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栄光は誰のために  作者: ながいわかれ
プロローグ
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2/3

対決

後楽園ホールの赤コーナー控室に鹿島、青コーナーに黒羽が入っている。

もうすぐ第一試合が始まる時刻だ。

第一・・第二試合はどちらも四回戦のデビュー戦同志の試合である。


律は鹿島との試合には設計があった三日かけて組んだものだ。

・・この選手の過去三試合をビデオで見て、一ラウンドは対戦相手の様子を伺い、二ラウンドの立ち上がりから攻撃が集中することが分かった・・そして・・二分過ぎると足が止まりがちになることを掴んでいた。

ならば・・一ラウンドはこちらも様子を見て、二ラウンドの序盤からはアウトボクシングに徹し、二分過ぎからこちらも攻撃を仕掛ける・・・。

(五戦五勝五KO・・その殆どが後半の3、4回に倒している、最後の5戦目だけが2回KOだ・・・怖くはない・・勝つのは僕だ!!)

律は、自分の計画は基本に忠実で、数字に裏打ちされた設計だと自負していた。



・・リングへと向かう通路で律は一つ大きく深呼吸をして、後楽園ホール全体を見回した。

”すごい人の数だ・・”

大勢の観客がこれから入場する二人を見つめている。

リングサイドにはカメラマン達の姿も見える・・・この試合への注目度が感じられた。

「律⁉観客の顔が見えるか?」

 黒羽の専属のトレーナーが聞いた。

もちろん、落ち着いているか⁉の意味である。

律は小さくうなずきリングへと歩き出した。



「フェザー級六回戦を行います・・・赤コーナー125ポンド四分の三・・コメクラ~かしまーとおるぅ~~・・・青コーナー125ポンド二分の一・・永野拳闘クラブ・・くろばねぇりつぅ~・・・。」


レフェリーの注意をリング中央で聞き、二人はグローブを合わせ自軍のコーナーへと分かれていく・・・"カ―――ン”・・

    第一ラウンドのゴングは鳴った!

二人は再び軽くグローブを合わせ、互いに右回りにステップを踏む。

鹿島のワンツー・・黒羽はスェーして交わす、鹿島も深追いはしない。

お互いのジャブが交差して・・・互いに睨み合う・・

・・・そういった展開で三分が過ぎ去っていった。

一ラウンドは、透も律も計画通りのラウンドだ。


「赤コーナー鹿島 透選手の戦績は五戦五勝五KOでございます。尚、青コーナーの黒羽 律選手は本日がデビュー戦でございます。」

場内アナウンスが二人を紹介すると、観客の大きな拍手の波が二人の選手を包んでいく。

”ラウンド2(ツー)”

第二ラウンドのゴングが鳴った。

いきなり鹿島の右ロングフックからの左ボディーブローが飛んで来た。

冷静に律はそれらのパンチを足を使って交(かわ)し、華麗なステップを踏みながらジャブを繰り出す・・・一分近くが経過したころ・・

律は鹿島の動きに変化を感じた・・左足が半歩下がった・・”右が来る・・

左腕で防御、そして右ストレートだ”


「ダウン・・!」

レフェリーの声が聞こえる。

”決まった⁈相手はダウンしたのか⁇”

「ニユートラルコーナーへ・・。」

律はニュートラルコーナーへ移動を始めた・・しかし身体が動かない!

”なぜ動かない⁉”

律は自問自答した。

・・そこには、リングに横たわる自分がいる。

律は正気を取り戻し、ダウンしたのは自分だと悟るのであった。

鹿島の右フックが、律の想定した到達時間より数段早かったのだ。

「フォー・・・ファイヴ・・」

レフェリーのカウントは進む。

律はカウントエイトで立ち上がり、ファイティング・ポーズをとった。

”大丈夫だ、足もまだ動くし意識もはっきりしている”

律は自分の状態を分析して、鹿島の右フックに対しての修正をした。

「大丈夫か?」

レフェリ―が律の両手を持ち目を覗き込む。

「はい、やれます。」  ・・律が小さな声で頷く。

「ボックス。」

レフェリーの声と共に鹿島が突進して左右のパンチを振るう。

律はダッキングでかろうじて鹿島のパンチを交(かわ)す。

・・残り時間は一分・・・

鹿島の左足が半歩下がった・・

” 来る・・‼ ”

鹿島の強烈な右フックに、今度は反応した・・が、少しだけ反応が遅れ、被弾した。

しかしパンチが浅かった為、律は大きくバランスを崩したがダウンはしなかった。

襲い来る鹿島・・・そこにスキが生まれた。

”今だ!”

右アッパーを律が打とうとしたその瞬間(とき)。

「スト――ップ‼」

レフェリーが二人の間に割って入り、黒羽の身体を抱えた。

カン、カン、カン・・ゴングが連打されている。

律は最初何が起きたのか分からなかった.。観客は騒(ざわ)めいている。

”早ーい・・”  ”早すぎる”

観客たちが口々に不平を漏らしている。


「・・二ラウンド二分十五秒、レフェリーストップで鹿島 透選手のテクニカル・ノックアウト勝ちです・・・。」


歓声と怒号が飛び交う中、透と律はリング中央で向き合い、グローブを合わせ頭を下げた。

透の顔に高揚(こうよう)は無く、律の顔に落胆もなかった。


「こんなバカなストップがあるか!帰るぞ黒羽・・。」

律の専属トレーナーはまだ怒っていた。

律は黙ってリングを降りた、リング上では鹿島 透がインタビューを受けている。

チラッと目をやると、律はポツリと呟いた。

「・・もう少しやりたかった・・。」



一人の男がリングサイドに座っていた。

記者の男がカマラマンを従え、黒羽の控室に行こうとした時、その男は立ち上がり出口に向かって歩いて行く。

記者の男はその男の顔に見覚えがあった。

以下は、その男と記者の男の会話である。

「春日慎一郎(チャンピオン)なぜ此処(ここ)に?」

「ボクシングを見に来ただけだよ。」

「もう、帰るのですか?・・メインは観ないのですか⁈」

「草間君は階級が違うからね。」

春日慎一郎(チャンピオン)はそう言うと記者に対して背中を向け歩き出した。

「・・・最後に一言お願いします、今の試合・・ストップが異常に早くなかったですか⁉」

春日慎一郎(チャンピオン)は立ち止まり暫く思案していたが、記者の方に振り返りながら・・・

「そうだね‥確かに早すぎるストップだった・・・あのストップが無ければ、勝者は違っていたかも知れない・・・。」

そう言って記者に背中で右手を挙(あ)げると、通路を出口へと急ぐのであった。


次の日、首都圏を中心に読まれている○✕スポーツの紙面に次のような記事が小さく載っていた。

” フェザー級のホープ鹿島が、高校二冠黒羽に二回TKOで勝利。しかし、世界フェザー級チャンピオン春日は語る・・・レフェリーのストップが異常に早すぎる試合であった。あのストップがもう少し遅かったら、勝者は違っていたかもしれない・・。 ”



原案 HARUKI

        一点より

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