【第65話】再会と気まずさ
木曜日の放課後。
久しぶりに、三人が書道室に揃った。
誰かが呼びかけたわけではなかった。
けれど、あすかがふらりと来て、真理子が予定を変えて来て、
そして志津香も「たまには」と思って来たら、三人がそこにいた。
「……久しぶり」
最初に口を開いたのは、志津香だった。
「うん、久しぶり……」
真理子が答える。
「ま、全員揃うなんて奇跡やな」
あすかは照れたように笑い、筆を回す。
けれどその笑顔も、どこかよそよそしい。
机の上に半紙を広げ、墨をすっても、誰もすぐには書き出さない。
空気が、少し重い。
「最近、どんな字、書いてる?」
真理子の問いかけに、志津香は少し考えてから、練習帳を開いた。
「……臨書。『風信帖』とか」
「うち、あれ苦手や……字が“生きてる”感じはすごいけど」
あすかが口を挟んで笑ったが、それ以上は続かない。
(何かが変わってしまった気がする)
三人とも、それぞれ違う場所で書き続けていた。
その“積み重ね”が、いつのまにか距離になっていた。
けれど、しばらくして――
「……なあ、またやってみぃへん?」
あすかが言った。
「前にやった、共同制作。三人で一枚書くやつ」
その言葉に、真理子が少し目を見開いた。
「え、でも……テーマとかどうする?」
「別に決めんでええ。とりあえず、なんか書いてみよ。
で、誰かがその横に書き足していく。三人で、筆を“つなげる”」
志津香は少し悩んでから、頷いた。
「……それ、いいかも」
まず、あすかが書いた。
勢いのある「心」という字。
太く、大胆に、一画一画が自分の叫びのようだった。
次に志津香が、その隣に「澄」を添える。
静けさと清らかさが宿った線。
筆圧を丁寧に調整し、空気を整えるように。
最後に真理子が、「響」という字をそっと足した。
三つの字が、並んだ。
「心 澄 響」――
「あ、なんか、ええ感じ……ちゃう?」
あすかが笑った。
その声に、真理子と志津香も、ようやく自然に笑えた。
何を話したわけでもない。
でも、“筆を交わす”ことで、気まずさの正体が溶けていく。
それぞれ違う場所で得たものが、
紙の上で、はじめて交じり合った。
「……また書こうな、三人で」
真理子の声に、
「当たり前やん」
「うん、きっと」
と、ふたりの声が重なった。
その日、三人は初めて“変わったあと”の自分たちで、同じ作品を完成させた。
そこにあったのは、かつてのままじゃない、けれど“続いている”つながりだった。




