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僕が死ぬとき、世界は無に還る ―自覚なき刻術士のやり直し無双―  作者: 七鳳


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第23話 腐った国の収穫者

 受付で依頼を確定させた瞬間、壁一面に浮かび上がっていた魔法の光の文字が、生き物のように一箇所へと収束していった。眩い光が収まると、そこには詳細な場所と内容が記された「紙の依頼書」が残されていた。


 それを受け取ったセナたち四人に、ワディが相変わらず掴みどころのない笑顔を向ける。


「裏ギルドへの出入りはしばらくは僕がするから、依頼が終わったら迎えに行くね」


「ああ、分かった」


 セナが短く応じ、ワディに導かれて民家のドアを開けて外へと出る。ルフニカの街は、まだ深い夜の闇に包まれていた。


「もう夜も遅い。明日の朝になったらダンジョンへ向かおう」


 セナの提案にアヤたちも同意し、四人は一度トルク家へ戻って、明朝の出発に向けて静かに英気を養うことにした。


 ――翌朝。


 セナ、アヤ、リリア、エルナの四人は、ルフニカ郊外の寂れた岩山にある指定のダンジョンへと足を踏み入れていた。


 依頼書に添付されていた詳細な地図を頼りに、四人は迷うことなく薄暗く湿った通路を突き進み、ついに最下層の隠し扉を開ける。その瞬間、ツンと鼻を突く独特の甘い香りと、妖しい紫色の光が四人の視界に飛び込んできた。


「……何、これ」


 リリアが不快そうに眉をひそめる。


 そこに広がっていたのは、洞窟の地熱を利用して密かに栽培されている膨大な「麻薬の畑」だった。出荷を待つ大量の乾燥葉が、棚に山積みにされている。裏ギルドにおける『清掃』の真の意味とは、国の一斉摘発などを恐れた組織が、非合法な証拠を完全に「処分」することだったのだ。


「なるほど、裏ギルドらしい仕事だな。リリア、この畑を燃やしてくれるか?」


 セナが冷静に周囲を見渡しながら指示を出すと、リリアは力強く頷いた。


「ええ、任せて!」


 リリアが呪文を唱え、その指先にパチパチと紅蓮の火花が爆ぜた――まさに、その時だった。


 カチャカチャ、と金属が擦れ合う重々しい足音が、栽培所のすぐ目の前で突如として響き渡った。


 引き返すことも、物理的な陰に隠れる時間もないほどの至近距離。


「――『遮光、消音、気配遮断クローク』!」


 リリアが瞬時に呪文を唱えて四人全員に高位の隠密魔法をかけた。セナたちの身体が陽炎のように景色へと溶け込んだ直後、栽培所の入り口の霧が晴れ、一団が姿を現した。


 現れたのは、整然と隊列を組んだ兵士たちだった。その胸元には、ルフニカ王国――つまり、新王側の明確な紋章が刻まれた鎧が光っている。


 国の兵士たちだ。ついにこの密造組織にガサ入れが入ったのかとエルナが身を固くするが、兵士たちの様子は明らかに奇妙だった。


 彼らは栽培所を破壊するでもなく、お互いに緊張感のない軽い笑みを交わしていた。それどころか、手慣れた様子で大きな麻袋を取り出すと、手際よく麻薬の葉を収穫し、ストックされた乾燥葉を次々と袋に詰め込み始めたのだ。


「よし、今月も上々の出来だな」


「これだけの量だ。王宮の幹部連中もさぞお喜びになるだろうよ」


 兵士たちの世間話が、隠密魔法の中で息を殺すセナたちの耳に皮肉に響く。


 彼らは取り締まりに来たのではない。王室の莫大な資金源として、この裏ギルドが育てた麻薬を「回収」しに来た身内だったのだ。国を挙げて裏組織と手を結び、民を蝕む毒で暴利を貪っている。


 目の前で繰り広げられるおぞましい光景が広がっていた。


(今の王は……ここまで腐っているのか……!)


 セナの瞳に、黒く濁った世界の現実が冷徹に焼き付けられた――まさに、その時だった。


 ――ユラッ。


 唐突に、視界の端で栽培所の空間が奇妙に、そして不気味に歪んだ。


(……え? 僕が……やったんじゃない……?)


 セナは戦慄した。この、世界がねじ切れるような空間の歪みは、自身が『刻術』を限界まで酷使した時に感じるものと酷く似ていたからだ。だが、今はまだ何もしていない。


 戸惑うセナを置き去りに、事態は一瞬にして決着した。


 歪んだ空間の中心にいた兵士たちが、叫ぶ暇さえなく、まるで紙のように一瞬にして『割けた』のだ。


 それは切断という生易しいものではない。空間そのものが存在ごと兵士たちを裂いた、異次元の攻撃。赤い霧が舞い、鎧と肉体の残骸が地面に崩れ落ちる。


「……ひっ」


 エルナが短く悲鳴を上げそうになるのを、アヤが咄嗟に口を塞ぐ。リリアの隠密魔法が辛うじて維持されているのが奇跡だった。


 兵士たちが全滅した血の海の中心に、いつの間にか一人の『何者か』が立っていた。


 その何者かは、一瞬にして兵士たちを塵芥に変えたことなど気にも留めない様子で、転がる死体に冷ややかな視線を向け、鎧の残骸を転がす。


「……あれぇ? ここにいるって聞いたのに、誰もいないじゃん」


 その何者かは、どこか気の抜けた、けれど底知れない寒気を孕んだ声で呟いた。


「あいつ、僕に嘘教えたのかな? やっぱり僕のこと舐めてるだろ」


 隠密魔法の中で、セナは心臓が凍りつくのを感じた。王への怒りなど、一瞬で吹き飛ぶほどの、圧倒的な死の気配。


 兵士たちを瞬殺したこの怪物は、一体何を探してここへ来たのか。そして「嘘を教えたあいつ」とは、一体誰のことなのか――。


 ルフニカ王国の腐敗など比較にならない、世界の核心に触れる恐怖が、セナたちの目の前に音もなく姿を現したのだった。

お読みいただきありがとうございます!

最近は戦闘描写が無く寂しい時期でしたがこれから戦闘描写も書いていきますのでお楽しみに


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