表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が死ぬとき、世界は無に還る ―自覚なき刻術士のやり直し無双―  作者: 七鳳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/16

第13話 自由という名の檻

 ルフニカの街の門は、エルナが言った通り驚くほどあっさりと開かれた。通行料もなく、門番たちは「歓迎するよ、旅の御一行」と爽やかにすら感じる笑顔で一行を通した。


「……よかった。門の警備が厳しいかと身構えていたけれど、杞憂だったかしら」


 アヤが僅かに肩の力を抜く。


「言ったでしょう? ルフニカは、来るものを拒まない街なんです!」


 エルナは誇らしげに胸を張り、セナたちの腕を引くようにして街の中心部へと向かった。


 最初に向かったのは冒険者ギルドだ。扉を開けた瞬間、熱気と笑い声が一行を包み込んだ。


「ガハハ! 昨日の獲物は高く売れたぜ!」


「こっちの依頼、誰か受ける奴はいねえか!」


 酒の匂いと、依頼を求める冒険者たちの活気。そこはヴィーレのギルドよりもずっと明るく、健全な賑わいに満ちていた。


「すごいな……。本当に、普通のいいギルドだ」


 セナは少し驚きながら、受付で護衛任務の完了を報告する。


「はい、確認いたしました。無事の到着、何よりです。こちら、報酬の銀貨5枚になります。お疲れ様でした!」


 受付の女性は、心からの笑顔で袋を差し出した。銀貨5枚。護衛任務としては十分すぎるほどの、正当な対価だ。


 ギルドの中は相変わらず、冒険者たちの快活な笑い声で満ちている。彼らは新王が即位したことは知っていても、その王が町にどんな「毒」を撒き始めたかはまだ知らない。武力を持つ彼らにはまだ牙を剥かず、味方につけておく。新王の統治は、驚くほど計画的だった。


「さあ、お仕事はこれで終わりです! セナ様、お礼に私が街を案内します! 美味しいお店もたくさん知ってるんですから!」


 報酬を受け取って足取りの軽くなったエルナに連れられ、一行は再び街へ出た。


 だが、ギルドを一歩出た瞬間の「違和感」を、セナは見逃さなかった。大通りに面した市場。そこには確かに客がいて、売り買いが行われている。……けれど、ギルドの中にあった「笑い声」が、ここには一つもなかった。


「あ! あそこ、私の仲間の魔法道具屋さんです! 行ってみましょう!」


 エルナが駆け寄ったのは、色とりどりの魔石が並ぶ洒落た外観の店だった。


「トビアスさん! 私です、エルナです!」


 店奥から出てきた青年を見て、エルナが息を呑む。かつては恰幅が良く、自慢げに魔道具を語っていたはずのトビアスは、頬がこけ、目元には深い隈が刻まれていた。


「……エルナか。……ああ、無事だったんだな」


 トビアスの声は、カサカサに乾いていた。


「どうしたんですか、その姿! それに、この店……あんなにたくさん並んでいた魔法ランプや杖はどうしちゃったの!?」


「……消えたよ。商品を売るたびに、中身を削り取られるみたいにね」


 トビアスは、店外の角に立ってこちらをじっと監視している役人を顎で示した。役人は、まるで今日の夕飯のことでも考えているかのように退屈そうに、事務的な手つきで帳簿をつけている。


「新王様が言ったんだ。『商売の利益は、6割を国に納めろ』って。……俺たちは必死に商品を売る。でも、客から代金を受け取った瞬間に、あの役人が横から『6割』を奪っていくんだ。商品を売っても仕入れ代すら残らない。棚は空になっていくのに、俺の手元にはパン一つ買う金も残らないんだよ。……ただ、在庫が吸い取られていくだけの商売さ」


「そんな……! だったら、お店を畳んで、一度街を出て……」


「……できないんだよ、エルナ。商売を辞めることも、資産を持って街を出ることも『反逆罪』になる。昨日、隣の服飾屋の主人が夜逃げしようとして……門のすぐ先で、見せしめに斬られたんだ」


 エルナの顔から血の気が引き、その場に崩れ落ちそうになるのをリリアが慌てて支えた。


「そんな……エルナちゃんの故郷なのに、こんなのひどすぎるよ……」


 リリアの瞳に涙が浮かぶ。一方で、アヤは抜く手のない憤りを湛えた瞳で役人を射貫いていた。法を、民を蹂躙する鎖に作り変えた新王への、元騎士としての静かな、そして深い軽蔑。


 セナの耳の奥で、ドクン、と脈打つ音がした。


 ギルドの連中が笑っていられるのは、単にこの「檻」の恐ろしさをまだ知らないからに過ぎない。彼らに渡される報酬も、その出どころは……。


 笑顔で客を招き入れ、商売という「日常」を続けさせながら、その裏では逃げ場を完全に塞ぎ、法という名目で利益を根こそぎ奪っていく。頑張れば頑張るほど王が太り、商人は飢えていく。真面目に生きようとする人間の想いを、システム一つで踏みにじるその狡猾さが、セナにはどうしても許せなかった。


「……汚いな」


 セナの口から、低く鋭い声が漏れた。


 何が法だ。ただの卑怯な搾取じゃないか。


 理不尽を「正当なルール」のように振る舞う新王のやり口は、セナにとって吐き気がするほどの冒涜だった。


「……こんなものが、許されていいはずがない」


 ドクン、と心臓が跳ねる。


 セナの身体から、怒りに呼応した刻術の圧力が溢れ出した。静かな、けれど苛烈な怒り。その衝動に呼応するように、セナの周囲の空間が目に見えて歪み始める。大気がねじれ、視界が波打ち、地面の石畳がミリミリと音を立てて軋んだ。無意識のうちに漏れ出したその力が、周囲の現実を削り取ろうとしていた。


「……セナ、落ち着いて」


 アヤが、セナの震える肩にそっと手を置いた。


「今ここでその力を解放しても、この歪んだ法は壊せない。……まずは、落ち着ける場所へ行きましょう」


 セナは深く呼吸をし、溢れそうになる魔力を無理やり抑え込んだ。歪みがゆっくりと収まっていく。


「……ごめん。……そうだね。宿を探そう」


 セナは、トビアスに背を向けて歩き出した。手にした報酬の銀貨5枚が、奪われた誰かの血の重さのように感じられ、ひどく重く、そして冷たかった。

お読みいただきありがとうございます!

構成を考えそれを文章にするのはとても難しいのですね。

読める文章にするため頑張りますので応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ