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番外編 アザール女子のお茶会

アザールの某所に存在するとある薄暗いダンジョン。

その最奥にある管理室。


ネリアは相変わらず不機嫌そうに頭を抱えながら、パソコンのキーボードを激しく叩いていた。

パチパチパチ、と部屋に虚しい音が響く中、突如として激しく扉が開け放たれた。


「!? あんたは――!!」


ネリアが驚いて椅子から飛び上がると、そこには妖艶な微笑みを浮かべた美女が立っていた。


「はあ〜いネリア。お久しぶり〜」


入ってきたのは、魔王軍四天王が一角『淫魔の女王 カーミラ』だった。


「来るならちゃんと事前に連絡しなさいよ!」


ネリアが怒鳴り散らしながらも、手際よくハーブティーを淹れてテーブルに出す。


「いいじゃないの。どうせあんたも、ここで一人で暇してるんでしょう?」


カーミラは上等な椅子に勝手に腰掛け、優雅にお茶を口に運んだ。


「魔王軍と違って、こっちはツアーの管理でクソ忙しいのよ!」


ネリアは自分の分のカップをトレイからひったくり、ドカッと対面の席に着いた。


「そういえばこの前、久々に人間が私たちのところまで来たわよ〜。制服を着たちっちゃくて可愛い坊やだったわ〜」


「あぁ、あのツアーね。でも結局、ルシフェラス(魔王)にビビって土下座して帰ったんでしょ? 聖剣一振りで倒せるようにこっちが手配してあげたんだから、サクッとやればいいものを!」


ネリアがガシガシと頭を掻きむしる。


「まぁまぁネリアさん。そんなにイライラしたら美容に障りますよ。現世で人気のイチゴケーキをお持ちしました」


「うわっ!?」


いつの間にか気配もなく現れたミーエルが、テーブルにお皿を並べて隣の席にちゃっかりと着いた。


こうして、アザールの女子3人のお茶会が始まった。


「それにしても、最近の現世の人間は本当に根性がないわよねー」


ネリアがフォークでケーキを突き刺しながら愚痴をこぼす。


「私がこっちの世界にきた時なんて、毎日が生きるか、死ぬかで本当に大変だったんだから。よく生き残れたもんだわ、我ながら」


「そうね〜。最近は四天王が出るような大掛かりな戦闘もめっきり無いから……私、ちょっと太っちゃったかもしれないわ……」


カーミラが自身の細いウエストを揉みながらため息をつく。

すると、ミーエルがケーキを上品に食べながら、カーミラに釘をさした。


「カーミラさんたちは普段からだらけすぎですよ。魔王軍の皆様には、もっと観光ツアーに積極的に協力していただかないと困ります。条約違反を繰り返すようなら、また女神様に報告しなければいけませんよ」


「サラッと恐ろしいこと言わないで頂戴……」


カーミラが苦笑いし、3人は同時にお茶を飲んで一息ついた。


「……ところでカーミラ。ルシフェラスとはどうなのよ、最近は?」


ネリアが意地悪そうな笑みを浮かべて身を乗り出す。

カーミラは途端に、シュンと肩を落とした。


「相変わらず魔王様は全然連れないのよ……。私がこんなに『推し活』しているっていうのに、いつも冷たい目で睨まれるだけ……それでもいいのだけど」


「何百年同じこと言ってるのよ。それでも『淫魔の女王』なわけ? 聞いて呆れるわ」


ネリアの容赦ないツッコミに、カーミラの目がピキリと細くなった。


「あら? 自分の不甲斐なさのせいで何百年も男っ気がない、『純潔の聖女』様が何か仰っているわね?」


「ああん!? 」


ガタァン!!と同時に椅子を蹴って立ち上がり、ネリアとカーミラの間に空間がヒビ割れるほどの殺気が渦巻いた。


その中心で、ミーエルが笑顔のままおしぼりで手を拭う。


「お二人とも。両陣営による戦闘行為は規約違反ですよ。それ以上やると私が止めなくてはいけません」


冷え切ったミーエルの声に、二人は冷や汗を流しながら、何事もなかったかのように大人しくスッと席に着いた。


「……ふん。とにかく、そっちのツアーにもう少し刺激があれば、私たちも退屈しないのよね〜。どうにかならないの、ネリア?」


カーミラが話を戻すと、ネリアは諦めたように肩をすくめた。


「無理よ。今の現世の人間はさ、『異世界なら無双できる!』とか『理想の私になれる!』とか、そんな都合のいいことしか考えてないんだから。昔みたいに『異世界!? マジで死ぬ! ヤバい!』っていう危機感がゼロなのよ。だから、魔王軍とまともにやり合えるような骨のある人間なんて、もう絶滅危惧種なの」


二人が同時に深いため息をつく。


「逆に……私たちが現世に行くことって、できないかしら〜?」


カーミラの思いつきの言葉に、ネリアが眉をひそめた。


「私は転移者だから向こうには行けないし、そんな現世行きのツアーなんて聞いたことないわ。――ミーエル、あんたはよく現世に行ってるじゃない。どうなの?」


ミーエルはお茶を一口飲み、いつもの笑顔で答えた。


「カーミラさんたち魔族も、現世に行くこと自体は可能ですよ。……ただし、アザールでの能力や魔力はすべてなくなり、ただの『普通の人間』になってしまいますが」


「そうなの? ……ちょっと面白そうね、私も今度アザール観光のツアーに申し込んでみようかしら」


「……ねぇ、私も現世に戻れたりしないの? 今更だけどさ」


ネリアが少しだけ期待の目をミーエルに向ける。


「ネリアさんは多分無理ですね。アザールの『古のことわり』と深く繋がり過ぎていますから」


「そうなの……。はぁ、女神様も観光業なんて手広くやってる割には、そういうところ頭固いわよねー……」


ネリアはがっくりと机に突っ伏した。


「あら? もうこんな時間じゃない。そろそろ帰るわね」


カーミラが壁の時計を見て立ち上がった。


「早いわね。もう少しいたら?」


「この後、ギルマ(四天王の一人)と人間の街へコスメを買いに行く約束をしてるのよ。それじゃあね〜、ネリア、ミーエル」


カーミラはヒラヒラと手を振りながら、軽やかな足取りで部屋を出て行った。


「私もそろそろ、次のツアーのお客様をご案内する時間ですのでお暇しますね。それではネリアさん、また」


ミーエルも立ち上がると、空気のように静かにその場から消え去っていった。


「……ハァ。一気に静かになったわね……」


誰もいなくなった管理室で、ネリアはぽつりと呟いた。


静寂が部屋を包み込む。


「……あーあ。私もどこでもいいから、たまにはどっか行きたいわ……」


小さくため息をつくと、ネリアは再びパソコンに向かい、ガシガシとキーボードを叩き始めた。

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