特別巡業1.弟子達、小さくなる
小さくなった親方と弟子達の立場が逆転した番外編です。
目が覚めると小さくなっていた。弟子達が。
私はうかつにも、服ごと小さくなった彼らをかわいいと思ってしまった。しかし、生活するとなると話は別だ。
「親方、腹減りました!」
「トイレ行きたいっす。出そうっす」
「すみません、汗かいたので風呂に入りたいです」
「暇だから散歩したいっす!」
4人が1度に話しかけてくるので、私はてんてこまいだ。
「腹減りには照り焼きチキンピザを焼いてやるから食え。トイレと散歩したい奴は一緒に連れてってやる。風呂の奴は皆でまとめて入れてやるから待ってろ」
「了解っす!」
「分かりました」
私は両肩に外出組を1人ずつ乗せ、冷蔵庫からピザを出して食べやすい大きさに切って焼いた。汗かきには小さく切った手ぬぐいを濡らして渡した。
「少しも拭けばマシになるだろう」
「ありがとうございます!さっぱりします」
急ぎながらも私は2人をトイレに連れて行き、1人を畑に掘った穴の近くに下ろした。もう1人はそのままだ。
「間に合いました。ありがとうございます!」
「社会的に終わるわけにはいかないだろう」
「ほんとは、肩の上で漏らされるのが嫌だからですよね?」
「全く。言い方ってものがあるだろう」
「すみません…」
用を足した弟子を再び肩の上に乗せ、一緒に近所を散歩した。
「こんにちは。親方1人とは珍しいねぇ」
「僕達もいます!」(甲高い声)
「えー?聞こえないねぇ」
「ある日、弟子達全員が小さくなってまして、毎日大変ですよ。今は両肩に2人乗せてます」
「どれ、老眼で見えなくてね…あれ、本当だ!かわいいねぇ」
「見た目はかわいいですが、わがままばかりで困ります」
「親方を困らせるんじゃないよ!」
「すみません…」(甲高い声)
「2人とも謝っているので今日はこの辺で失礼します」
「そうかい」
近所のおばあちゃんに会ってしまった。今の状況をあまり人には見られたくなかったが、仕方ない。弟子達を部屋にこもらせては精神衛生上良くないと判断し、人の少なそうな時間帯に散歩しているのだ。
「おばあちゃんを怒らせちゃダメっすよ」
「お前達が、もう少し空気を読んで行動してくれれば言わなかった」
「自覚がなくてすみません」
「2人を待たせてるから帰ろう。駄々をこねられては敵わん」
「はい」
部屋に帰ると2人は寝ていた。ピザを食い散らかした跡があり、その脇で気持ちよさそうに寝息をたてていた。
「ただいま。風呂入るから起きろ!」
「…はっ!待ちくたびれて寝てました」
「むにゃむにゃ…」
「全く。こんなに散らかして、誰が片付けると思ってるんだ」
「すみません」
「寂しくて気づいたら食べてました」
「先に風呂入るから肩に乗れ」
「了解っす!」
私は桶の中にお湯を張り、弟子達を入れた。鼻歌を歌いながら仲良く入ってるうちに、服を手洗いしてドライヤーで乾かし、台所を片付けた。
その後、4人分の体を拭いて、服を着せ終わると扇風機の前に連れて行き、髪を乾かした。
「あ~」
「お前達は甲高い声だから、扇風機の前でしゃべっても変わらんだろ」
「ワレワレハ、リキシダ」
「イェーイ!」
「小さくなってから、ますます子供のようだ。恥ずかしいからやめなさい」
「はーい…」
彼らを自室に連れて行き、座布団と手ぬぐいをそれぞれ用意して寝かしつけた。
(なんでこんな事になっちまったんだ…)
弟子達の服は呉服屋で仕立ててもらったが、大変だったのを覚えている。
その日、車に4人を乗せて向かったら、女将達から大層かわいがられた。
「久しぶりにいらっしゃったと思ったら、人形を肩に乗せてどうしたのかと思ったわ」
「端から見たらそう思うだろう。すまないが、皆の服を仕立ててくれ」
「賑やかになりそうね。人形サイズは初めてだけど、頑張るわね!」
「助かる」
「こちらで採寸するから来てちょうだい」
彼女達は弟子1人1人を素早く採寸し、ハギレ布であっという間に服を縫っていく。
「かわいいわね。部屋に飾りたいわ!」
「私も1つ欲しい」
「俺達は親方のものなので、ダメっす」
「いなくなったら泣きながら探しに来ますよ」
「人間なので、生活費がかかりますけどいいんですか?」
「親方、裏切り者が1人いるっすwww」
「お前達は静かに採寸できないのか!ピーチクパーチクうるさい」
「楽しいからいいのよ。今お茶出すわね」
「ありがとうございます。忙しすぎてのどを潤す暇もなくて」
「倒れたら大変だからたくさん飲んでくださいね」
「弟子と共倒れでは亡き妻が悲しむものな」
そんなこんなで紙袋いっぱい分に小さな服が収められた。
「またいらっしゃい。お気をつけて」
「ありがとうございます」
車に乗り込み、店を後にした…。
(今思い出しても、鮮明に光景が浮かぶくらいだものな)
あの時の服は収納ボックスに入れてある。しばらくは買わなくて済む量なので助かった。
(明日はバターチキンカレーを大鍋で作って1日を乗り切るか…)
そう考えながらも、疲れ切った私はいつの間にか寝てしまった。
目が覚めると、弟子達が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「親方、大丈夫ですか?」
「怖い夢を見てちびりませんでしたか?」
「幼い子供ではないから、そんなへまはしない。それより、夢で良かった。お前達が小さくなった方が大変過ぎて敵わん」
私はいつも通り小さいままで、弟子達が巨人に見える。ファンタジーな日々は今の現実だけで勘弁してくれと思った…。
完
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