80話 手がかりが消失。
80話 手がかりが消失。
足から力が抜けるゴーバイ。
膝から崩れ落ちる寸前で、かろうじて踏みとどまった。
「せ、センエース神帝陛下――えぇ――」
顔面から血の気が引いていく。
なぜ神帝陛下が再連にいたのか。
なぜペン・ケースのフリをしていたのか。
そもそも、ペン・ケースなんて人物は存在していたのか。
なぜ第七十五アルファへ向かったのか。
何一つ分からない。
しかし、そんなことはどうでもよかった。
センは狼狽するゴーバイを見下ろしながら、短く言う。
「同じ命令はしない」
静かな声。
超越者の絶対的命令。
「急げ」
「は……」
ゴーバイの身体が跳ねる。
「はひっ!」
反射的に端末を展開。
複数の観測術式を同時起動。
慌てて第七十五アルファへの再観測を開始する。
術式窓が次々と展開され、膨大な情報が流れ始める。
ゴーバイは訳も分からないまま、ただ必死に観測データを追い始めた。
★
展開された観測窓を何度も切り替えながら、ゴーバイは必死に解析を続けた。
座標照合。
位相観測。
痕跡探索。
あらゆる観測術式を投入していく。
その結果、理解する。
『第七十五アルファが存在していたはずの領域』には、何もなかった。
世界一つが、まるごと切り取られたかのような空白。
そこに残っているのは、極めて微弱な揺らぎだけ。
アルファ世界の存在を示す反応は、完全に消失していた。
何度確認しても同じ。
十回やろうが百回やろうが結果は変わらない。
観測窓に映る虚無だけが、淡々と同じ答えを返し続けていた。
ゴーバイは顔を青くしながら振り返った。
「も、申し訳ございません……もう一度――」
「もういい。あと、この件で謝罪する必要はない。むしろ、謝罪する方が不敬だと知れ」
全ての観測結果に目を通したセンは、小さく息を吐いた。
「くそったれが……手がかりが丸ごと消えやがった……どうすっかなぁ……」
吐き捨てるような独り言。
その声を聞いたゴーバイは、恐る恐る口を開く。
「あ、あの、この上なく尊き主よ……ほ、他の3名は、どうなったのでしょうか? 第75アルファに転移させたはずなのですが……あの、私が何かミスをしたのでしょうか? そうでしたら、申し訳――」
センは視線を観測窓から外さないまま、静かな声音で、
「お前は関係ない。俺が弱すぎた。それだけだ」




