81話 SFすぎて草。
81話 SFすぎて草。
――大学附属病院・新生児集中治療室(NICU)の隣にある医局。
壁のテレビでは、海外ニュース専門チャンネルが流れている。
テロップが表示された瞬間、医局の空気が凍りついた。
『WHO、SARS流行の終息を宣言』
さらに数時間後。
別のニュース速報が流れる。
『モスクワ郊外の音楽フェス会場で爆発 多数死傷』
医局長の男は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
年齢は五十代半ば。
この大学病院の周産期医療センター長であり、日本でも指折りの新生児医療の専門医。
彼は震える指でテレビ画面を指さした。
「……間違いない……」
周囲の医師や看護師が固唾をのむ。
彼は振り返り、興奮を抑えきれない声で言った。
「本物だ……間違いなく本物……あの赤ん坊……本物の未来人!」
誰も言葉を返せない。
医局長は額の汗をぬぐいながら叫んだ。
「未来の記憶! 本当に! 本物ぉおおお! 嘘じゃない、私の頭はおかしくなっていない! 記録も全部残っている……! 夢じゃないな?! 夢じゃないぃいい!」
彼は机の上のカルテとビデオテープを叩く。
「全部だ! 全部、事前に言っていた通りだ!」
そして、子供のような顔で叫んだ。
「すごい! すごいぞぉおおおおおお!! 夢にまで見た本物のSFだぁああ! 映画みたいじゃないかぁあああ! この場合、僕は主役か?! いや、さすがに、あの赤子が主役か?!」
医局は騒然となった。
そして数時間後。
病院の管理部門を通じて、保健所と厚生労働省へ報告が上がる。
その報告は、さらに別の場所へ回された。
お役所仕事なスローペースを置き去りに、
常軌を超える速度で、全てが進行していく。
★
――東京・永田町。
内閣官房の地下にある危機管理センター。
深夜にもかかわらず、蛍光灯の白い光が部屋を満たしている。
机の上には、大学病院から送られてきた報告書とビデオテープ。
席に座っているのは、内閣官房の危機管理審議官だった。
大規模テロやパンデミックなど、国家レベルの緊急事態を担当するポストである。
男は静かに報告書を閉じた。
「……未来の記憶を持つ赤子、か。すごいな……」
部屋の向かい側では、警察庁と厚労省の官僚が腕を組んでいる。
「正直、まだ信じられん。だが、予言はすべて一致している……」
「……予言どうこうも勿論だが、それと同じぐらい驚くべきことは発話の方だ。新生児の中枢神経系、とくに大脳皮質――言語処理に関わるブローカ野やウェルニッケ野は機能的に未成熟だ。加えて、発声に必要な舌運動、呼吸制御、声帯の協調も発達段階にない。通常は喃語すら成立しない時期だぞ。にもかかわらず、文法構造を伴った流暢な発話をしている」
「ビデオを確認したが……あれは流暢というレベルではない。歴戦の講談師のような淀みのないマシンガントークだった。普通に気持ち悪かったな」




