【第23話】課題と自由のあいだで
「さて、次の課題だけど」
昼休み、書道室にて。
顧問の田島先生は、紙の束を手にして言った。
「今回は“自由課題”。テーマはひとつ、『自分にしか書けない言葉』」
「じ、自分にしか……?」
真理子が目を丸くする。
「ただし、書体やサイズ、構成は自由。行書でも草書でも、作品サイズも半紙から全紙まで可。とにかく、“自分らしさ”を、線で、字で、表現してほしい」
「自由って、いちばん難しいやつじゃん……」
あすかが天を仰いだ。
「“自由に書いていいよ”って言われると、逆に書けなくなるってやつ」
「まったく同感」
志津香も、小さく溜め息をついた。
田島先生は、そんな三人を見てにやりと笑う。
「でも、君たちにはもう必要な“引き出し”がある。新人戦を越えた今なら、それぞれの筆跡に、もう個性があるはずだよ」
そう言い残して、先生は部室を出ていった。
しん……と静まり返る空気。
墨をすり始めた音が、微かに響く。
「“自分にしか書けない言葉”って、なんだろうなあ……」
あすかが机に頬を乗せた。
「思いついた?」
「うーん……“爆発”とか、“一撃”とか、“嵐”とか……でも、それってただの“派手さ”な気がしてきて」
「それも“あすからしさ”じゃない? 勢いがある字、私は好きだよ」
真理子が微笑む。
「勢いだけじゃ、また“粗い”って言われるしな〜」
「私は、“言葉”そのものに迷ってる」
志津香が言う。
「今の私を表す言葉って……“間”か、“静”か、“解”か。でも、どれもしっくりこない。字面じゃなくて、“内側”にある何かを書きたいのに」
「……それって、すごく“書道っぽい”」
真理子は、自分のスケッチノートを見つめながら呟いた。
「私も……“自分らしさ”って言われても、正直わからない。でも、“わからない”ってことも、書いていいのかな」
「どういう意味?」
「たとえば、“探”って字。探すってことは、“まだ決まってない”ってこと。それって、私の今にぴったりな気がして」
三人はそれぞれ、筆を持ったまま考え込んでいた。
自由とは、なんでもできることではない。
むしろ、何を選び、どう書くかを問われること。
「自由って、楽しいけど、苦しいね」
「うん。でも、やっぱり……ちょっとワクワクもする」
「……うん。やるしかないか」
少しずつ、それぞれの“言葉”が見え始めていた。
課題と自由のあいだで揺れる心を、筆に託しながら——
三人は、また新しい線を描こうとしていた。




