22話 バカガキぃい!
本日の1話目!
22話 バカガキぃい!
「私の事はアサと呼んでくれ」
その名乗りに対して、最初に反応したのはペンだった。
肩の力を抜いたまま、だが一歩も気は抜かず、いつものように軽い調子で口を開く。
「丁寧な自己紹介、痛み入るぜ。その誠実さにならって、こっちも自己紹介をさせてもらおうか。……俺の名前はペン・ケース。人は俺を紅の蒼い流星と呼ぶ。俺の名前を呼ぶのは勝手だし、傲慢な指図であっても、あんたからのものならなるべく受け入れよう。嫌いなものは不穏。好きなものはお前だ。ぜひとも仲良くしようぜ」
あからさまに媚びていく、紅の蒼い流星。
ペンは、あえて隠さない。
――お前と無駄に敵対する気はない。
面倒なことも避けたい。
だから、どうか余計な面倒を生まないでくれ。
そういう意思を、過不足なく、わかりやすく叩きつけている。
遠回しな探り合いより、よほど合理的。
アサは微笑んだまま、何も言わない。
その沈黙が、肯定なのか、保留なのか、それとも単なる観察なのか――判別がつかない。
だが、少なくとも、即座に場を壊す気はない。
ペンは、その一点だけを確認し、内心でわずかに呼吸を浅くした。
――その時だった。
視界の端で、レンの右手が、ほんのわずかに動く。
指先の震えとすら呼べないほどの、ごく微細な変化。
だが、歴戦の古豪ペン・ケースは、その刹那を見逃さない。
視線を向けるまでもなく、魔力のわずかな流れでわかる。
レンの内部で、術式が立ち上がりかけていた。
構成は短い。
圧縮も速い。
おそらくは『呪縛』……あるいはそれに類する拘束系。
『未知の敵はまず捕縛』『様子見の呪縛で牽制』――という、実戦的で合理的な初手。
レンは、アサを拘束しようとしている。
最悪。
いま、この場においてだけは、あまりにも悪手。
ペンの背筋を、冷たいものが走る。
こんな何もわからない状態での『中途半端な敵対行動』は、もっとも愚かな行動と断じるにいささかの躊躇も必要としない。
そう心が叫んだ瞬間には、もう口でも叫んでいた。
「バカガキ、動くな、ぼけぇえええ!」
森をシバき上げるような怒声。
同時に、ペンの魔力がレンへと走る。
掟破りの逆呪縛。
短く、強引で、容赦のない拘束魔法。
対象の自由を一時的に奪い、行動を封じる、単純だが極めて実用的な基礎魔法。
次の瞬間、
「うぐっ!」
レンの体がぴたりと止まった。
レンの目だけが、鋭くペンを射抜いた。
『なにするんだ、このボケ』と目が叫んでいる。
だが、いまのペンにはそれに応じている余裕などなかった。
ペンは即座にアサへ向き直る。
腰を低くし、敵意の欠片もないことを全身で示しながら、これ以上ないほど愛想よく頭を下げ、揉み手をしながら、ニコニコと張り付けた笑顔で、
「いやぁ、うちのメスガキが変なことをしようとしたこと、心から謝らせてもらう。あとで、このバカには、暴力をベースとした説教をかましておくので、ここはひとつどうか、怒らないでほしい」




