第67話:祈り
町長がベッドから、ゆっくりと立ち上がる。足取りもしっかりしていた。
「もう、大丈夫なんですか?」
「ああ。医者も、少し疲れが溜まっていただけだろうと言っておった。歳を取ると、昔のようにはいかんものだな」
そう言って、町長は苦笑した。
「良かったら、わしの家へ来るか?」
町長が、そう切り出した。
「助けてもらったお礼だ。それに、これもな」
そう言って、手の中の宝石にちらりと視線を落とす。
「いえ、悪いですよ、そこまでしてもらうのは申し訳――」
「いくー!」
遠慮する俺の横で、ミーが真っ先に喜びの声を上げた。
「たのしみー」
「そうかそうか」
「すみません……では、お言葉に甘えさせていただきます」
ミーを見る町長は、目尻を下げていた気がした。
◆◇◆
案内された屋敷は、歴史を感じさせる、広大な造りだった。年季の入った調度品の数々が、この町の歴史を物語っているようだった。
スーちゃんも、屋敷の厩へと丁重に案内されていく。
「立派な馬だな」
厩番らしき男性が、感心したようにスーちゃんを見つめていた。
俺たちはスーちゃんに手を振り、しばしの別れを告げると、屋敷の中に入った。
町長が使用人たちに向かって声をかける。
「この者たちは、わしの客人だ。丁重にもてなしてくれ」
「かしこまりました」
使用人たちが、綺麗に整列して頭を下げる。
(客人待遇……なんだか申し訳ないな……)
「あの、この子たちも一緒なんですが、大丈夫でしょうか……」
俺は、ヒーフーミーを示して確認する。
「構わん。彼らも、わしの大事な客人だ」
町長の一言で、使用人たちは特に動じる様子もなく頷いた。
夕食の席には、香ばしく焼かれた魚料理と、彩り豊かな野菜が並んでいた。
「おいしそー!」
ミーが目を輝かせる。
口に運ぶと、素材の味を活かした優しい味付けが広がった。料理人の丁寧な仕事ぶりが感じられるものだった。
「これ、お米……?」
見覚えのある白い粒に、思わず声が漏れる。
(和食っぽいメニューもあるんだな。パンばっかりだったから、なんだか安心する……)
「おかわりー!」
ミーが、早速お椀を掲げていた。
「はいはい」
給仕の人が、笑いながらおかわりをよそってくれる。
フーとヒーも、それぞれ美味しそうに食事を進めていた。
気づけば、お腹も心も満たされていた。
食後、寝室へと案内された。
広々とした部屋には、柔らかそうなベッドが用意されていた。
「美味しかったなあー」
ベッドに腰掛けながら、俺は呟いた。
「ヤマダー、今度同じ料理作ってー」
「う……」
(それは、中々ハードルが高いリクエストだな……)
考えておくよ、とミーに返事をする。
「それにしても――あの人と、この屋敷の人たち……中々、度量があるのね」
ヒーが、しみじみとした様子で言う。
「私たちのこと、すんなり受け入れてくれたわ」
「あの人、優しい人だった……」
フーも町長への人柄の良さを感じたようだった。
「そうだな」
(ミーからの贈り物の件もあって、俺たちのことを信頼してくれたのかもしれない)
魔物たちと一緒にいる旅人を、何も聞かずに客人として迎え入れる。それは、簡単なことではないはずだった。
窓の外を見ると、静かな夜が広がっている。
その夜は、ゆっくりと更けていった。
◆◇◆
翌朝。
旅立ちの支度を整えると、スーちゃんを連れて屋敷の前に立つ。
町長が、見送りに出てきていた。
「気をつけてな」
「ええ。町長も、お元気で」
「ああ、昨夜は久しぶりによく眠れた。あとこれもな……ありがとう」
そう言って、彼は石を掲げた。
朝日を浴びたその石が、輝く。
何かを宿したように、澄んだエメラルドグリーンだった。




