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僕が死ぬとき、世界は無に還る ―自覚なき刻術士のやり直し無双―  作者: 七鳳


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第24話 対峙する刻術師

 血の海の中心で「じゃあ帰るかー」と呟いた何者かは、再び空間をユラリと歪ませると、そのまま音もなくその場から掻き消えた。


 気配は完全に途絶え、栽培所にはただ静寂だけが残される。


「……行った、みたいね」


 リリアがホッと息を漏らし、全員にかけていた隠密魔法クロークを解除した。四人がその場に姿を現し、張り詰めていた緊張がわずかに緩んだ――まさに、その瞬間だった。


「ああ、やっぱりそこにいたんだ」


 消えたはずの声が、今度はセナたちのすぐ背後から突き刺さった。


「――っ!?」


 セナたちは戦慄し、一斉に振り返りながら武器を構える。

 何者かは最初から部屋を出てなどいなかった。一度完全に気配を消して立ち去ったと見せかけ、四人が自ら隠密を解くのをすぐ近くでじっと待っていたのだ。


 次の瞬間、栽培所の空気が爆ぜた。


 一転して防衛のための激しい戦闘へと発展する。アヤが先陣を切って鋭い一撃を放ち、リリアとエルナが間髪入れず援護の魔法を叩き込む。しかし、その何者かは空間をユラリと歪ませるだけで、あらゆる攻撃を紙一重で、まるで遊ぶかのようにいなしていく。


 圧倒的な実力差。セナは限界まで自身の『刻術』を絞り出し、勝負をかける決意をした。だが――。


「おっと、ストップストップ! 僕は別に、君たちと殺し合いをしに来たわけじゃないんだよね」


 何者かはひらりと身を翻すと、両手を上げて戦闘の意志がないことを示した。


 攻撃の手を止め、あっけにとられるセナたちを前に、怪物はケロッとした調子で告げる。


「君たちと、ちょっと話し合いをしに来ただけなんだけどな」


 殺意が一瞬で「対話」という名の未知へと切り替わる。


 セナは警戒を解かずに相手を睨みつけた。その際、視界の端に映った空間の歪みに、思わず息を呑む。


 兵士たちを裂いた時と同じ、この世界をねじ切るような空間の歪み。それはセナが自身の『刻術』を使った時に感じる、あの特有の感覚とまったく同じものだった。


(……同じ……力を使っているのか?)


 目の前に立つこの正体不明の怪物は、自分と同じ『刻術』の使い手ではないかという疑問が、セナの脳裏を激しく突き抜ける。


 ルフニカ王国の腐敗や裏ギルドの陰謀などという枠組みを、軽々と飛び越えてくるような得体の知れない存在。


「……話し合い、だと? 何が目的だ」


 セナは構えたまま、静かに問いかける。


 緊張が極限まで高まる栽培所で、セナと、謎の刻術師の対峙が始まった。

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