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番外編 ミーエルとネリアの反省会

アザールにある、とあるダンジョンの奥。

テーブルを挟んで向かい合うミーエルとネリアの口からは、重苦しいため息が交互に漏れていた。


「はぁ……。女神様から、また無茶振りをされてしまいましたね……」


ミーエルがカップを置き、眉をハの字に下げて顔を曇らせる。


「はあぁー……本当よ! 悪役令嬢プランの早急な改善案を出せってだけでも頭が痛いのに、『現世の最新の異世界トレンドをもっと貪欲に取り入れなさい!』なーんて、簡単に言ってくれちゃってさぁ! こちとら忙しくて、現世をリサーチする暇なんてないっての!」


ネリアが怒りにまかせて、ティーカップをドン!と大きな音を立ててテーブルに叩きつけた。


「それに……先日のゼバブベルの件で、魔王軍からも正式な抗議文が届きましたし……」


「本当、何なのよあれ!」


数日前、アザール観光のツアーに参加した海斗かいとにネリアたちがテイムさせた、伝説の魔獣『ゼバブベル』。

1匹しか確認されていなかったその魔獣が、海斗の隠された力に反応したのか、謎の増殖を繰り返し1匹から10匹へと増えてしまったのだ。

さらに海斗が現世に帰還した瞬間、野生化した10匹のゼバブベルが、アザールの各地へと一斉に解き放たれていた。


「魔族領にいきなり4匹も現れたせいで、魔王軍の四天王が総出で対処する羽目になったみたいよ。この前、カーミラから、凄い剣幕で怒鳴られたんだから!」


ネリアは忌々しそうに、カーミラの高圧的な物真似をして見せた。


『ちょっとネリア! 何なのよあのすばしっこくて硬くて、無駄に強いハエは!? 魔王様に聞いたら、あんたらアザール観光がまた何かやらかしたんですってね! 危険物の管理くらいちゃんとやりなさいよ!!』


「……とまぁ、怒鳴り散らされて、思い出すだけで耳の奥がキーンとするわ……」


「元を正せば、ゼバブベルの正確な生態を把握しきれていない中で、安易にツアーとして敢行してしまった私たちの完全な失敗でしたね……」


ミーエルが静かに反省の弁を述べると、2人は何度目か分からない深いため息を吐き出した。


「……ねえミーエル。いっそのことさ、今のめんどくさいツアー形式なんてやめちゃって、私たちの時代みたいに、現世の人間を適当に選んでアザールに転生・転移させちゃえばいいんじゃない?」


愚痴っぽく呟いたネリアに対し、ミーエルは真面目な顔をして首を横に振った。


「ネリアさん、適当なんかではありませんよ。ネリアさんが来た時代は、ちゃんと『アザールの環境に極めて高い適性がある魂』だけを選別していましたから」


「えっ、そうなの!? じゃあ、私も含めて、みんなアザールで生き抜くための天才的な才能の持ち主だったってこと?」


「ええ、そうです。だからこそ皆様、数々の苦難を乗り越えて英雄や賢者になられたのです。……ちなみに、最近のツアーのお客様の中で言うなら、オーク村に自ら残る決断をしたたけし様や、先ほどのゼバブベルをテイムした海斗様などは、まさにその『適性』をお持ちですね」


ネリアの背中に冷や汗が流れた。


「た、確かに……。あの数のゼバブベルを従える海斗は、私たちの時代に放り込んでも間違いなく勇者級になれる逸材だったわね……。じゃあさ、他の常連の……例えば『鬼塚夫婦』とか、『段野だんの』はどうなのよ?」


アザール観光のツアーを何度も利用している顧客たちの名前を挙げる。

ミーエルは少し遠い目をしながら、ふっとおかしそうに微笑んだ。


「あの3名様に関しては……アザールへの適性があるというよりは、何と言いますか……『魂と常識のすべてを現世に置いてきたまま、アザールに来ている』という感じでしょうか」


「ある意味凄いわね……。アザールに影響されることなく過ごしてるってことよね……」


ネリアが呆れ果てて乾いた笑いを漏らしていると、パソコンから、軽快な電子音が鳴り響いた。

画面に『新規ツアー申し込み通知』という文字が点滅している。


「あ、噂をすれば申し込みが入ったわよ」


ネリアが気怠げに画面を操作し、申請者の詳細データを表示させた瞬間――彼女の目がギラリと怪しく輝き、口元にニヤリと邪悪な笑みが浮かんだ。


「ちょっとミーエル、見て見なさいよ! まさに今名前が出た『段野』からの申し込みだわ! しかもこれ、『ジャングル団体ツアー』よ!」


ネリアは嬉しくてたまらないといった様子で、即座に「承認」のスタンプを押した。


「よし、決めたわ! 今回の段野の団体ツアーには、私も客として同行する! そして、なんであの段野がアザールの過酷な環境で生き残れるのか――じゃなくて、どうやって毎度涼しい顔をして現世に帰れるのか、この目で直々に暴いてやるわ!」


ネリアは立ち上がり、まるで世界征服を企む悪役のように腰に手を当てて高らかに笑った。


「ふっふっふっ、段野ぉ! 今度こそ、アザールの本当の恐ろしさと絶望を、思い知らせてあげるわ! 覚悟しなさい!!」


「ネリアさん……。別にお客様たちをアザールで恐ろしい目に合わせたり、絶望させたりするのがツアーの目的ではないんですけどね……」


ミーエルは困ったように眉を下げ、優しく微笑んだ。


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