突っ張り7.『インド人親方のカレー部屋』と呼ばれた日
「なんで私を遺して逝っちまったんだ…」
「親方、俺達これからどうなるんですか?」
「部屋を畳むしかないだろう。すまない」
「そんな!やっと勝てるようになったのに、ここで終わりかよ」
「料理の1つも作れなくてお前らをどう支えろってんだ」
「僕、料理やってみたいっす」
「自分も手伝うので親方を辞めないでください!」
「お前らに負担をかけるわけには…よし、料理を1から学んで食べさせてやる。その間、他の部屋で世話になれ」
「分かりました。俺達は強くなる事だけに集中して親方を待ちます!」
「お互い頑張ろうな!」
「はい!!」
弟子達は、事情を知った他の親方達の優しさにより、それぞれの部屋に別れる事になった。
私は料理本をめくったり、教室に通うなどして腕を磨いた。最初の頃はカレーばかり作っていた。何を組み合わせても大体おいしいし、アレンジもできるからだ。毎日の様にルゥやスパイスの研究をしていたので、近所まで匂いが漂ってくるらしく、いつしか『インド人親方のカレー部屋』と呼ばれるようになった。私は純日本人だし、カレー屋を開くつもりはないので嫌なあだ名ではあるが、弟子達においしい料理を振る舞う為、『秘伝のスパイス』を電子ばかりで調合するまでカレーと向き合った。
その後、かつて部屋の定番料理だった鶏の水炊きに挑戦した。シンプルな味付けの為、調理が難しく苦戦した。
ある日、女将からの手紙を見つけた。彼女の生きた証に涙を零しながら読んだ。そこにはこう書かれてあった。
『あたしはあなたを置いて逝かなければならない。女将として、皆に料理を振る舞うのは楽しかった。目分量で何でも作るからレシピはないけど、弟子達と練習したら作れるようになるから、1人で背負うな! 女将より』
私は、すぐさま弟子達を連れて帰る事にした。水炊きは未完成でも他の料理はある程度できるようになっていたので、微調整は彼らとすればいい事に今更ながら気付かされた。
部屋に帰ってきた弟子達は泣く泣く別れたあの頃より強くなっていた。1人1人と再会を喜び合った私は、未完成の水炊きを振る舞った。
「水炊き以外はある程度できるようになった。これはまだ未完成だが、味の感想を聞かせてくれないか?」
「親方、すごいっすね!感動しました!」
「早速食べさせていただきます」
「カレー風味で斬新っすね!」
「入れてないが」
「部屋に帰った途端、カレーの匂いが漂ってきて、親方が部屋を畳んでカレー屋に転身したのかと思いました」
「親方からもカレー臭がします」
「私は臭いのか?」
「そっちじゃないっす。スパイシーな方っす」
「そうか。どうすればかつて食べていた水炊きになるだろうか?」
「このままでいいと思います。とてもおいしいっす!」
「お前らがおいしく食べてくれるならそれでいい」
こうして『未完成』だった水炊きは完成した。ちなみに『秘伝のスパイス』を入れたバターチキンカレーを振る舞った所、病みつきになる味らしく水炊きに次ぐ定番メニューとなり、今に至る。
突っ張り8へ続く…
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