第19話 仲介者と裏ギルド
明くる日の夜。
ルフニカのギルドは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、まばらな酒客が低い声で談笑しているだけだった。
エルナを宿に残し、僕は一人、指定された窓際の席へと歩を進めた。
リリアの高度な『隠密魔法』によって、アヤとリリアの二人は姿も気配も完全に消し、死角から僕を護衛してくれている。
窓際の席に座っていたのは、アヤと同じくらいの年齢に見える、中性的な顔立ちの人物だった。
男とも女とも取れる整った容姿だが、その佇まいからは、ただ者ではない洗練された強者の気配が漂っている。
「よく来たね、セナ。待っていたよ」
その人物はトントン、と対面の椅子を指先で叩き、人当たりの良い笑みを浮かべた。驚くほど友好的な態度だ。
「僕たちの名前を知っているんだね。……手紙の主、でいいのかな?」
僕が席に着くと、彼は小さく頷き、目を悪戯っぽく細めた。
「僕はワディ。名前だけでも覚えてもらえると嬉しいな」
「ヴァルターの旦那から話は聞いていてね。君たちが『裏ギルド』を探しているって」
「ああ。立ち入り方を知りたいんだ」
「いいよ。君たちには期待しているからね、いろいろ教えてあげる」
ワディは身を乗り出し、声を潜めて滑らかに語り始めた。
「まず、裏ギルドは実在する。けれど、決まった場所にあるわけじゃないんだ。国の軍から逃れるために、拠点を常に転々と変えているのさ。……まあ、今の王になってからは、その逃亡も少なくなったんだけどね」
「今の王になってから?」
「そう。なんせ今の王は、元々は僕らと同じ『裏ギルド』出身の人間だからさ。色々と融通が利くのさ」
ワディは皮肉げに口元を歪め、さらに続けた。
「表のギルドと同じように依頼も張り出される。だけど、内容は人の暗殺や密輸……まあ、裏の仕事ばかりだけどね。君たちにその覚悟があるなら、いつでも歓迎するよ」
ひと通りの情報を話し終えると、ワディはすっと席を立った。
「さて、今日のところはここまでだ。次に会う時は、また前のように部屋の前に手紙を置いておくよ」
「僕らの動きは君には筒抜けって事か」
「お手の物さ」
フッと笑ったワディは、ふと、リリアの隠密魔法で誰もいないはずの空間へと、正確に視線を向けた。
「ああ、それと……そこにいるお連れさんたちに、睨むのをやめてくれって伝えておいてよ。僕は戦う意思なんて全くないんだから、怖くなっちゃうよ」
「……!」
僕がわずかに目を見張る間に、ワディはひらひらと手を振りながら、夜の闇へと溶けるようにギルドを去っていった。
――数分後。
ギルドから離れた、街の深い夜陰の路地裏。
先ほどまで僕と笑い合っていたワディは、先程の友好的な笑みを完全に消し去り、冷徹な瞳で闇の向こうへと語りかけていた。
「――はい。セナ・クロイツと接触できました」
虚空から返る、低く不気味な声に、ワディは淡々と報告を続ける。
「間違いありません。あの、クロイツ家の者と思われます」
『……ふむ。力はどうだった?』
「…以前のような力を感じることが出来ませんでした。何かしらの制限がかかっているのか、それとも……」
『引き続き、油断せずに監視を続けろ』
「はい。了解いたしました。引き続き監視を続けます――」
ワディの冷たい呟きが、静かにルフニカの闇に消えていった。




