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僕が死ぬとき、世界は無に還る ―自覚なき刻術士のやり直し無双―  作者: 七鳳


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第2話 領域の抹消

初級ダンジョンの攻略は、拍子抜けするほど順調だった。


「せーのっ、火炎弾ファイアボール!」


 リリアが放つ正確な魔法が魔物を焼き、ひるんだ隙にアヤの大剣が一閃する。危なげない。時折、死角から迫る攻撃をセナが『刻術』で一瞬止め、最小限の動きで回避をサポートする。


「いい感じ! このパーティ、最強になれるよ!」


 ダンジョンの最深部でリリアが笑う。アヤも静かに頷き、出口への魔法陣に足を踏み入れた。


 だが、その光が彼らを包もうとした瞬間――空間が、ガラスが割れるような音を立てて歪んだ。


「――っ!? 景色が……違う?」


 気づけば、三人は黒紫色の霧が渦巻く、禍々しい回廊に立っていた。


 背後の魔法陣はノイズのようにかき消え、そこにあるのは底知れぬ悪意。霧の奥から、カチ、カチ、と規則正しい金属音を立てて現れたのは、ボロボロの法衣を纏い、四本の腕を持つ『死神』だった。


「リリア、セナ、下がれ! 奴は……ヤバい!」


 アヤが叫び、大剣を構える。だが、死神の鎌が動くのが早かった。


「あ……」


 一瞬。白銀の鎧ごと、アヤの体が上下に両断された。


「ごめん……」


力なく呟き、彼女の体は石畳を赤く染めて崩れ落ちた。


「――――ッ!!?」


 リリアの喉から、言葉にならない悲鳴が迸った。


 次の瞬間、彼女を中心に暴走した魔力が炸裂する。 詠唱も、術名もない。ただただ「目の前の怪物を消し去りたい」という狂乱した意思が、紅蓮の火柱となって死神を飲み込んだ。


 周囲の空気が一瞬で焼き尽くされ、視界が白く塗りつぶされるほどの熱量。


 だが、炎が晴れたそこにいたのは、煤一つついていない死神の姿だった。


「……当たってるのに……魔法が、消されて……っ」


 絶望に目を見開くリリアの首を、死神の三本の指が軽々と掴み上げる。パキッ、と乾いた音が響き、彼女の体が地面に落ちた。その瞳から光が消える。


「……あ、ああ、ああああ!!」


 セナは短剣を抜き、無謀にも死神へ突っ込んだ。


「『とき』よ! 止まれ!!」


 渾身の力を込めた刻術。だが、死神の鎌は、静止したはずの時間を無理やり引き裂いて振り下ろされた。


 ガ、ッ。


 冷たい刃がセナの心臓を貫き、背中まで突き抜ける。

 肺が血で満たされ、意識が闇に沈む。死の淵、あの掠れた老人の声が響いた。


『……やり直しだ』


 ――カチッ。脳内で、鋭い時計の針の音が弾けた。


「…………チッ」


 死神が獲物を仕留めたと確信したその時、死んだはずの少年の指が動いた。


「……やってくれたな。不甲斐ねえにも程があるぜ」


 セナの口から漏れたのは、低く、冷徹な「俺」の声。周囲の「時」が不気味に歪み、血溜まりが逆流してセナの傷口へと吸い込まれ、貫かれた心臓の鼓動が再開した。


 ゆっくりと立ち上がる彼の瞳は深淵の黒に染まり、周囲の魔力を根こそぎ食い尽くすほどのプレッシャーを放つ。


「キ、シャアアア!!」


 死神が鎌を叩きつけるが、「俺」は動かない。

「言っただろ、やってくれたなって。……リブート(再起動)の準備だ。大人しく消えてろ」


 パチン、と指を鳴らした。


「――『刻術・絶域抹消イレイザー』」


 一瞬。音が消え、光が死んだ。死神がいた空間が「漆黒の空白」へと変貌し、存在そのものが歴史の断片ごと消滅した。


 瞳から黒が抜け、少年の体が力なく膝をつく。その瞬間、再生の光に包まれたアヤの指が微かに跳ね、その瞳が「死神を消し去るセナ」の背中を確かに捉えていた。


「……リブート、開始」


 世界が逆再生されていく光景の中で、セナは再び深い眠りへと落ちていった。

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