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「エリオット様、⋯すごくやつれていましたね。わた⋯、姉の死を、本当に悼んでいる様に見えました」
私がそう言うと、アイザック様は私(ロティの身体)の両手を握り、少し甘えを含んだ瞳で見つめてきました。
「はー、僕のロティは天使かな?やだなあ、犯人を見つける為とはいえ、ロティの口から他の男の話なんて聞きたくないなあ」
「犯人探しは、ひいてはロ⋯、私、と、イイ、イジーの、為でもありますから、⋯ねっ」
犯人が見つかる。ロティに身体を返せる。アイザック様はロティとイチャイチャし放題。
一石二鳥どころか三鳥ですよ!なんと素晴らしい!!
「うーん?⋯ふふ、そうだね。ロティが嬉しいと僕も嬉しいし、ロティが張り切るなら僕も張り切っちゃおうかな」
「そ、それでは⋯っ私が、イチャイチャを控えて欲しいと言ったら、控えて頂けたり⋯」
「え?ロティは僕とイチャイチャするの嫌?」
「⋯⋯じゃありません」
ロティは嫌じゃありません。
私ドロシーが居た堪れないだけです。はい。
「⋯⋯そう言えば。エリオット様はその⋯⋯姉、から聞いていた、印象と全く違っていて。驚いた⋯と言いますか。わた⋯、いえ、姉、以外にはいつも「ああ」なのでしょうか。まるで私なんて、いない様な扱いと言うか。眼中にもない、と言うか⋯」
今日のエリオット様は私(ロティの身体)を、見えていないのではないかと思うくらい、全くと言っていい程、見ませんでした。
アイザック様に手を握られていなければ、私はロティの身体から抜けて魂だけになったと思ったかも知れない程です。
「あいつはドロシー嬢以外の女性に、興味も関心もないからね、まあ、あいつの視線で可愛いロティが汚されなくて済んで良かったよ」
アイザック様は私(ロティの身体)の髪の毛を指でクルクルと遊びながら、さらりと爆弾を落とす。
私ドロシー以外に興味も?関心も??
⋯確かにあの異常なまでの執着を思い出すと、他の女性に興味も関心も持つ余裕はなかったのかも知れません。
なぜ、エリオット様はあんなにも私に執着をされていたのでしょうか。
私にはいつも、狂気にも似た執着を見せていました。
「どうして僕を選ばないんだ」「どうして僕を見ない」「どうして僕を避けるんだ」「許さない」「どうして」「どうして」「どうして」
スケジュールを把握され、学園内の通る道を変えてもいつも視線を感じ、気が付けば目の届く範囲にいてじっと様子を伺ってくる。その姿を見せつけてくる。時には手首を掴まれ、腕を掴まれ、いつか人気のない所に連れ込まれるんじゃないかと常に怯えるようになり、人目の多い場所しか居られないようになってしまった。
ロティや友人達もなるべく一緒にいてくれて、そんな時は近付いてくることも減っていたけれど。
その分、捕まった時の執拗さが増したように感じて、恐怖がおさまることはなかった。
そんなある日、エリオット様に腕を掴まれいつもの様に怒声を浴びせられている所を、通りかかったオスカー先生に助けて頂いたのです。
先生は、エリオット様にクラスの用事を頼んで私から引き離してくれました。
そして、巻き込んではいけないと離れた場所に残してきた友人達と共に、私は、半ば強制的に事情を聞き出されてしまったのです。
友人達は「ああでもされないと、ドロシーは相談なんて出来なかったはずだ」とオスカー先生を絶賛していました。
確かに、私が簡単に相談をすることの出来る性格なら、そもそもエリオット様の言動もあそこまでエスカレートすることはなかったのでしょう。
しかし、友人達も学園には何度か話をしてくれていたようなのです。
それでも動けないほど、公爵家の機嫌を損ねることによる影響力というのは大きいようで、私が相談をした所で学園に迷惑をかけるだけ。
そう考えると、やはり簡単には相談など出来ません。
そんな私の性格や考えは先生にもすぐ見抜かれてしまったようで、何も言わなくても気に掛けてくださる様になりました。
間に入って庇ってくださったり、私が避難出来る場所を用意してくださったり、時にはエリオット様を諌めてくださる事もありました。
最近では、以前に比べるとエリオット様から直接何かを言われることは少なくなっていて、エリオット様の姿を見かけたり視線を感じる事は変わらず多かったけれど、同時に先生の姿を見かける事も増えていました。
その度に安心して、その内に、先生の姿を見ると心が温かくなる自分に気がついたのです。
そして愚かな私はその想いを告げてしまいました。
先生の迷惑も考えないで。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯、何をなはっていゆのです、イジー?」
私の滑舌がおかしくなったのではありません。
頬を両側からこう、指でこう、挟まれているのです。
ちょっと、本当に、何をなさっているのですか。
きっと私(ロティの身体)の顔、恥ずかしい感じになっています。淑女としてあるまじきです。
やめてください、アイザック様。
軽く非難の目を向けると、全く悪びれないアイザック様。いたずらっ子の様な笑顔がまぶしいです。
「んー?でも、ロティが可愛いのがいけないよね?」
ちょっと質問と答えが噛み合っていない気もしますが。ロティが可愛いのは同意です。
そして趣味趣向は人それぞれですからね。
アイザック様はロティの愛らしい顔を、こう、変な風にこう、するのお好きなのかも知れません。
はたまた私には想像もつかない理由があるのかも知れません。
アイザック様なら、どんな理由でどんな事をしてもおかしくないとは思います。思いたくないけれど。
「ロティが、僕じゃない男の事を考えて、こーんなに可愛い顔をするのが、いけないよ。⋯⋯ね?」
わぁあああ、アイザック様の性癖を疑って申し訳ありませんでした。
これは、怒ってます。正真正銘。間違いなく。
かなりの怒髪天です。
怖いです。笑顔が怖いのです。
「この前言ってた、意地悪、したくなっても仕方ないよね?」
ひぃぃいいいいいいい
ホールドです!両手で顔をがっちりホールドされています!!
目が!!目が本気です!
アイザック様!!!
ちょっと、これは、本当に良くない…
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ」
「なー、俺、呼び出されて来たはずなんだけど」
向かいの席から、救世主様の呆れたような声が聞こえてきました!!天の助けです!!!
「⋯ウォルター様⋯⋯っ」
「こんな人目を憚らないバカップルと相席するの、マジで勘弁だわ」




