【第17話】豪快、あすかの一筆
「――“勢いに任せただけでは出せない迫力。筆圧と構成のバランスに伸び代がある”」
新人戦から数日後、顧問の田島先生が手元の講評用紙を読み上げると、あすかは思わず口をぽかんと開けた。
「……え、褒められてる? これって褒めてる?」
「おおむね、褒めてる。けど“勢いに任せただけ”と思われる危険性もあるってことね」
志津香が、淡々と補足した。
「でも“迫力がある”ってさ、あたしの武器になるってことじゃん?」
「そうかもしれないけど、武器は振り回せばいいってものでもないわよ」
「そこなんだよな〜」
あすかは、自分の書いた「一閃」の字を改めて見つめた。
文字は大きく、斜めに走っている。
線は太く、荒々しい。けれど、その荒さの中に一瞬の閃き――“何か”があった。
(これが、あたしの“良さ”なのか?)
講評では“粗削りな魅力”と書かれていた。
つまり、魅力がある。でも未完成。
「あたし、勢いで書くのが好きなんだよ。でもさ、勢いって、雑とはちがうんだよな」
ふと、真理子が言った。
「“粗いけど伝わる”って、すごいことだと思う。私はいつも、“綺麗に書こう”ってばかり考えてるから、あすかさんみたいな字を見ると、羨ましい」
「……羨ましい? あたしの字?」
「うん。感情が伝わってくる。まっすぐで、ごまかしがなくて。……私、書いてる途中で何度も立ち止まるから」
その言葉に、あすかの頬が少しだけ熱くなった。
「……じゃあ、あたし、その“感情”ってやつ、もうちょいコントロールしてみようかな。荒れすぎる前に止める、みたいな」
「それができたら、もっと強くなるわよ」
志津香の言葉は、明確だった。
強くなる。
それは、誰かに勝つためだけじゃない。
自分が“書いた”と胸を張るための、筆の強さだ。
あすかは大きく息を吸い込んで、墨をすり始めた。
「よーし、今日から“豪快で繊細な”あすかさんになるぞ!」
「それ、矛盾してない?」
「してる。でも、いいとこ取りするの!」
三人の笑い声が、書道室にこだました。
まだ未完成のあすかの筆。
けれど、そこには確かに“あすかだけの線”が走りはじめていた。




