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筆の軌跡 **「未」**  作者: 南蛇井


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【第81話】評価されない作品の価値

文化祭の二日目。

 朝一番に書道室に集まった三人は、少しだけ、昨日とは違う顔をしていた。


 


 《繋》は、壁に掛けられたまま静かに佇んでいた。

 昨日のあの言葉――


 「これは“誰も責任を取ってない字”だな」


 ――は、今もそれぞれの胸に残っていた。


 


 「なぁ、昨日の人さ……プロの人なんかな」

 あすかが、和紙の端を触りながら呟いた。


 


 「かもしれない。でも、それ以上に“見る目”があった。怖いほどに」

 志津香が答える。


 


 真理子は、少し間を置いてから言った。

 「でも、あの人の言葉が全てとは限らないよ」


 


 「それは、そやけどな」

 あすかは苦笑する。

 「なんやろ、うちは“評価されへんかった”ってことより、

  “書に責任がない”って言葉が、ずーっと残っててな。なんか、くやしいんよ」


 


 「責任、って……なに?」

 真理子がぽつりとつぶやく。


 


 「“これは私が書いた”って、胸を張れること、じゃない?」

 志津香が、真剣なまなざしで言う。


 


 「……あの《繋》、自信あるって思ってた。

  でもどこかで、“三人の調和”に頼ってたのかもしれない。

  誰もが“全体を壊さないように”って引いた線が、あった気がする」


 


 沈黙が落ちた。


 


 ふと、真理子が数枚の作品を手に取った。

 文化祭の準備中、候補に上がりながら展示されなかった、ボツ案たち。


 


 あすかの大胆な書きなぐり。

 志津香の潔癖なまでに整った一文字。

 真理子の、震えるような筆圧の迷い線。


 


 それらは、確かにどれも“評価されにくい”書だった。


 


 でも、三人は改めてそれを見つめた。


 


 「……なんかさ」

 あすかが、破かれかけた和紙を拾いながら言った。


 「うちら、評価される書ばっかり探しすぎてたかもしれん」

 「“この書はどう思われるか”って、誰かの顔ばっかり見てた気がする」


 


 「“誰かの顔”じゃなくて、“自分の顔”を映せる書が、書道なんじゃないかな」

 真理子が、墨の匂いを感じながらつぶやいた。


 


 志津香が、手に持っていた失敗作を裏返した。

 そこには、うっすらとにじんだ一文字があった。


 思い切って書いたが、誰からも褒められなかった一枚。

 でも、どこか惹かれる、不器用な“志津香の言葉”だった。


 


 「これ……私、実は気に入ってる」

 「でも、“うまくない”からって、ずっと隠してた」


 


 「うちも一枚ある」

 あすかが机の下から古い紙を取り出した。


 「最初に『繋』を考えたとき、感情だけで書いた一筆。バランスめちゃくちゃ。

  でも、書いてるときの気持ちだけは、ウソなかった」


 


 真理子も、ノートを開いた。

 誰にも見せたことのなかった、落書きのような一文字。


 


 「評価されない。でも、忘れられない書」

 「それも、“書の価値”なんじゃないかな」


 


 三人は、そっと微笑んだ。

 昨日の悔しさは、まだ消えていない。


 けれど――それでも書きたい。

 誰にも見られなくても、誰にも褒められなくても。


 それでも、書く意味がある。


 


 それこそが、自分たちの“責任”なのだと、少しだけ思えた。

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