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事件が解決したら憑依探偵令嬢と呼ばれてしまうのでしょうか  作者: モチダ


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学園の裏口に着いたシャーロットとアイザックは、従者から受けた報告の通り封鎖された出入り口を見ていた。

板を打ち付けて、出入り出来ないようにされている。


「エリオットの仕業かな?」


「間違いないと思うわ。あいつ1人でこんな芸当出来ないでしょうから、きっと護衛が手を貸したのね」


「学園の中はどうかな?校舎側から行けば近付けると思う?」


「簡単なバリケード位、置いているかも知れないけどね。元々誰も近寄らなくなっていた場所だから、そこまで厳重ではないと思うわ。⋯と言うか思いたい」


ドロシーが亡くなったその場所で、誰も近付かないように、誰にも邪魔されないように、何を企んでいるかなど明白である。

スタイナー公爵令息、弟の方、が待ち望んでいたことだ。


「さて、予定外の弟の登場で時間を取られてしまったから。早い所、エリオットを捕まえないとね」


午後の最初の鐘の頃、まであとわずかである。




校舎側から学園裏手のガゼボに辿り着く。

途中バリケードがあったが退かして通ってきた。

片付けるのはスタイナー家の護衛に自分でやってもらおう。


「待っててドロシー、もうすぐだ」


エリオットの声だ。


嫌悪と言うのかおぞましいと言うのか、とにかく堪らない不快さが込み上げてきてシャーロットは顔を顰める。

すかさずアイザックが優しく抱きしめてくれる。

その腕に身を任せると、アイザックの体温と鼓動を感じて、少し落ち着いてきた。


シャーロットはアイザックの身体に腕を回すと、ぎゅうっと抱きしめた。

何度か深呼吸をして、今度は優しく抱きしめるとアイザックを見上げる。

アイザックの困ったような笑顔を見て、思わず笑いが溢れてしまう。


「大丈夫よ。⋯本当は大丈夫じゃないけど、大丈夫にしてみせる」


「⋯⋯ロティの、望むままに」


そう言ってアイザックはシャーロットの額に口づけを落とす。

優しい婚約者をもう一度抱きしめると、シャーロットはエリオットのいる方を向いて深呼吸をする。



「⋯お姉様はアンタを待ってなんかいない、アンタとお姉様は同じ所にはいけないわ」




エリオットが、声のした方を見ると、表情を殺したシャーロットがいた。


知らない女だ。ドロシー以外の女。ドロシー以外の人間。

そんな事はどうでもいい。

ただ、邪魔者が現れた事に苛々する。


苛々するが、相手にしている場合ではない。

放っておくに限る。

だが待てよ。

この邪魔者がこのままここに居ては計画に支障が出るかも知れない。


追い出してしまおう、とそこまで考えて、エリオットはシャーロットの後ろにもう1人、アイザックが立っていることに気が付いた。


「お前⋯!」 


こいつは知ってる。

知ってる奴だが気に入らない奴だ。

この間、僕を呼び出しておきながら不愉快にさせられた。

そう、確か⋯⋯


「ドロシーの日記、そうだ⋯!!日記を僕にくれよ⋯!」


持ち歩いてはいないだろう。

きっと大切に保管してあるはずだ。

なんせドロシーの日記なんだから。


それを取りに行かせれば、ここから追い出すことが出来る。

本当はドロシーの日記を読みたかったけど、そんな事はもうどうでも良い。

なぜなら、もうすぐ僕はドロシーに会えるんだから。


「もう一度言うわ。お姉様は、ドロシー・バートンはアンタを待ってなんかいない」


⋯⋯⋯⋯なんだ、この女?


「ドロシー、が⋯僕を⋯」


なんでそんな事を言うんだ。

なんでそんな嫌な事を言うんだ。

なんでそんな、邪魔を


「お前、嫌な奴だな⋯!!消えろ!消えてなくなれ!!」


エリオットがシャーロットを睨みつけながら怒号する。

シャーロットは目を伏せて歯を食いしばる。

次々と湧き上がる、ありとあらゆる悪感情を拳を握りしめて抑える。


「アンタ、死んでお姉様を殺した罪から逃げるつもり?⋯お姉様を真摯に愛することから逃げて、お姉様に犯した罪からも逃げるの?」


「誰が、誰が逃げるもんか⋯!!僕はこれからドロシーに会いに行くんだ!!!邪魔をするな!!」


シャーロットは溜め息を1つ吐くと、ハッキリと告げる。


「アンタは死んでもお姉様には会えないわ」


エリオットが腰ベルトに下げたままのナイフを握りしめる。


「⋯⋯会えるさ!ドロシーが刺されたのと同じ時間に!ドロシーが刺されたこの場所で!ドロシーと同じようにあの花壇まで歩いて行くんだ!その一歩一歩が僕をドロシーの元へと連れて行ってくれる⋯!!ああ、楽しみだ⋯⋯」


「何度でも言ってあげる。アンタはお姉様に会えない。お姉様はアンタを待っていない。アンタはお姉様と同じ所には行けない。何故なら、アンタがお姉様を、殺してしまったからよ」


シャーロットが眉を顰めて苦しげに吐き出すと、エリオットは信じられないものを見たように目を見張る。


「僕が、ドロシーを⋯⋯、違⋯、そんなつもりじゃ⋯」


「⋯⋯だけど、お姉様を刺したのはアンタだわ」


「くっ、ははははは!そうか、⋯()()()だな!!⋯()()()は「ナイフを見て、ドロシーを刺すなんてとても出来ないと思った」、⋯だって⋯?⋯僕だってそうさ!刺したくて刺したんじゃない!そんな事しない⋯!!あれは⋯、あれは、()()()()()()()()()()んだ」



言い訳めいて聞こえるそれを、真実なのだろうとシャーロットは、どこか冷めた頭で考える。




突如現れたエリオットがオスカーを後ろから殴る

ドロシーの目の前には、頭を殴られて倒れるオスカー

そしてエリオットがナイフを取り出すのを見たドロシーは⋯⋯


「⋯そう⋯、お姉様は、先生を庇って⋯⋯」


シャーロットの呟きに、エリオットが即座に反論する。


「違う!アイツは関係ない!ドロシーは僕が!僕に⋯刺して、もらいたくて⋯それで⋯⋯」


「そして、お姉様はアンタから、逃げた」


「違⋯、ドロシーは、⋯僕に、追いかけてもらいたくて⋯それで」


「アンタは、追いかけた⋯?」


エリオットはかぶりをふると勢いのなくなった声で続ける。


「いや、⋯アイツらに、邪魔をされて⋯、それで⋯」


「そう、⋯護衛がアンタを押さえるのを見て、お姉様は、逃げるのをやめて⋯、そう、⋯助けを、求めることにしたのね⋯⋯」



頭を殴られて倒れたオスカーを助けてもらおうと、ドロシーは裏口に向かう

お人好しなドロシーはエリオットをも庇おうとしたのかも知れない

それとも、単にナイフが刺さっていては怖がられる、もしくは不審がられる、と考えたのかも知れない


とにかくナイフを抜いてしまえば、一見して「ナイフで刺された」とは気付かれないだろう

そう思い、ナイフを抜いた

自らの手で

それが自分の命を奪う事になるとは知らずに





エリオットをフロックハート家の従者に任せると、アイザックはシャーロットをガゼボで休ませる。



「⋯⋯エリオットが何をしようとしているか気付いていて、黙って見ていたんですか?」


自身にもたれ掛からせたシャーロットの頭を撫でながら、アイザックが静かに、けれどはっきりと口にする。


「それとも、自分の手で⋯なんて考えていましたか?」


返事がないのを確認すると、今度はシャーロットが問いかける。


「オスカー先生」


ガゼボの影から姿を現したオスカーは、ばつが悪そうに笑っている。


「あー⋯な、うん、⋯⋯⋯どうなんだろうな。⋯自分でも分かんねえ」


誤魔化しでも何でもない、正直な気持ちなのだろう。


「⋯でも、止めようとしてなかった、ってのは、⋯ああ、当たってる⋯⋯」


「先生らしくありませんね」


シャーロットはあえて抑揚をつけずに呟く。


「はは、そうだな」


「先生にあるまじきですね」


「はは、本当にな」


「⋯⋯お姉様の所為で捨てる様な矜持なら、お姉様の為にしがらみだの何だの捨てて愛する人の手を取るべきだったんです」


シャーロットがオスカーを見据えてキッパリと言い放つ。


「先生の後悔を晴らすための衝動を、お姉様の所為にしないで下さい」


「ああ、⋯本当にな」


オスカーが痛々しく笑う。

疲れを隠せなくなってきたシャーロットが、アイザックの胸にもたれたまま、つまらなさそうに口を開く。


「あ、独身を貫く、なんてのもやめて下さいね。お姉様に示せなかった分の愛情も、未来の妻子に注いであげてください。お姉様が喜ぶくらい、先生は幸せにならないといけないんです」


一瞬目を丸くしたオスカーが破顔する。


「喜ぶくらい、かあ。それは⋯ドロシーらしいな。はははっ」





「⋯⋯お姉様は誰の不幸も望んでいなかったからね⋯」


アイザックの胸元で、シャーロットの囁きが風に溶けていく。



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