6話 先輩と後輩。
6話 先輩と後輩。
この世界には、魔法が山ほど存在する。
攻撃、治癒、補助、封印、召喚、呪詛、契約――用途も系統も千差万別で、ひとくちに『魔法』といっても、その内実はあまりにも広い。
その中でも、とりわけ異質とされているのが『異世界系』の魔法だった。
領域外の空間を解析し、別の位相へと干渉する。
その性質ゆえに、異世界系の術式は、既存の魔法理論とは根本からして噛み合わない。
通常の魔法が、既知の法則と既知の世界の内側で完結する技術だとすれば、異世界系の魔法は、まだ定義しきれていない外部そのものを相手取る技術だった。
単純な『異世界転移』にとどまらず、未踏の世界を探知する術式や、座標の揺らぎから向こう側の文明水準や危険度を推定する観測系の魔法まで確立されている。
ゼノリカは人的資源に恵まれている。
無数のアルファを支配し、吸収し続けてきた巨大勢力だけあって、人材の層は厚い。
ゆえに、そうした希少技能を扱える者も、決して多くはないが、一定数は確保されていた。
そして、その者たちだけで構成された部隊――『異世界探索部署』は、ゼノリカの全世界征服史において中核的な役割を担っている。
短期間で多数の世界を掌握できた最大の要因は、この部署の存在に他ならなかった。
新たな世界を見つけ出し、観測し、危険度を測り、報告書にまとめて上へ回す。
その地味で膨大な積み重ねが、ゼノリカの覇道を下から支えていた。
そんな異世界探索部署が、また一つ、新たな世界を捕捉した。
「……確認できました。第75アルファ……文明レベルC+。平均存在値28」
薄青い観測盤の光を顔に受けながら、異世界探索部署の若手『ゴーバイ』は淡々と報告した。
声色は平静だったが、その奥には、ごくわずかな違和感が混じっている。
ただ数字を読み上げているだけではない。
観測した本人が、結果に引っかかりを覚えている声音だった。
「平均が28? 下位とはいえ『超最上級世界』だろ? ……随分ザコいな……『最上級世界』レベルじゃないか。今まで発見したアルファの中で、ぶっちぎりのワーストだろ」
異世界探索部署の先輩『ゼンバイ』が、椅子の背にもたれ、鼻で笑う。
軽口のような言い方だったが、くだしている評価自体は冷徹だった。
彼は数字に私情を挟まない。
だからこそ、その嘲りもまた、妙に乾いて聞こえる。
「あ、でも、冒険者の平均はかなり高いですね。90を超えています」
「そいつはまた極端な世界だな……ちなみに『最強』は?」
「えっと……100……かな……」
「最強が100? 天帝は? アルファの天帝なら、500前後はあるはずだが?」
そこで初めて、ゼンバイの眉がわずかに寄った。
平均値が低いだけなら、まだ珍しい下振れで片付けられる。
だが、最上位個体までその程度となると話が違う。




