19話 特殊なアルファ。
本日の1話目!
19話 特殊なアルファ。
視界が戻った瞬間、最初に鼻を突いたのは、湿った土と青々とした葉の匂いだった。
深く碧い森。
鬱蒼とした樹木が空を覆い隠している。
枝葉の隙間から差し込む光は細く、刃のように地面へ落ちていた。
足元には、まだらな影がゆっくりと揺れている。
地面は柔らかい。
踏みしめるたび、靴底がわずかに沈み込み、遅れて湿り気が返ってくる。
――とても静か。
耳を澄ませば、確かに音はある。
だが、それらはどれも鈍い。
風は枝を撫でるだけで、葉を鳴らさない。
虫の気配も、鳥の羽ばたきも、どこか抑え込まれている。
自然でありながら、どこか『演出された静寂』めいていた。
生きた森のはずなのに、呼吸だけが抜き取られているような違和感がある。
転移直後。
四人は、それぞれに最適な初動を取る。
レンは即座に半歩下がった。
視界を広く取り、背後と側面の死角を同時に潰す。
足場の沈み具合、踏破音、遮蔽物の配置――それらを一瞬で把握し、いつでも踏み込める姿勢へ移行する。
ミカンはその場で静止する。
肉体ではなく、感覚を広げる。
魔力の流れ、空間の歪み、生命反応、敵性の兆候――複数のレイヤーを同時に展開し、周囲を索敵。
ユズは一歩だけ前へ出る。
無駄に動かない。
だが、重心と視線の置き方は完全に戦闘状態。
木々の間、そのさらに奥――『出てくる前提』で、すべてを見ている。
いつ何が現れても、その瞬間に殺せる位置を取っていた。
そして――
ペンだけが、のんびりと肩を回していた。
関節を鳴らし、首を傾け、軽く息を吐く。
まるで長時間のデスクワーク後のような弛緩。
「無事転移できました、めでたしめでたし……と」
場の空気を一切読まない声音。
張り詰めた空気に、軽く石を投げるような軽さだった。
ミカンが、わずかに眉をひそめる。
「いや、ここからがスタートであって、全然終わりではないのだけれど……」
呆れ混じりの指摘。
だが、その声も完全に張り詰めているわけではない。
ペンの温度に、ほんの少しだけ引きずられている。
しかし当の本人は、聞いているのかいないのか。
頭をかきながら、無造作にアイテムボックスへ手を差し入れる。
空間がわずかに歪む。
指先が、見えない層を越え――
次の瞬間、資料の束が引き抜かれた。
事前にドナから配布されたもの。
この世界に関する、最低限の情報。
紙をぱらぱらとめくる音だけが、やけに鮮明に響く。
「しっかし、この世界、なんとも妙だねぇ……存在値100ぴったりのやつが万単位で存在しているとは……『100前後』がたくさんいるってんなら、そこまで珍しくもないんだが……」
軽口のような調子。
だが、視線は完全に分析モードに入っている。
瞳孔がわずかに収縮し、情報を拾い上げていく。
(……こりゃ、間違いなく制限がかかっているな)
内側では、完全に別の思考が回っていた。




