特別巡業2.呉服屋、ビジネスチャンスを掴む
呉服屋の女将視点で語られる過去やその後の番外編です。
ここは老舗の呉服屋、私は女将の見栄子。『見栄を張る子』なんて変な名前よね。そんな私には双子の妹がいるの。名前は幸子。至って普通の名前だ。
そんな彼女は、常連客である相撲部屋親方の女将だった。親方が現役時代から店に通っているうちに、私と一緒に切り盛りしていた幸子を好きになったみたい。幸子も彼と気が合うようで、彼の引退後結婚を決めた。かく言う私は仕事人間の為、今だに独身だけど。
部屋の調理担当として大変ながらも幸せな生活を送っていた彼女は、数年前に病で亡くなった。親方と1人息子の冬吹雪を含めたお弟子さん達は、毎日の様に泣いていたのを覚えているわ。
親方は部屋を潰すしかないと言っていたが、料理を1から学ぶ事で危機を免れた。彼は当初カレーばかり作っていたようで、部屋からさほど遠くない呉服屋にも匂いが届いていたわよ。
「今日はどんなカレーを作っているのかしら?」
「巷で『インド人親方のカレー部屋』って呼ばれてるみたいよ」
「なにそれ。あの人はどう見ても日本人だわ」
「カレー屋さんに転身したって噂もあるのよ」
「お弟子さん達を見捨てる訳ないのにね」
「そうよ!今度その話が出たら反論してやりましょう」
私達はいつでも親方を応援していたわ。彼の料理指導をしたり、噂の否定などできる事は何でもした。その甲斐あってか、料理をマスターした親方は、お弟子さん達を迎えに行き、部屋を再開した。
平和な日々を取り戻したはずなのに、事件は起きた。
親方が突然小さくなってしまったの。原因不明でお弟子さん達も困っているようだから、経緯は聞けなかった。
私は彼の服をたくさん仕立てる事に集中したわ。でも、同時に新たなビジネスチャンスを掴んだとも思って、一か八かでモデルを依頼した。それくらいかわいらしい姿をしていたから。彼らが帰った後、早速店のホームページを更新した。
『老舗呉服屋、人形服始めました!』
そんな見出しの下には、作った服を着用した親方の写真を並べた。
しばらく経たぬうちに、お客様からはこんな反響があった。
『老舗のいい生地だから子供の着せ替え人形に使いたい』
『モデルの人形は買えますか?』
私は思わず笑ってしまった。服が欲しいのではなく、親方を買いたいだなんて。
『申し訳ありません。人間がモデルを務めている為、購入不可となっております。』と返信し、ホームページの親方の写真の下に『※モデルは実在の人物を起用しております』と追加した。
その後も反響は続き、生産が追いつかなくなり販売を一時休止した。今は予約制としたので、落ち着いて対応している。人間用より人形用が売れるのは、時代なのかしらと思った。
完
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