表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
事件が解決したら憑依探偵令嬢と呼ばれてしまうのでしょうか  作者: モチダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/25

23

「最後に、先生。一昨日に先生を襲ったのはどんな奴でしたか?」


後ろから殴られそのまま意識も記憶も喪失したと思われる事件当日と違い、一昨日は返り討ちにしたと言うのだから一目くらい姿を見ているはず、とシャーロットは尋ねてみた。


「顔を隠してたし暗かったからよく見えなかったけど、⋯全身黒っぽい服で、痩せ型、背の高さは⋯これくらいだな?」


オスカーは記憶を絞り出す儀式か何かの様に眉間のシワを揉むと、自身の肩の辺りで平行に手を振る。


「その身長差だと、後ろから棒の様なもので殴られたら耳の後ろ、少し下に当たりますね」


シャーロットはそう言いながら右後頭部の耳の後ろ、先程オスカーが自分の頭を指差した辺り、を示す。


「とは言え、先生の背が高いだけで、襲撃犯は男性だとすると、平均的な身長と言うことになってしまいますね」


実際、エリオットもウォルターもついでに言うとアイザックも、それ位の身長だ。


「多分、…男、だと思う。いない訳じゃないだろうが女にしては体型が、な…。男にしては力も強くなかったが、女で多少鍛えていればあれ位は…いやでも、女であんなにガリガリであんな力は……」


ブツブツ言うオスカーは、「体型」と言う時に、掌を自分の胸元に向けて、手をブラブラとさせた。

「真っ平ら」と言いたかったのだろう。

確かにいない訳じゃないだろうが大変に失礼である。


そしてオスカーやオスカーを襲う輩に比べたら、大抵の人間は騎士でも目指していない限り「強くない」部類に入れられてしまうだろう。

まして、研究室に籠っているウォルターや、元々痩せ型で最近更にやつれたエリオットは、間違いなく「強くない」だ。

因みにアイザックは、シャーロットを守るためだと言って鍛えているので、もしかするといい線いくかも知れない。


「先生、今日こそ襲われる可能性もない訳では無いので、くれぐれもお気を付けてお帰り下さいね」

「事件と全然関係のない、私怨で襲われる可能性もありますからね。物陰や背後には特に注意した方が良いかと」


言いたい放題のシャーロットとアイザックだが、2人なりにオスカーを心配しているらしい。


「九分九厘ないと思いますが、もし襲われたら、その時は無理のない程度に捕らえてみて下さい」


2人なりにオスカーを心配しているはず、である。



「……昨日の今日であのヘタレ野郎が絡んでくるとも思えないから、今日はもうゆっくりお茶でもしましょうか」


オスカーが出ていった店の入口をしばらく見つめた後で、シャーロットが穏やかな笑顔をアイザックに向ける。


「エリオットの姿も見えないし。ふふ、ようやく2人で過ごせるなら、落ち着ける個室の方が良さそうだ」


アイザックは、尻尾があればブンブン振るのが見えただろう。嬉しそうにシャーロットの手を取る。



先程まで居たカフェとは違い、秘匿性の高そうな店の個室に移動すると、アイザックはソファに腰掛けシャーロットを膝に座らせる。

ドロシーの時と違い、シャーロットは人前でアイザックの膝に座ったりはしないのだ。


まだ体力が戻りきっていないのだろう。少し疲れを見せるシャーロットは、アイザックの胸に顔を埋めながらポツリポツリと言葉を吐き出す。


「……折角、素敵な個室を取ってくれたんだもの。お言葉に甘えて、人目なんて気にしなくて良いと言うことよね?」


「ふふ、…仰せのままに」


聞くが早いか、口を真一文字に結んだシャーロットが勢いよくアイザックの首にしがみつく。


「うー………っ、犯人が分かれば良いってものじゃあ、ないのよ。私は何があったかなかったか、それが知りたいの…」


悔しそうに吐き出すシャーロットはアイザックの肩に顔を埋めている。

泣いていると思われたくはないが、弱っている顔を見られるのも嫌なのだ。


「でもね、それには情報が少なすぎるのっ、先生の記憶がないにしても、それにしたって、情報が少なすぎると思わない?……お姉様と先生が、会えたかどうかすら分からないなんて、…誰かの、何らかの意図を感じるわ…っ」


「確かに。…先生が意識を取り戻した時、ドロシー嬢が居た形跡も、ドロシー嬢が襲われた形跡も無かったようだし。ドロシー嬢の方にも同じ事が言えるね」


アイザックはいつでもシャーロットを否定しない。

それを知っているからシャーロットは出来得る限り冷静に客観的にいたいと常々思っている。それなのに。

シャーロットは先刻から溜め息とも、うめき声ともつかない声が止まらない。


「うー…、血痕じゃなくても、踏み荒らされた跡なり引き摺られた跡なりが、あれば…っ。それか散乱した荷物、もしくはそれを拾い損ねた記名付きの私物、…なんて言うものでも、良かったけど……っ」


「ふふ、2人分の飲み物か食べ物、もしくは持ち主が普段決して口にしない飲食物または嗜好品…とか?」


「待っている間に花占いをした花の残骸だとか…。迷いを断ち切り煩悩を捨て去るために頭を打ち付けた木の傷だとか…っ」


「それは木の方?額の方?」


「両方だと尚良しよ。…はぁー……、付近の店で購入した、「これから、もしくは次の日曜に会う大切な人への贈り物」だと店員の証言付きのプレゼント、なんてものがあれば最高だったんだけどね…」


顔を埋めたまま頭をグリグリと動かすシャーロット。

なかなか働かない脳を、物理的に動かしてみる作戦だろうか。

その感触や髪の毛がくすぐったいのか、珍しくやさぐれているシャーロットも可愛いと思っているのか、アイザックはくすくす笑いながらシャーロットの頭を優しく撫でる。


「先生が花束なんて抱えていたら、ふふ、ちょっと、笑ってしまうかも」


「イジーは素晴らしく似合うわよ。イジーの髪に挿してあげたいくらい」


アイザックの髪の毛を指で遊びながらシャーロットが不貞腐れたように言うと、アイザックがシャーロットの髪の毛に口づけを落とす。


「それなら僕はロティの為に花冠を作るよ」


「………不毛な現実逃避に最後まで付き合わなくて良いのよ、イジー」


いい加減恥ずかしくなってきたシャーロットが、照れ隠しの様な少し拗ねた顔でアイザックを見上げる。


「僕はいつだって本気だよ、ロティ」


「知ってるわ、イジー。あなたはいつだって私に甘いのよ。…ありがと、お陰で少し元気になった。引き続き、答えのない辻褄合わせに付き合ってくれる?」


「ふふ、喜んで」



リフレッシュと糖分補給を兼ねて、お茶と甘いお菓子を口にする。

シャーロットが膝から降りて隣に座っているのでアイザックは少し不満そうだ。


「……先刻の与太話の続きじゃないけど、「被害者が握りしめていた、犯人の服の切れ端とおぼしきもの」…なんて類の、証拠か捏造か分からないものも、なかったわね?」


「…つまり、その段階では先生を犯人に仕立て上げる心算はなかったと言う事?」


「穿った見方をするなら、お姉様の死に先生を関わらせたくなかった。先生は居ないものとしたかった。居たのはお姉様と犯人の2人だけ。……そう、例えば…()()()()()()()()、…とか?」


シャーロットとアイザックがしばし沈黙のまま顔を合わせる。


「……失敗、したのかな?」


アイザックはシャーロットを否定しない。にっこり微笑んで全肯定である。

気まずそうにごにょごにょとシャーロットが答える。


「……怖気づいたか…邪魔が入ったか…」


「ふふ、無能な護衛達も命の危機は流石に見過ごせなかったと言う事かな」


「うーん…、怖気づいて逃げ出したならともかく、邪魔をされたのなら抵抗の跡がありそうなものだけど。…花壇の花が荒れるとか」


「そこはほら、無能なりにエリオットを捕らえるのはお手の物だったとか」


ニコニコとエリオットにも護衛達にも失礼な発言をするアイザック。

シャーロットは眉を顰めて呆れたように尋ねる。


「…あっちの公爵令息には逃走癖でもあって、護衛達は暴れさせないで捕まえて運ぶのがすっかりお得意になってしまったと言う事?」


「公然とそんな扱いを受ける公爵令息なんて聞いたことがないね。…何とも前衛的だね」


「そんな不名誉な先駆者になってどうするのかしら…、って、え?待って。これはあくまでも想像の話で良いのよね?」


図らずも的を得てしまったのではないかと、シャーロットは考えるのを止めにした。

与太話で藪から蛇なんて冗談じゃない。公爵家に睨まれるのは御免被る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ