って、空の遊覧飛行に出発しましょう。はやと君、危ないですからシートベルトを締めて、しっかり座っていてくださいね」


「うんっ!」


大型のワイバーン一匹に鈴木一家が乗り込み、その隣を走る小型のワイバーンにミーエルがひらりと跨る。


グンッ! と浮遊感が体を包み、ワイバーンが王都の上空へと飛び立った。


はやと君は右手に勇者の剣のレプリカを高くかざし、気分はもう本物の勇者だ。


「はやと君!危ないからしっかりつかまって!」


ミーエルの声を聞き、両親ははやと君が落ちないよう強く支えた。

眼下には夕焼けで真っ赤に染まった、美しい王都の絶景がどこまでも広がっていた。


【3日目(現世解散日)】

最終日の朝は、活気あふれる王都の朝市を散策した。

見たこともない色鮮やかな食材や、香ばしい匂いを漂わせる屋台がズラリと並んでいる。


「どれも美味しそうねえ。ねえあなた、ちょっと食べてみない?」


お母さんが目を輝かせると、ミーエルがそっと優しく制した。


「奥様、お気持ちは分かりますが、屋台の食材は現世の方は体調を崩される恐れがありますので、あまりおすすめはいたしませんよ」


「あら、そうなの? じゃあやめておくわ。教えてくれてありがとう、ミーエルさん」


鈴木一家は買い食いをやめ、代わりにアクセサリーの露店でお揃いの魔除けの腕輪を購入し、みんなで笑顔で腕につけた。


出発の広場に戻り、いよいよお別れの時間がやってくる。


「そろそろ、現世へお戻りになるお時間です。皆様、今回のご旅行はいかがでしたでしょうか?」


「最初は初めての異世界旅行で本当に心配だったんですが、ミーエルさんのおかげで、信じられないくらい楽しめました!」

とお母さん。


「食事も宿もどれも最高に美味しくて、本当に良い記念になりました」

とお父さん。


「僕、大きくなったら、怪獣に乗った本物の勇者になるんだ!」

はやと君が誇らしげにレプリカの剣を掲げる。


「ふふ、良かったです。それでは皆様、またのご利用を心よりお待ちしておりますね」


優しく手を振るミーエルの前で、鈴木一家の身体が温かい光に包まれ、静かに現世へと帰還していった。


一人残された広場で、ミーエルは嬉しそうに手帳にマル印を3つつけ、くるりとこちらを振り返りにっこりと微笑んだ。


「うふふ、数年後、次に魔王を討伐しにくるのは、はやと君かもしれませんね。

今回もお客様に心からご満足いただけたようで、ガイドとして本当に嬉しいです。

異世界旅行に少し不安がある方も、小さなお子様がいらっしゃるご家庭も、まずはこの『王都名所巡り』から始めてみてはいかがでしょうか?

それでは皆様、またのご利用を心よりお待ちしております」

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