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争い嫌いの元社畜ですが、『ハーモニー』スキルで魔物たちとノーストレスな共存生活を始めました。  作者: 遠峰 黎


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第21話:異変

 山頂のテラスを吹き抜ける風が、少しだけ冷たさを帯びてきた。


 騎士団長オルドランたちとの「セルフサービス」な交流が始まってからというもの、俺たちの食生活は劇的に向上した。


 以前は自給自足に近い形だったが、今は違う。

 俺たちが提供する「黒いエキス」の価値を認める騎士団からは、王国が誇る最高級の食材が定期的に届けられるようになった。


 ふかふかの白パン、熟成された肉、そして宝石のように色鮮やかな果物たち。

 だが、食卓が潤えば潤うほど、今度は「身の回りの品」の心許なさが気になり始める。


「そろそろ、ミーたちが跳ねても滑らない敷物やラグみたいな雑貨も欲しいな。それに、俺の服も予備が少ないし。今のうちに、何着か揃えておいたほうが良さそうだ」


 俺がいま着ているのは、町で適当に買った服数着だ。なんとか着回している状況だ。

 そんな生活も悪くはないが、山の上は天候が変わりやすいし、洗濯物が乾きにくい日もある。


 せっかくの隠居生活、豪華に着飾る必要はないが、せめて「乾きやすくて丈夫な着替え」くらいは数着用意しておきたいところだ。


 俺の町への買い物について、三人は大賛成だった。

「おでかけ! ヤマダーとお買い物!」

「ぼくはヤマダのそばにいるよー」

「あら、いいわね。近くの町の様子見ておきたいわ」


 俺は元々持っていた使い古しのリュックを取り出すと、その中に柔らかな布を敷き、三人に入ってもらった。


「とりあえず、町まではこれで我慢してくれ。今日、もっと大きくて丈夫なやつに買い替えるからな」


◆◇◆


 そして、三人を背負い、俺は山を下り始めた。

 前回は1人で買い物に行った町だが、今回はみんなもいる。


 道中、俺は背中の三人に軽く語りかけた。

「買い物が終わったら、少し寄りたいところがあるんだ。俺がこの世界に来るきっかけをくれた人でさ。この間のヒーの卵を売る時も、裏で手助けしてくれた恩人なんだよ」


 リュックの隙間から、つぶらな瞳を覗かせたヒーが反応した。

「ヤマダの恩人なのね。それなら、今度あのラテでも持っていってあげなさいな」

「そうだよー! ラテ飲んだら喜ぶよー!」


 二人の無邪気なやり取りで、俺はあの魔導師、ヴェリウスの姿を思い出した。


 あの日、気だるげに俺を異世界へ呼び出し、銅貨数枚を雑に投げて俺を追い出した男。


 だが、結果として彼が俺をこの世界に呼ばなければ、俺は今もあの満員電車に揺られ、連日の残業の中、常に上司の顔色を窺う日々を送っていたはずだ。


 それに、前回のヒーの卵の取引で彼が商人に適正価格を突きつけて口添えしてくれたおかげで、今の俺の財布にはあの時の金貨が多く入っている。


 彼に挨拶くらいはして、筋を通しておくべきだろう。


 町に入ると、懐かしい石畳の硬い感触が、靴の底を通じて伝わってきた。

 広場には相変わらず多くの店が並び、人々の活気で溢れている。


 俺はまず、以前から目をつけていた革製品の専門店へと足を運んだ。

「いらっしゃい。今日は何をお探しだい?」

 店主にそう言われて、俺は店内を見てみる。

 

 俺はそこで、質が良く、それでいて外見は目立たない丈夫な革製の大型リュックを購入した。

 手に取ると、新しい革のいい匂いが鼻をくすぐる。


 内側にさらに柔らかい布を敷き詰め、今までのリュックから三人を移動させた。


「わあ、広い! ヤマダー、ここさっきよりふかふかだよ!」

「ここ、落ち着くね」

「あなたにしてはセンスあるわね」


 三人が新しい「移動拠点」を気に入ってくれたのを確認して、俺は本格的に買い物を始めた。


 衣料品店では、汚れが目立たず、かつ手で洗濯しても頑丈そうなシャツやズボンを予備を含めて数点。


 雑貨屋では、ミーやフーのための滑り止め付きの丈夫なラグや、三人で座れる大きめのクッションのようなもの。


 以前の俺なら、商品を見るたびに心拍数が上がり、安い方へと手が伸びたものだが、今は違う。

 質の良いもの、長く使えそうなものを直感で選ぶことができる。


 買い物を終え、重くなった新しいリュックを背負い直して、俺は町の北側へと足を向けた。


 次第に商店の喧騒が遠のき、古い歴史を感じさせる石造りの建物が静かに並ぶ一角に出る。

 目指すのは、あの「はじまりの場所」。

 魔道士ヴェリウスが構える、研究室を兼ねた重厚な屋敷だ。


 あの日、俺は帰る場所も、頼れる当てもなく、ただ放り出されるようにしてこの門を出た。

 でも今は、背中に頼もしくも愛らしい仲間たちがいて、山に帰れば最高のテラスとコーヒーが待っている。


 一歩踏み出すたびに、あの日の心細さが、今の充足感に上書きされていくのを感じた。


 少しだけ誇らしいような、不思議な高揚感を胸に、俺は屋敷の黒い鉄門をくぐった。


 庭先に植えられた植物たちが、風で葉を揺らした。

 俺はリュックの中にある、オルドランからもらった野菜や果物も挨拶がてら渡すつもりでいた。その重さも肩に感じながら、一歩ずつ玄関へと歩みを進めた。


 ――その時だった。


 屋敷の重厚な玄関ドアの向こうから、静寂を切り裂くような、何やら怒鳴り散らす騒がしい声が響いてきた。


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