表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
争い嫌いの元社畜ですが、『ハーモニー』スキルで魔物たちとノーストレスな共存生活を始めました。  作者: 遠峰 黎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/60

第55話:転がる石に苔は生えない

 城を出てから、俺たちは王都の街並みをぶらぶらと歩いていた。


 パレードの余韻が、まだ街のあちこちに残っている。通りには色とりどりの旗が飾られ、露店が並び、行き交う人々はみな顔がほころんでいた。どこか遠くで、笛が陽気に鳴り響いていた。


「綺麗だなぁ」


 思わず呟いた。


 彩られた花々の中を、人々が笑い、子どもが走り、老夫婦が手をつないで歩いている。

 こういう光景を見ていると、なんだか胸のあたりがじんわりとする。


 ただ、人が多かった。

 とにかく多かった。


 パレード帰りの人波が一方向に流れていて、俺はその逆を歩いていた。肩がぶつかる。足を踏まれそうになる。背負うリュックがぐらぐら揺れる。

 上部に固定したあの鉢が気になったが、なんとか大丈夫そうだった。


(少し休みたいな……)


 大通りから外れ、細い路地へと逃げ込んだ。


 途端に、音が遠くなった。

 石畳の路地は、ひんやりとしていた。両側に建物が並んでいて、日が差し込みにくい。それでも、雑多な喧騒から切り離されたその空間は、妙に落ち着いた。


「はあ……」


 思わず息をついた。


 ゆっくりと路地を歩き始める。

 よく見ると、このあたりにも店がある。目立たない入り口、手書きの看板。大通りの華やかさとは違う、こじんまりとした佇まいだ。


(こういう路地に、地元の美味しい店があったりするんだよなあ……)


 路地裏とかビルの谷間にひっそりとある、地元民しか知らないようなラーメン屋とか。


(……さすがにこの世界でラーメンはないか)


 一人で突っ込んで、一人で苦笑した。


 そのとき、ふと目に留まるものがあった。

 路地の奥に、外装の綺麗な店がある。他の店とは少し雰囲気が違う。窓の外に小さな棚が設えてあって、そこに何かが並んでいた。


 近づいてみると、石だった。


 赤や緑、色とりどりの宝石が、丁寧に並べられている。


(宝石店か。こんな路地にあるんだ……)


 しばらく眺めていると、店の奥から声がした。


「いらっしゃいませ」


 顔を上げた。


「おお! ヤマダ様!」


 飛び出してきたのは、見覚えのある顔だった。恰幅のいい体つき、人懐っこい笑顔。

 あの辺境の町で世話になった商人、クレメルだった。


「王都にいらっしゃったんですね!」

「ええ。場所は少々分かりにくいですが、ここでお店を持つことができまして!」


 クレメルは嬉しそうに店の外観を見回した。


「王都の良い立地は中々難しかったのですが、たまたまお店を閉める方がいらっしゃって、譲っていただけたのですよ」

「そうなんですか。いやー、すごいですね」

「本当に運が良かったです。そういえば……前の店主の方も、変わったことをおっしゃっていましてね」

「変わったこと……?」

「『この店で何を売るんだ』と。私が宝石やら雑貨を考えていることを答えたら『それなら安心だな』と言って去っていかれたんです。あれはいったい……」

「なんでしょうね。縄張りとか、あるんですかね」

「さあ……」


 クレメルは首を傾げた。


(近くに似たような店があると揉めるとか、そういう暗黙の了解でもあったのだろうか。武器屋のそばに別の武器屋を出してはいけない、みたいな)


 この世界のことはまだよく分からない。


「あ、ヤマダ様。改めてお礼を言わなくてはなりません」

「お礼?」

「例の宝石ですよ」


 そう言ってクレメルは店の中へ手招きした。棚の上に、あの石があった。

 光の種類で色が変わる、あの宝石だ。


「あなたの見立ては正しかった。あの石の価値は、上がり続けました」

「え……」

「色々と仕入れまして、おかげさまでこんな具合に」


 俺は店内を見回した。以前のクレメルの店には武具や雑貨が並んでいたはずだが、今はその影もない。棚という棚に、宝石が並んでいる。


「それにしても、すっかり宝石店になってしまいましたね」

「ええ。皆様が欲しいものをお届けするのが私のモットーですので。気づいたらこうなっておりました」


 クレメルは豪快に笑った。


「今はパレードでお客さんがいませんが、女性のお客様を中心にお買い求めいただいていますよ。時々男性のお客様もいらっしゃいますね」

「へえ」

「そうそう、この間、面白いことがありましてね」


 クレメルが思い出すように言った。


「この宝石、仕入れの関係で数に限りがあることも多いのですが……ある日、女性の冒険者の方々が大勢いらしたときのことです。その中の一人の少女が、まだ宝石を持っていない方を確認して、こう提案したのですよ。『一人一個ずつにしましょう』と」


(なんだか、転売ヤー対策みたいな話だな……)


 思わず内心で突っ込む。


「皆さんが自然と話し合って、満足して帰っていかれました。あの光景は、なかなか良いものでしたよ」

「そうですか」


 俺は素直に感心した。

 欲しいものを奪い合うのではなく、持っていない人に譲る。


(紳士協定ならぬ淑女協定ってのがあるんだな)


「それから、赤や緑の固定した色の石も、最近人気が出てきておりまして」

「ああ、なるほど」


 色が変わる石だから、固定したカラーも映えて見えるのだろう。


「ヤマダ様も、あの宝石をまだお持ちでしたら、ぜひ私に売ってくださいね。高く買いますよ」


(今だと、いくらくらいだろう……? 手元にまだ何個かあるし、ここで売るか……?)


 喉元まで「いくらで?」という言葉が出かかったが、もう少し様子を見ることにした。

 この調子ならまだまだ値は上がりそうだ。


「ははは、また機会があれば」

「ぜひぜひ。またいつでもお立ち寄りください」


 そう言って、クレメルは手を振って見送ってくれた。

 そして、俺たちは路地を歩き出した。


 大通りへの出口が近づいてきたところで、向こうから女性が二人、楽しそうに話しながら歩いてきた。


「ねえ、あの店、“マリア様の宝石”売ってるって!」

「え、ほんとに!?」


 すれ違いざまに、そんな声が聞こえた。


 いつの間にか、俺にも笑みがこぼれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ