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「イジーは、2人は会えたと思う?会えなかったと思う?」
ずるい聞き方をしてしまった、とはシャーロットも自分で理解している。
アイザックはいつだってシャーロットの欲しい答えをくれるから。
「会えていたなら良いな、と言う気持ちと、それはそれで複雑な気持ち、…だね」
アイザックは口元に指を添えて思案すると、困ったように笑った。
「複雑⋯?」
「告白の返事は色良いものでは、なかったのだろう?」
「⋯そうね。だけどお姉様は、悲しんで落ち込んでそれで終わる人じゃないわ」
公爵令息としては少々似つかわしくないかも知れないが、アイザックは恋愛結婚に大層憧れを抱いている。
それは自身の両親が政略結婚からの不仲、共に愛人を作り家庭を全く顧みない、と言う生い立ちに所以するものなのだけれど。
だからこそ、アイザックは愛するシャーロットとの婚約、結婚を強く望み、生涯シャーロットただ1人を愛し抜くと決めている。
そしてそんな彼だから、ドロシーの恋が成就しなかった事、そんな答えをドロシーが最期に受け取った事、その事実に姉を慕うシャーロットが悲しむだろう事に、心を痛めていたようだ。
シャーロットの言葉に嬉しそうな笑顔で答える。
「だったら大丈夫だ。…2人はきっと会えたに違いないよ」
「ふふ、イジーは私に甘いわね」
シャーロット個人的には会えたと思いたいが、主観を入れては見逃しが増えてしまう。
シャーロットは猫のように目を細めて笑うと、両手をパンと叩いて気合を入れ直す。
「さて、あらゆる可能性の熟慮、並びに、辻褄合わせの再開と参りましょうか!……会えなかったと仮定して」
シャーロットは悪戯っ子の様な笑顔を、隣に座るアイザックに向けて、続ける。
「会う前にどちらかが襲われた場合。もう1人は待ち呆けた末に襲われた。もしくは、捜すために移動した所を襲われた。と考えられるかしら?」
「位置的に前者は先生、後者はドロシー嬢かな?⋯その場合、先生は一度隠されていたと言うことになるね?」
「そうね、そちらのパターンは可能性はゼロでは無いけれど⋯現実的ではないわね」
シャーロットは頷くと、話を続ける。
「会う前にどちらかが襲われ、その場にもう1人が後から現れ、襲われた場合。2人を襲った後、お姉様だけを別の場所に移動させてから刺したと言う事かしら?」
「血痕が無かったならその可能性が高いと思う。⋯だけど、ドロシー嬢に刺された以外の暴行の跡はなかったはずだよ。意識あるドロシー嬢を無理矢理、花壇の方へ連れて行ってから刺した⋯と言う事?」
うーん、と目を瞑り思案していたシャーロットが、こめかみを押さえながら言う。
「ナイフで脅したなら比較的容易に連れ去る事も可能だったかも知れない。⋯⋯⋯容易に⋯?」
シャーロットは目を見開くとこめかみを押さえたまま瞬きを繰り返す。目線があちこち定まらない、思考もあちこち飛んでいるのだろう。
「ちょっと待って、⋯⋯いや、うん。あらゆる可能性を考慮する為に架空の犯人像で想像していたのだけれど。でも待って、⋯⋯⋯ねえ、イジー?」
アイザックは穏やかな笑顔を向けて小首をかしげると、シャーロットの言葉の続きを待つ。
「犯人は、十中八九、エリオットで良い?」
直球の質問に思わず笑いを吹き出してしまうアイザック。咳払いを1つして答える。
「⋯⋯実行犯はエリオットでほぼ確定だね。あいつは良くも悪くも悪事に向いていないな。あの自滅の仕方はどう贔屓目に見ても無関係ではないし、実行犯が他にいるならもっとうまくやったはずだ」
シャーロットも異論はないらしく数回頷くと、アイザックを見上げて言う。
「それなら、そんなエリオットとお姉様が、先生がいない場に2人きり、もしくは先生が倒れている場に2人きり、よ?しかもエリオットにナイフで脅されて、⋯お姉様は素直に歩けるかしら?」
「⋯怖くて言う通りに従うんじゃないかな?」
「言う通りに歩けると、思う?あのお姉様が?…エリオットの姿を見ただけでガタガタ震えて、今にも倒れそうだったお姉様よ?」
ふむ、とアイザックは先日のシャーロット扮するドロシーを思い出すと、困ったように笑う。
「⋯⋯気絶しちゃう、かな」
「そう。そして、そんなお姉様をあのエリオットが難なく運べるかしら?お姉様って女性にしては大きな方じゃない?意識のない人間は重量が増して感じられるそうだし」
ここ最近のやつれる前とは言え、エリオットは元々細身なのだ。
それでなくとも、脱力した人間は元の体重の約2倍に感じると言うのだから、鍛えた人間ならともかく非力そうな、きっと事実非力であるだろうエリオットに、易易と運べたとは到底考えられない。
「⋯⋯それこそ痕跡を全く残さないのは難しいかな」
「そうまでしてでも、場所を変える必要があったと言う事かしら?⋯わざわざお姉様と先生を襲う場所を変える理由は何だと思う?同じ場所の方がリスクが少ない様に思うのだけれど」
シャーロットがアイザックを見上げたまま尋ねる。
アイザックは口元に手を当てると、シャーロットを見つめ返して答える。
「ガゼボを避けたかったか、花壇付近である事に意味があるのか、⋯それとも、どうしても先生と離したい理由があったか」
「そもそもお姉様はナイフで、先生は殴るだけだったのはどうして?」
「⋯結果的に、先生は意識を失うだけで済んだだけかも知れないね?」
「意識を奪うだけで済もうが、生命まで奪おうが、どちらでも構わなかったと言う事?」
「生死は問わず、とにかく可及的速やかに邪魔者の排除をしたかった⋯?何か急いでいたと言う事かな?」
「それなら尚更、場所を移動すると言うのは矛盾しないかしら?」
「⋯⋯その場所に何か譲れないこだわりが、あった⋯?」
困ったような笑顔でアイザックがシャーロットを見ると、シャーロットはこめかみを揉みながら険しい顔をしている。
「⋯堂々巡りね。拘りを守る為には確実に邪魔者を排除した方がリスクが少ないと思うのだけれど。お姉様が恐怖のあまり意識を手放したとして、それでも先生の意識がすぐに戻らない保証はないわ。先生の意識がすぐに戻ったら、どうするつもりだったのかしら?」
「先生の意識がすぐには戻らない自信があった⋯?」
「先生は執拗に殴られた様子はなかったわよね」
「そうなると、⋯やはり、先生を殺したくはなかった、と言う事になるのかな?」
「殺すのはあくまでもお姉様だけ、⋯⋯やっぱり⋯心中が目的、だった?⋯⋯場所を変えたんじゃなくて、その場で刺された。だけどナイフが刺さったままお姉様が逃げた。だから血痕がなかった、とか⋯?」
痛ましそうに、悔しそうに言葉を紡ぐシャーロットの頭をアイザックが優しく撫でる。
その手を肩や背中に移動させると、トントンと叩きながらアイザックが尋ねる形で続ける。
「ドロシー嬢を刺したのと同じナイフで心中したかったけど、逃げられた為に叶わなかった、⋯と言う事?」
「ええ、⋯だけどナイフは現場では発見されずに、後で先生の私物から発見されてる」
「エリオットから逃げる途中、もしくは、逃げた先でナイフを抜いた⋯?⋯⋯誰が⋯?」
「持ち去ったのは⋯ウォルター、よね?何のために?その時から先生を犯人にする心算だったの?何故、エリオットでは駄目だったの?そして、⋯お姉様を助けなかったのは、どうして?」
悲痛な声でシャーロットが呟くと、眉を顰めたアイザックが戸惑いを含んで尋ねる。
「⋯⋯⋯ナイフを抜いたのは、ウォルター先輩⋯?」
「⋯それは、⋯どうかしら⋯⋯ナイフを抜いたりなんてしたらどうなるか、⋯ウォルターが知らない筈がない。⋯ウォルターが、自分で何か行動を起こすタイプだとは、どうしても思えない⋯」
「ウォルター先輩がドロシー嬢を見つけた時にはナイフは抜かれていて、既に助けられる状態ではなかった⋯と言う事?」
「その可能性は高いと、思う⋯けど分からない。⋯⋯分からない事は他にもあるわ。エリオットは殺さずに殴るだけで済ませた先生を、その後もまた狙ったのはなぜ⋯?心中が失敗したから⋯⋯?」
しばしの沈黙のあと、徐ろにシャーロットが口を開く。
「………どうだった?」
「悪くないと思う」
「⋯悪くない、けど、見過ごせない粗が何ヶ所があったわね。⋯⋯きっとこれも真相ではないわ」
これまでもシャーロットとアイザックの間で幾度となく繰り返されたやり取りに、シャーロットは深い溜め息を吐く。




