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争い嫌いの元社畜ですが、『ハーモニー』スキルで魔物たちとノーストレスな共存生活を始めました。  作者: 遠峰 黎


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第64話:たからもの

 頬に何かがぶつかる感触で目が覚めた。

 ぽす、ぽす。


「トランポリン、たのしいー」

「ヤマダの、トランポリン……」


 ミーとフーが顔の上でじゃれ合っている。


(ああ……)


 ゆっくりまぶたを開けると、木造りの天井が視界に入った。


「やっと起きたのね」


 ヒーの声。上体を起こすと、窓の外には木漏れ日が差し込んでいる。


(そうか、俺は……)


 思い出す。森の奥で、男の子を助けようとして、蛇に噛まれたのだった。それに見た夢のこと。


(なんか変な夢だった気がする……)


「あなた、あれから丸二日も寝ていたのよ」

「二日!?」


 思わず声が裏返る。


「どうやら睡眠作用が強すぎたみたいね」


(そんなに……)


「まあ、眠っていて良かったのかもしれないわね」


 どこか含みのある言い方だった。


「どうしたんだ、何かあったのか?」

「そうね。でも、もう終わったわ。奇跡……いえ、必然だったのかもしれないわね」


 窓の外を眺めながら、ヒーが言う。


「何を言ってるのか、さっぱり分からないんだが……」


 ヒーは答えず、ただ遠くを見ていた。一瞬、ヒーの瞳がいつもと違う静けさを帯びた気がした。


(なんだろ、まあいいか……)


「さあ、ヤマダも起きたことだし。この村を出る準備でもしなさいな」

「そうだな……あ、みんな大丈夫だったか? ご飯とか、もろもろ」

「パン、たべたー」

「うん」


 ミーとフーが答える。


(そうか、睡魔にやられる前に、ちゃんと用意していたんだった。我ながら偉いな)


 ふと視線を落とすと、リュックの脇――ヨヴェルの苗の横に、白い花が咲いていた。


「あれは?」

「ああ、それあなたが街で買ったお花よ。リュックに入れっぱなしだったの、ダメじゃない」


(うっ……そうでした……ごめんなさい)


「神聖な“マドンナリリー”に、そんなことしたらバチが当たるわ」

「マドンナリリーっていうのか、その花……全然知らなくて」

「ヤマダ、あなたって意外と抜けてるわね」

「悪かったな……でも、これ、挿し木? ヨヴェルの横に植えてあるけど、ヒーがやってくれたのか?」

「いえ、花を取り出したら、ヨヴェルが光りだして、今の状態になったわ」


(ふーん、これが……奇跡ってやつ?)


 ヨヴェルの苗の横で、白く大きな花が咲き誇っていた。


◆◇◆


 身支度を整えて宿を出ようとすると、宿の女性に声をかけられた。


「ずっと寝ていたみたいだね。あんた、森に入って男の子を助けようとしたんだって? 村長から聞いたよ」

「あ……でも、俺のしたことは意味なかったみたいです。結局、俺はただ眠っただけで」

「そんなこと言って。村のためにありがとね」

「いえいえ、本当に何もしてないので」

「そうかい、ところで――もう行くのかい?」

「はい」

「あ、そうだ。あんた、寝る前に払った分のお釣り、渡すよ」


(そうだ、寝る前に銀貨渡してたんだっけ)


「いえいえ、取っておいてください。ありがとうございました」

「そうかい? ありがとう。あんた、中々良い男に見えてきたよ」

「いえいえ、ありがとうございました」

「あ、預かった馬は外に繋いでるからね」


 そして宿を出ると、スーちゃんを連れて歩く。途中で、村人の一人が俺に気づいた。


「おい、あんた目覚めたのかい!」

「はい」

「ちょっと待ってな!」

「おーい! 旅人が目覚めたぞ!」


 その声を合図に、みるみるうちに人が集まってくる。

 その中には、あの男の子と、例の両親の姿もあった。


「無事、この子も目覚めたよ。ありがとうな」

「いえいえ、ほんとに俺は何もしてないですから」

「たしかにそうだな!」


 ガハハ、と豪快に笑うおじさん。


「でも、あんたのおかげで、俺は不安な気持ちが和らいだよ。それに嬉しかった。初めて会ったあんたに、そこまでしてもらえてさ」

「いえいえ、そんな……」


 母親らしき女性からも、深く頭を下げられる。

 男の子は、少し照れたように父親の後ろに隠れていた。


「ほら、言うんだろ?」


 促されるように、男の子が前に出る。


「おじさん、僕のためにありがとう!」


 電撃が走った。


(おじさん……! お兄さんじゃなくて、おじさん……そうか、29歳って、もうおじさんか……)


 なんとか愛想笑いでごまかす。


「旅の者、ありがとうな。もう出かけるのか」


 村長がそう声をかけてくる。


「はい」

「あんたの旅の無事を祈っておるよ」

「それでは」


 スーちゃんを連れて、俺は歩き出す。


「まって、おじさん!」


 振り返ると、男の子が駆けてくるところだった。


(そうです、私がおじさんです……)


 傷心を隠しながら苦笑する。


「どうしたの?」

「これ、あげる」


 差し出されたのは、ビー玉のような、青く透き通った玉だった。


「僕の、大事なやつなんだ。でも、あげる!」

「え、いいの?」

「それ、光に当てると、すっごく綺麗なんだ」


 その玉を空にかざしてみる。

 陽の光を受けて、玉の中で青い光が揺らめいた。


「じゃあ、またね!」


 男の子は、そう言って走って村へ戻っていく。

 すると、リュックから声がした。


「ヤマダー、ずるいー」

「いいな……」


 ミーとフーが、玉を覗き込んで羨ましそうな声を上げる。


「活動に見合う報酬になったかしら?」


 ヒーが呟いた。


「そうだな、やった甲斐があったよ」


 その青い玉は、俺の手の中で静かに光を放ち続けていた。


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