第69話:Point of No Return
「ヤマダさーん!」
外に出ると、そこにはカイルが立っていた。
「カイル、さん……? どうしたんですか? こんな時間に」
「急に、すみません。実は、ヤマダさんに用があって」
そう言い終えると、カイルの後ろから、三つの人影が現れる。
「お久しぶりです、山田さん」
黒田さんが、軽く手を挙げる。
その後ろには、河瀬さんと、中村さんの姿もあった。
「あれ、皆さんも!?」
「どうも、お久しぶりです」
そう尋ねると、河瀬さんが答えた。
ちょうどその時、洞窟の奥から、ミーが飛び出してくる。
「ヤマダー、誰かきたのー?」
「あ、ミー……」
俺の足元にぴょんと跳ねる。
河瀬さんが、一瞬、顔を伏せたような気がした。
(……ん?)
少し遅れて、フーとヒーも出てくる。
「ヤマダ、お客さん……」
「あら、なんだか賑やかね」
ミーとヒーが、四人を見渡しながら呟いた。
◆◇◆
「それで、用っていうのは?」
俺が尋ねると、黒田さんが改めて口を開いた。
「単刀直入に言う。実は、元の世界に帰る方法が見つかったんだ」
「帰る……」
思わず、言葉が詰まる。
「あのヴェリウスさんがな、ずっと研究していたんだよ。この世界から、別の世界に移動する方法を」
黒田さんは、魔道士ヴェリウスが研究を進める中で、誤って他の世界から連れてきたのが、俺たちだったということを説明してくれた。
「――そして欠けていた知識を埋められる人を、王都から連れてくることができたんだよ。それで……元の世界に戻ることができる可能性が出てきたんだ」
黒田さんは、まっすぐに俺を見た。
「それで、山田さんは、どうする?」
(帰る……俺は……)
ふと、視線を落とす。
足元では、ミーがぽよんと跳ねていた。
その隣を、フーがふわりと漂うようについていく。少し離れた場所では、ヒーが、気持ち良さそうに羽を伸ばしていた。
この世界で、関わってきた多くの人たちの顔を思い浮かべる。
「ヤマダー?」
ミーが足元で俺に声をかけた。
迷う気持ちなんか、最初からなかったんだ。
「俺は、ここにいます」
はっきりと、そう告げた。
「そうか……分かった」
黒田さんは、噛みしめるように頷いた。
俺は、彼らに何か飲み物でも出そうと思い提案してみたが、黒田さんにやんわりと断られた。
「……それじゃ、俺たちは行くよ」
そうして、四人は森の奥へと去っていった。
その背中を見送りながら、俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
◆◇◆
「ねえ、ヤマダは本当に良かったのかしら? あなた、別の世界から来たのでしょう?」
ヒーが、静かに尋ねてくる。
「あれ? 話したこと、あったっけ?」
「全部お見通しよ。あなたみたいな人、この世界にいないもの」
(やっぱり、ヒーにはかなわないな……)
「いいんだ。それに俺さ、みんなのことが好きなんだよ。この世界のことも、全部」
「あら、愛の告白かしら」
「そうだな」
笑いながら、そう答えた。
「ヤマダが、みんなのこと好きなんだってさ」
ヒーがそう言うと、ミーとフーが、勢いよく寄ってきた。
「ミーも、ヤマダーすきー!」
ミーが俺の体に体当たりしてくる。
「うお!」
思わずよろける。
(ダメージのある、愛情表現……!)
「僕も……」
フーが俺の頭上を漂う。
「ありがとう」
俺はミーとフーを抱きかかえる。
「スーちゃんもー」
ミーが、思い出したように言う。
「そうだな。スーちゃんのことも、好きだよ」
「スーちゃん、お花畑にいるのかな」
そうフーが呟いた、その時だった。
遠くから、何かが駆けてくる音が聞こえてきた。
(あれは……?)
「って、スーちゃん!?」
勢いよく、スーちゃんが駆け寄ってくる。
寸前で止まろうとしたようだが、止まりきれず、その反動で俺に衝突した。
「うおおっ」
二連続で、愛の体当たり。
倒れ込む俺の顔を、スーちゃんが鼻を寄せる。
「くすぐったい……」
(スレイプニルって、伝説の馬じゃなかったっけ?)
そんなことを思いながら、みんなの笑い声が静かな森に響いていた。
今度こそ眠りについた、真夜中のこと。
どこかで、大きな音がした。
その音は、雷とも爆発とも違っていた。空そのものが震えたような、不思議な音だった。
それでも俺は――静かに目を閉じた。
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この作品は、次回のエピソードをもって完結となります。
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それでは。




