02話 アサルトアルファ?
02話 アサルトアルファ?
「開放条件、耐久閾値、必要演算量……すべてがバラバラだ。中には、銀河一つ分を丸ごと犠牲にしてようやく開くような破滅型の扉もある」
「銀河まるごとなくなってる時点で、扉も消えてるんですけどー」
茶々を完全に無視して、ロウドリーナは続ける。
「……センエース銀河の『原初の扉』は、解放条件が完全に不明。ただ、とてつもなく難易度が高いことだけは分かっている」
淡々と、しかし重く。
そんな彼女に、超天ぱいは、
「いくら難易度が高いっていっても、所詮は扉をあけるかどうかってだけじゃん。それすら出来ないやつが、すでに三つの銀河を掌握したソンキーに勝てるワケないんですけどー」
にやり、と意地悪く笑ってから、続けて、
「ロウドリーナ、あなたのセンエースびいきって、どうせあれでしょ? ちょうどいいブサイクだからでしょ? ブス専なのは勝手だけどさぁ、仕事に私情を持ち込むのはどうかと思うなぁ、私ぃ」
「……ばかばかしいことを……」
短く吐き捨てる。
超天ぱいの悪意ある軽口に、一々怒りで反応を示すほどロウドリーナは幼くない。
ロウドリーナの精神は高いレベルで熟成され完成されている。
……その瞬間、モニターの中のソンキーが、ふっと消えた。
空間転移。
残像すら残さない、完全な位相移動。
「? ソンキーはどこに?」
「天使銀河を制圧したら、その足で『アサルトアルファ』に向かうと言っていた」
「本当に、ソンキーって、休むっていうことを知らないよねぇ。ストイックすぎて、ちょっと心配になるというか、流石の私でも、ちょっと呆れるというか……」
ロウドリーナは、別のログを引き出す。
「……どうやら、確保した三名のコスモブラッドも引き連れている」
「配下を強化することで自分を強化、自分を強化することで配下も強化……そのシナジーを無限に回す感じ?」
「だろうな」
モニターが切り替わる。
そこに映し出されたのは、異常な密度で戦闘ログが流れ続ける領域。
一瞬ごとに数億回の戦闘結果が更新され、淘汰され、再構築されている。
「……これが、『アサルトアルファ』……」
「結局、アサルトアルファってどういう世界? 他のアルファナンバーズとは違うの?」
「経験値効率が最高率であることは解明できた。あの異常に経験値効率が優れている『さいごのまおうのせかい』よりもさらに上だ。短時間での成長を目的とするなら、最適解の一つ」
「……『さいごのまおうのせかい』より上とか、やばくない? あの世界、えぐかったんだけど。確か、経験値効率300億倍とかじゃなかった?」
世界によって、性能は異なる。
経験値効率、生命の質、世界の強度――すべてが違う。
『さいごのまおうのせかい』は、経験値効率に特化した『ボーナス世界』。
だが、
最近発見されたこの『アサルトアルファ』は――
その『最高効率』すら、上回る。
「経験値が大幅に獲得できる……ってのは分かったけど、それ以外は?」
「それ以外は何もわかっていない」
ロウドリーナは、わずかに目を細める。
「……この世界を完全に解明することは、おそらく――不可能」
ロウドリーナがそう告げると、超天ぱいは、きょとんと目を瞬かせたあと、すぐに小首をかしげた。
「不可能を可能にするのが、『田中・イス・レイナ』じゃないの?」
「……彼女にも限界はあるさ」
ロウドリーナは短くそう答えた。
田中・イス・レイナ。
ソンキー銀河が誇る天才血統『イス田中家』においても、別格と称される最高峰の才女。
※センエース銀河にも『イス田中家』は存在するが、関連性は現時点において不明。
いまはロウドリーナと深く融合し、その思考領域の一部として稼働している。
演算、解析、観測、仮説構築――そうした知の領域において、レイナはロウドリーナの中核を担う『CPU』そのものだった。
※田中・イス・トウシも、原初の世界の最終決戦で、センエースと融合して一時的に、CPUを担ったことがある。
――ほんの一瞬、ロウドリーナは目を伏せる。
外から見ればただの沈黙。
だがその内側では、常人には知覚不能な速度で、レイナとの情報交換が行われていた。
大量の仮説。
積み重なる否定。
終わりのない再計算。
その末に、ロウドリーナはわずかに眉を寄せる。
「……レイナの見解では、この『アサルトアルファ』は、コスモゾーンとは別系統のシステムで稼働している可能性があるらしい」
「え?」
超天ぱいが、さすがに表情を変えた。
「どういうこと? コスモゾーンって、すべての世界を演算してる絶対的な唯一中枢装置じゃないの?」
「そのはずだ……が」
ロウドリーナは、流れ続ける戦闘ログを見据えたまま続ける。
「アサルトアルファは、いくつかの点で整合しない。解析魔法を通して接触した時の返答構造、演算波形、情報の閉じ方……どれも、既存のコスモゾーン的挙動と微妙に噛み合わない」
「微妙に……ねぇ」
「決定的な証拠はない。だが、『違和感』だけは山ほどある」
そこで、ロウドリーナは小さく息を吐いた。
「……アサルトアルファは、不思議なことばかりだ。まあ、もっとも……分からないのは、アサルトアルファだけじゃないが」
パチン、と指を鳴らす。
すると、新たに『三つ』のモニターが空間に展開された。
どれも、解析途中で止まり、情報の輪郭だけを辛うじて浮かび上がらせている。
ロウドリーナは、それらを順に見やりながら、珍しく本音をこぼすように呟いた。
「……現状における三大の謎。……無限階段、無神銀河、無夢空域……」
最初のモニターに映っていたのは、果ての見えない『階段』だった。
古びた石段が、ただ上へ、上へと続いている。
終点は見えない。というより、どれだけ観測を重ねても、終点という概念そのものが観測結果から滑り落ちる。
「……『無限階段』。異銀河の果てに存在する特異領域。無限に登り続けることができるが、どれだけ進んでも終端に到達しない。おそらく、何かしらの条件を満たした時だけ踏破判定が出るタイプだと思われるが、その条件が不明」
「超高速で駆け抜けたら、次元の縛りを超えて、突破できたりしないかな?」
「既に試している。ソンキーが直々に。だが、当然のようにダメだった。ソンキーで無理なら誰にも無理だ」
次のモニターには、漆黒の空白が映し出されていた。
何もない。
ただ、その『何もなさ』にだけ、妙に強い輪郭がある。
「……次は『無神銀河』。名前だけは解析できるが、なぜかそれ以外には一切アクセスできない異銀河。観測も侵入も接続も拒絶される。銀河としての階位も、支配者の有無も、コスモブラッドの存在も、一切不明」
「無神銀河……神がいない銀河ってこと?」
「さぁ……この名前だけでは、何がどうと考察することすら難しい。せめてもう少し情報があればな……」
――最後のモニターに映っていたのは、
空間とも虚無ともつかない、ひどく曖昧な揺らぎだった。
見ようとすると薄れ、捉えようとすると輪郭が裏返る。
「……『無夢空域』。異銀河の裏側に存在すると推定される領域。解析系の魔法を使うと、『世界の裏側に何か空間めいたものが存在すること』と、『設定されている名称』だけは分かる。だが、それ以上は何一つ引っかからない。構造も法則も用途も、全部不明」
「電脳空間の裏世界みたいな感じ?」
「その認識も、大枠では間違っていないだろうな」
超天ぱいは、次々と映し出される未知の情報に、さすがに少しだけ顔を引きつらせた。
「……なんか、急に『まったく分からないもの』が増えすぎじゃない?」
「増えたというより、もともとあったものを『ようやく認識できる段階に来た』というだけだろう」
最終章でせっかく畳んだ風呂敷が……また広がっていく……
もうダメだ……おしまいだ……




